二百三生目 食欲
私が封印……ではなく寝かされて治療を受けている間に複数の相手が見舞いにきた。
真っ先に来たのはアヅキだった。
「おおー!! 主!! よくぞご無事で!!」
「うるさい静かにしなさい」
ユウレンから冷静なツッコミをくらい私の顔に超接近して大声でわめいたアヅキはやっと離れてくれた。
「大丈夫、大丈夫。もうこの通り平気だって」
「いや、どこも平気そうには見えませんぞ、主よ……」
う、アヅキから見てもそう見えるか。
ちなみに今は私は普通に話しアヅキの身につけている受信機を通して翻訳してもらっている。
スキルを使うための行動力は全て私の回復にあてるというやり方をしているためだ。
「普通ではない破壊能力を喰らって、根源的なダメージを負っていたのよ。たまたま治療できる環境がいたから良かったものの間違いなく平気ではないわね」
普通の戦いが肉体を傷つけ生命力を削るものなら今回の破壊ダメージは生命力の上限そのものを壊す。
肉体の治癒力を阻害し破壊してしまうというものだ。
深刻な重症を負ってまともな治療が受けれず戦いから引退するニンゲンもいるそうだが大半の理由がその『治癒上限破壊』ダメージだそうだ。
身体がその分の治る力を失うというもはや聞くだけで恐ろしいダメージ。
それが私が喰らったダメージの正体だった。
なので今私が自力で治そうと魔法陣から出て魔法を使っても色々と壊された強さは治らないそうだ。
ぶっちゃけていえばレベルが下っているようなもの。
かなり困ったものだ。
アヅキと異様に賑やかに話したあとになんとか一度帰って貰ったら今度はコボルトとカムラさんが来た。
「あ、ローズさん随分と鼻先の調子が良くなりましたね」
「うん気分的にも元気な気はする。ただ身体が重いよ」
「救ってもらった身ですし全力を尽くさせてもらいました」
「うんありがとうみなさん。おかげで助かったよ」
コボルトが調子を効いてきてカムラさんが腕を奮ってくれたことを言った。
ユウレン含めて3人はそれぞれ別方向で治療が行えた。
ひとりではムリでも3人で魔法陣と原因究明と治療を行ったらしい。
「ローズが自分自身の能力で苦しめられて、魂が傷の上に塩を塗り込むようなことをしていたのが分かった時は驚いたわよ。まあ私にかかればどうってことなかったけどね」
「あの時は良くわからない上大変だったよ……」
「魔物の肉体には詳しくないのでコボルトさんに伺いながら医療を施しましたが、どこか不具合はありませんでしょうか?」
「うん、大丈夫みたい」
やはりあの悪夢のようなところから引っこ抜いてくれたのはユウレンだったらしい。
そしてカムラさんはコボルトと協力して魔法以外の医術も使い直してくれたようだ。
具体的には……関節の向きをなおしたり。
「私の能力の生命力を行動力に変えるものをみんなで分析して、もともとあった魔法陣の書き方を参考に手を加えて……思い返すとめまぐるしくもすごく役にたてた時間でした」
「本当にありがとう! おかげで動けないけれど治るみたいだから」
「ローズが動きにくいのは、行動力がからっけつになるまで治療に回しているせいでもあるのよ。 行動力が本当にゼロに近いとそうなってしまうもの」
「おかげで動けないのにものすごくお腹がすくよ」
コボルトの変換スキルを参考にユウレンが持つ魔法陣参考書とカムラさんの知識で文字通り魔改造したのが私ごと囲んでいる魔法陣。
ちなみに『かなり効率が悪い』部分もそのままらしく、むしろ成功しているのが奇跡的。
……だと思ってたらユウレンからこっそり聞いたら、
「ああ、そのこと? 1発勝負で行けるわけないじゃない。失敗したら身代わり人形が壊れる仕組みにしたもの」
とのこと。
あー、あの壊れた土偶の山は……
成功は多大な失敗と犠牲の上になりたっている、ということか。
それにしてもやはりお腹が減る。
行動力がガンガン削られドンドン新しく作る必要があってグングンお腹が減る。
カロリーがエネルギーになるのだ!
[無尽蔵の活力 +レベル 7→8]
ログの方にもまたこういうお知らせが。
そりゃあ今最大限に行動力使っているものね。
このスキルの出番だものね。
3人は定期的に調子を見に来てくれるそうでユウレンは特に微調整を頻繁に行う。
本を読みお茶をすすりながらついでのようにあれこれと身体を拭いたり床ずれを防ぐために寝る向きを変えてくれる。
片手間に見えるが結構重労働なはずなのに顔色1つ変えずにやってくれるのはとてもありがたい。
料理やそのまま食べられるきのみも次々アヅキが運んでくれて片っ端から食べる。
太りそうだが実際は逆で食べないと体中の脂肪と筋肉がみんなもっていかれて骨と皮になるっぽい。
アヅキの味付けはすごく私に合っているから食が進む進む。
そんな間にもあまり知らない魔物から良く知っている魔物までたくさん会いにきてくれた。