九百八十三生目 怪獣
ユナが捨てVVが捨て。
エイナが捨てて私が捨てる。
そしてまたユナに戻る。
やっていることはとにかくそれだけだ。
山から拾って河に流す。
全員鳴きもない。
さっきまでカメラに向かってずっと話していたVVも私達を睨むように話す。
やっと向きあう気が起きたらしい。
「さぁ〜〜、何を狙っているのかなー? ロードはそうだなぁ……牌がおかしい捨て方。もしかして国士無双? まあここからひっくり返すには役満くらいじゃないと駄目だよねー!」
──顔には出さなかったけれど驚いた。
まさか的確に当てていくとは。
まだ1列終わっただけなんだけれど。
やはり慣れている。
圧倒的に強い。
そもそも防御をしっかりできていた時点でずっと強い。
明らかな格上の相手。
目に宿る殺意は普通に戦うよりずっとこちらを射抜いてくる。
どうなるやら……
「ユナは……うーん、もしかして安い? わかりづらいけれど、多分高い手ではないよね。断么九とかかな? 七対子かもねえ。だとしたらやりづらくはあるけれど……2回もチャンスは来ると思わないほうが良いよー?」
「大丈夫です。わたくしめは、みなさんの期待に答えられるよう、努力するのみですから!」
「……へぇ、いい顔するじゃん」
ユナは笑っていた。
しかしその笑みは人々を引き付けるそれではない。
牙をようやく研ぎ終わった……そういった顔。
本気の顔は……殺意の表れ方はそれぞれによって違う。
VVのように目力に表れたり。
エイナのように立ち昇る気配として表れたり。
そしてユナが初めて見せた殺意は内側にためてためこんだエネルギーが……それでも体と心の外へ表出してしまう抑えきれないワクワクだった。
彼女は人一倍喜びと興奮をするタチだ。
ただそれはユナ自身に制御できない癖……緊張癖がつく理由にもなる。
喜びと興奮を人一倍感じるからこそ親の魔法を見様見真似で出来上がるまで興味が持続するしそれを外に向けて発信するために舞台にまで上がってくる。
しかし同時に成長するにつれ大人の嗜みというか……つまり普通に考えたり世の常識を推し量ったり他人の目を気にしたり出来るようになった。
それが自分だけ興奮することを自然に抑える癖へ……そして緊張癖へなっていくのも気づかずに。
時は子どもをまっとうな人物にはしたが同時に多くの鎖て縛り付け無理やり調伏させたにすぎなかった。
今獣は不要な鎖から解き放たれた。
喜びという獣を己のものにするにはただ解放をする時と場を理解するだけでよかったのだ。
もはやユナは獣そのものである。
理性のある猛獣ほど恐ろしいものはないだろう。
「……これほど短期間でここまでの成長をしてくるとは。それとも、ツカイワ様の影響でしょうか?」
「成長ですか? もしわたくしめが変われたとしたら……それは間違いなく、彼の、ロードさんの影響です」
「それは、なにより」
エイナはユナのかわり具合を見抜いた。
あれはユナの本来持っていたポテンシャルが解放された気配なだけで元々ユナ自身の力だ。
私がなにかしたというよりもユナが自力で気づけたのが大きいのだろう。
力が強くなったり魔力が増したり出来るわけではない。
ただここぞというところの胆力は比較にならないほどに高まっている。
麻雀は相手のすご味に負けず戦略的に勝つゲームだ。
今ユナは最高に楽しんでいる。
ならば手元に来る牌はそれに伴うだろう!
『ユナ、調子はどう? イカサマはやる?』
『もう使っています。これがわたくしめの魔法なんですね……相手ふたりとも何の牌を揃えているか見えます。危険牌を教えますね』
『え!? あっ、うん』
ユナは凄まじい手を打っていた。
もはや味方からだますとは。
伊達に気配が変わっていない。
私はユナから危険牌を教えてもらいつつ打つ。
やはりイカサマがバレる様子はない。
前のユナなら多分緊張してバレていた。
「くぅ……攻めきれない!」
「落ちてくるかと思いましたが、なかなか……」
VVはかわいらしく美しいという雰囲気の顔を今や歪めて牌を睨んでいる。
エイナは一見かわらないがかなり悩んだ顔をしているあたり既に手は進んでいるらしい。
『どうやっているかはわかりませんが、双方一向聴です。VV様は怪しい気配はあったんですけれど……それに、もう向こうの探知に引っかかるので、イカサマをきります』
『わかった。でもここからはもうほとんどわかっているから大丈夫。それよりも、ユナのを揃えることだよね』
私はユナに牌をうまく投げられるように備えておく。
どうすればユナの必要な牌を出せるか……おっ?




