九百八十五生目 結界
誰も何もいえなかった。
これはおかしいことが起きて現場がフリーズしたみたいだ。
「そ、そうだ……イカサマ……きっとイカサマを……」
「わたくしめたちが何かをしたと?」
「……!」
「VV、イカサマが発覚したときは罰符、しかしそれは明かせた時のみ……だったよね。むしろVV、こちらは証明できなかったから黙っていたけれど、実はそっちのカメラから見たら、割とイカサマしていたのでは?」
「そ、そんなのは!」
「そう、互いに指摘できない。だから、終わりなんだよこれで。事前に説明があった通りのルールで運営され、これで終わり」
「少なくとも……私が気づく範囲の何かはありませんでした。もちろん、それがすべての潔白を示すわけではありませんが……ルール上それは白です」
それにエイナ自身はイカサマをしなくともエイナはVVのイカサマを指摘するメリットはまるでない。
信条と勝ちあがりのおりあいをつけるならそのあたりだろう。
VVはあそこまで宣言していたからイカサマはしている。
そして指摘されるような甘い手は打っていない。
だから絶対的有利だった。
だからこそ。
VVの顔が本格的に変わったのに悪寒を感じざるをえなかった。
「みんな、楽しい楽しい配信に来てくれてありがとう。だけど……ここでちょっと終わるよ。ポイチャは後で読ませてもらうね……じゃあ、来てくれてたりがとう」
VVは淡々とそれを言う。
カメラの機能がオフになったのはわかった。
エイナが困惑しユナもVVから目を話せない。
その美しくかわいらしいはずの顔が奥歯を噛み締め歪んでいたのをカメラに見せず話していたのだから。
「……何をするつもりですか」
「うるさい」
「VV様……?」
「負けられ、ないんだよ!」
VVは指を鳴らすとその響きに神の力が強く込められているのがすぐにわかった。
それは簡易的な神の場を生み出す。
周囲が急に次元が歪み違うフィールドに閉じ込められた。
出ようと思えば出られるが……そういう感じの空気じゃないねこれは。
私とユナそれにエイナも閉じ込められている。
作ったVVは言わずもがなここにいた。
「一体何なんですかー!?」
「VV……」
「まだだ! まだ終わっちゃいない!! 誰が1回勝負だって言った!? まだアタシは負けていない、ロードライトはまだ、アタシを勝負の場に出しただけだ!」
メチャクチャなことを言っている。
そしてその自覚もあるのだろう顔の歪み方。
だがこれはむしろ好機と捉えたほうがいいかもしれない。
「やっと化けの皮が剥がれたね、顔のない神!」
顔のない神はみな神にしては異様に生き汚く生き残ることに必死だった。
そして狡猾勝つ独善的。
ある意味神らしい驕りゆえに他者を見下し対等に立つことはない。
そんな相手が今奥歯を噛み締め鳴らしこちらをまっすぐ見つめている。
目で射殺すほどの殺気。
やっと対等な舞台に引きずり下ろせた。
「やってもらうよローーード!! アタシとサシでさあ!!」
「こっちは勝ったんだよ、虫が良すぎると思わない?」
「調子に乗らないでよロードライト。そっちはあくまで挑戦者。アタシは借金肩代わりなんて、しなくても良かったんだ。あれはイカサマなしの純然たる遊んだ金。ただの人相手に偽装搾取しなくちゃいけないようなヤワな構図はしていない」
「へぇ……」
確かにVVはブチギレている。
ブチギレてはいるがそれ以上に冷静だ。
というか借金は仕組んでなかったんですね。
エイナは困ったような眉でVVを見てそれから私を見ておじぎする。
多分止めてくれってことだろう。
ユナは私の背後に隠れてしまった。
さてそれじゃあ……私もこういう窮地にこそ輝いてみよう。
悪運とはつまり昼行灯のことだ。
もっと昼間から役立つ設置物でもありたいなあ……
さてここままでは旨味がない。
VVが通せる範囲で言ってみるか。
「そちらの痛手になるようなお願い一つ、聞いてもらうからね。今度はこちらが受ける側なんだから、それぐらいは融通きかせてよ」
「だったら! そっちが負けたら情報、全部もらうよ……!! 転生者!!」
「何? 何が起こってるんですか?」
「ユナには後でちょっと説明するね」
VVの狙いはやはりそこらへんなのか。
エイナがもちえない何かを求めていると。
ユナはテンセイがどうのうこうの言われてもわけがわからないし。
「ロードライト、神前試合にする。神を呼び込むんだ。アタシたちだとコネがないが、5大竜の力ならば暇な神を呼び寄せられるだろうよ」
VVに言われた通り手探りで蒼竜の首飾りに願いと力を込める。
すると思ったよりもすぐに空間が歪んだ。
コネパワーすごい。




