二百二生目 治療
私は気づけばどこかで寝転がっていた。
下には柔らかいものが敷かれているから……何かの布だろう。
あれ……?
さっき何か……
そう、魂の世界で何かおぞましいものを延々と見せられていたんだった!
(あれは……何なんだったんだ?)
(うええ、キモチワルイ)
ドライが疑問をアインスが感想をもらす。
当たり前と言えば当たり前だけど、ふたりも味わっていたらしい。
直接恐怖の神経にすり込んでくるような、逃れられない恐ろしさだった。
それは私が魂系統の扱いやスキルが少ないせいで抵抗できなかったからだろう。
頭で理論武装しても無駄なのだ。
知恵あるものも無知なるものも等しく魂に攻撃を喰らってしまう。
それで確かそのあと……『戻ってきなさい!』とユウレンに呼びかけられ無理矢理引っこ抜かれるみたいに助けられたんだったな。
あんな状態から平然と引っ張ってこられるのはさすが本職である死霊使いと言ったところか。
そして……ええとその後に……
(確か『これがお前の使命だ』って聴こえなかったか? 最後の一瞬だけどさ)
(あー、きこえたような)
ドライの言うとおり確かそんなような言葉が聴こえた。
あれは誰の声だったんだろう。
声、としては認識出来るけれど、何の言語で高いか低いか何もわからなかった。
そう、ログやスキルツリーで書かれる文字のように、読めなくても言葉として理解してしまうというもの。
あれかな魂が理解する云々という言語なのかな。
これも無知も知るものも等しく理解ができると。
あ、そういえば……ニンゲンやドラゴンはともかくこのログやスキルツリーに書かれる文字。
魔物のみんなは読めても意味を理解しているのかな?
何となくそこの理解も浅いから下手にスキルを取らない魔物が多い……という気もしてきた。
このことは後で確認するとして話が脱線した。
あの命枯れた光景に助けを求める声に『使命』……
明らかに私の前世や今世でやらなくちゃならないことに関与しているよね。
ただ何を伝えたいかさっぱりわからない。
魂に恐怖刷り込まれて何もかも終わった景色をむりやり視せられてだからどうしやあ良いんだとなるばかり。
さて、そろそろ起きよう。
とんでもなく目を開けるのも重くつらい気分だがあまり心配かけるのも問題だろうし。
そっと……というより気持ちは必死に目を開けたのにそっとした勢いでまぶたが開いた。
「あ! 良かった、起きたのね」
声を出して目の前で座っていたユウレンに声をかけるために光神術"サウンドウェーブ"を使う。
そう、いつも通りニンゲンの言葉へ音波を調整して……
あ、あれ?
不発?
すぐにログを確認する
[サウンドウェーブ 行動力不足]
え、あれ?
落ち着いてよくよく内なる力である行動力を感じるが……ない。
あのいつもの溢れんばかりの行動力がまるでない!?
「ああ、慌てているようね。ローズがいつものように話そうとしてもムリよ。今は緊急手段としてローズの行動力は全て回復に回しているから」
それで違和感に気づいた。
身体がとてつもなく重くてだるい。
触覚があまりに鈍い。
それでも目をあちこちに向ければ私の身体や周囲一帯に魔法陣が描かれている。
壊れた土偶らしきものや参考にしたらしい書物もあちこちに見かけた。
え、私って一体……
あ! 1番大事な事を思い出した!
そうじゃん!
少年ことダカシの放った魔法に飲まれたんじゃん!
何となくとんでもない1撃だった気がするが何とか生きていた!
いやー良かったよかった。
……良くない。
え、私どうしてこんな封印されるみたいに治療受けてるの?
明らかに尋常じゃないよね。
絶対何事かあった時のだよね!?
「良い? 何があったか気にせず今はゆっくりと休みなさいよ。下手な気苦労は疲れを悪化させるだけなのだから」
ええと、そんなに言われるとむしろ気になってしまうのですが。
ユウレンが席を外しテントを出て行く。
……よし、耳に集中してみるか。
「――といった様子ね」
「良かった、一時はどうなることかと……」
ユウレンがテント前にいた複数の魔物たちに話しているらしい。
安堵の声が複数聴こえてきた。
どうやら心配されていたらしい。
「いやあ……初めて見かけた時は四肢があらぬ方向に曲がっていたから……」
「生きているか死んでいるかで言えば死んでたよね……毛皮があんなに」
「それに魂? がひどくダメージを受けて魂を守るためのものを、ユウレンさんが事前に防御加工をやっていなければ、バラバラになっていたかもって俺は聞いて……」
「ちょっと! テント前で話すと中に聴こえる! はい散った散った!」
「え? 何か悪いことをした?」
外でのざわざわとした声が徐々に遠ざかっていく。
……よし、何も聞かなかった。
いいね?
(あっ、はい)
(なにそのへんなヘンジ?)