九百八十六生目 均衡
コネパワーで神を異空間に呼び出した。
空間に1つ雷が落ちるとその姿があらわになる。
それは神の姿ではない。
「この場は均衡に非ず。故に我は此処に降誕す」
淡々と語るそれは生物ではない。
そもそも口というものが見当たらない。
なぜなら繊細な細工はされているものの左右にまったく釣り合うように吊るされた物だったから。
大きなそれはニンゲンのものではないと主張するようで。
ニンゲンが作るしかない物質であるかとは間違いなくて。
それはどう見ても。
「天秤……」
ユナがそう呟いた。
明らかな天秤。
どうみても天秤。
釣り合った天秤。
「我はこの場で語る名を持たず。故に我は均衡と名乗ろう」
「なっ、均衡を司る神だってー!? くっ、わりかし新しいくせに、やたら偉そうな神を呼んだなぁ……」
「天秤は人が見出し概念。しかし均衡は人のもの非ず。宇宙そのものに均衡は在り。故に神は宿る」
均衡はニンゲンが定義付けした概念だけれどそもそも世界に溢れる概念だから割と強力ってことかな。
顔のない神が『新しい』というあたり顔のない神々のふるさが気になるけれど。
「それじゃあとりあえず呼んだけれど、戦いは何をする?」
「そりゃあ、最も公平で、イカサマなしでやるのは、片手でもできる原始的な遊び……」
VVはグーに拳をかためる。
「ジャンケンで、決めようよ」
細かくルールを詰めて均衡の神が話を詰める。
「では、我が審判す。我は貴殿らの心を読み取り、天秤の傾きを察する。故に偽答は意味のないものと心得よ」
均衡心はたとえ神であっても敏感に嘘へ反応する。
それを利用したジャンケンになるわけだ。
「がんばってくださいロードさん!」
「以下は今回の規定とす。まず互いに心中にて出す手を思考せよ。そして、1つを決め心中で宣言せよ。そののち、出す手を変えることかなわず。宣言が揃い次第、我は構えと発語する。我に均衡を誓え。それは貴殿らの均衡を約束する。その後互いに準備の語を唱え、宣言通りの手を出すとする。規定を違えるか、拳は手開きに、手開きは2本指に、2本指は拳に負けるとす。同じ手ならば、相殺とし、宣言からのやり直しとす。その他、能力による読心、現実改変、洗脳等は禁止とし、した時点で敗北とす。その他、妨害や規定外の行動を我が判断し、敗北とさせる権限を持つ。以上を規定とす」
ものすごい難しい言い回しでジャンケンをやることが宣言された。
こうしないと途中で手を変え品を変えって出来てしまうからね。
互いに封印した。
私とVVは互いに見合う。
もうこれでイカサマはできない。
それは向こうからしても同じだろう。
VVは私の方を強く射抜くように目で見てくる。
「もう引けないからねー。今更やめたと言っても聞かないよー?」
「まさか。そっちが持ってきた勝負だから、逃げるのも違うだろし……」
私はVVに対してフラットに向き合う。
さて私は確かに運ゲーは苦手だ。
全然さっきの麻雀でもいいところなかったし。
だけれども。
「ランダムに手札が配られる中で戦うのは苦手だけれど、ある手札の中で最適解と勘で回答するってのは得意なんだ」
さて精霊たちは私を応援するのか……
VVを見に行くのかな?
────VV側の視点。
ヨシ!
ヨシヨシヨシヨシヨシ。
首の皮1枚繋がった。
アタシがキレてゴネれば通せるという算段はあった。
もちろんやりたくないプランだしそもそも負けるなんてほんとありえないんだけれど。
ズブの素人ふたりに……
ローズオーラ……そしてロードライトである目の前の相手。
澄んだ琥珀のような瞳に水色の毛皮を持ち灼熱の赤い髪の毛が長く連なるその姿を魔物であり神だとアタシは知っている
ニンゲンであればきっとモテモテのハーレムを築けそうな顔立ちだとも。
しかしそこじゃない。
そんなものは目の前の存在を言い表すのに正確な言葉ではないんだ。
アタシが知っている情報……彼は奇特な記憶能力を保有する転生者だということ。
それだけが大事だ。
知ったのは偶然。
他のやつらは何かうまくいかなかったような雰囲気があったけれどアタシは違う。
事前にいくつもの策を用意しておいた。
まさか色仕掛けや心理誘導もほとんど意味ないなんて。
これでも自信はあったんだけれど。
むしろひとり心を奪われてしまっている。
ただ別の相手は引っかかった。
若干面倒くさい方向に行きそうになったので何人か握手の衝撃で強く酔わせ複雑なことを考えないようにさせる。
ひとり……たしかローズオーラの兄に避けられたけれど。
そして騒がしいやつをお胸に添わせ恋は電撃で電流をおくりこんでアタシに恋をさせようとして……
いきなり相手の雰囲気が変わってレジストされちゃった。
何が対策されていたのかな?




