九百七十六生目 立直
捨て牌が1列目を埋め2列目に差し掛かるくらいグルグルと回る。
VVはその間も配信を意識してずっと話していた。
「――でさあ、ほんとありえない! って怒っていたら、あの子が、『でも、VV様も勝手にチェロス食べてたじゃないですか』って言ってきて、もう、それは、そう、フフフ、あ、良い形になってきたかもー」
その調子であと何の牌が必要か言ってくれないかな。
全部回収して手元に持っておくから。
「うーん、不味いなあ」
「不味いって何が不味いのー? 味?」
「味じゃない、何も食べてない! 牌の引きだよ、ほら河がさあ」
捨て牌を並べているところを河と呼ぶ。
この河は私やみんなが捨てたのがわかりやすく置かれていて……
私のところの河はまあ……悲惨である。
やろうとした役作りと切り捨てた役は必ずある。
今私は字牌というものを切り落としていた。
東……なおこの世界では翠の大地での方角文字に置き換わってるこいつは3つ揃えば役になる。
これプラス他の牌をきれいに整えればそれだけで上がれるので特急券だの早上がり役だの言われている。
当然警戒されるので隠しておくこともよくあるそうだ。
それでまあ。
1枚あった東を捨てたら次引いたら東が来て。
もう良いだろうと捨てた後河2列目に入ってからまた東が来て捨ててた。
トランプと同じ全部で4つなのでもう東の役が揃うことはない。
「見事に捨て牌で役づくりしてるじゃんー! アハハハッ!」
「まあ、よくあることですよ」
「こ、ここからですよ!」
「くぅ……」
とてもつらい。
この回はユナが聴牌になっただけで誰も揃わなかった。
この聴牌になって終わると周りから1000点ずつもらえる。
ユナの得点22000で私とエイナが18000のVVが42000点。
この後はエイナの親。
ユナがギリギリで上がれて3900点。
VVからのロンあがりでVVの得点を削った。
「な、なんとか点数が戻りました……」
「あー! せっかくの有利がだいぶ減っちゃった! わざとじゃないのに……」
次の回。
親が私で攻めのチャンス。
来た牌は……おお。
『ここが攻めどきですね! 牌はどうですか?』
『清一色行けるかも。3つくらい変えれば……形になるはず』
『いけますね! ポンいけそうなら呼んでください!』
麻雀数字の牌が3種類ある。
そのうち1つできれいに整えられればなんと6翻である。
鳴きと呼ばれる他人から牌をもらえるチーやポンをしても5翻。
私はあくまでポーカーフェイスを保ちながら見据えていく。
VVはこちらを見てニヤリ……とした。
「わぁ、親の調子が良さそうだよ?」
「そうかなあ? だいぶ遠いよ?」
「どちらにせよ、警戒しておくのは当然ですからね」
VVは露骨にゆさぶりをかけてきた。
今のは犯人に取調室で『もうお前がやったっていう証拠はあるんだ』って言っているようなもの。
モノも出してないうちにどうこうするものじゃない。
あたりまえだがVVが何か私やユナに仕掛けたらわかるようにこっちも待ち構えている。
VVの言葉は単に視聴者へと語りかけているだけじゃない。
「フフン? 考えることが増えるホド、麻雀が疎かになるかもよー?」
「だ、大丈夫! いけますから!」
VVが自信満々に進める。
確かにこの点差はきつい……
不味いのはコンビ打ちなのに私とユナが点を分け合ってしまいVVが一人勝ちすることだ。
うーん私がガンガンここで勝てるかユナを繋いでいくか。
そろそろ境目である。
「ホイ」
「あ、ポンします」
VVが捨てた1つの牌は字牌の發。
元ネタは緑の黒髪で美しい髪を示している……らしい。
諸説ある。矢を投げるという意味だとかね。
それをエイナが鳴き宣言して受け取った。
当然向こうもコンビ打ち。
一切容赦なく詰めてくる。
發も特急券だ。
早めに潰しに来るか。
『こういうときに限って手はなかなか進まない……』
『河を見る限りバレてはないんですけどね……』
清一色は同じのばかり集める関係上どうしても河でバレやすい。
ただ今2列入っているが私の河には今集めているのと同じ種類の牌が。
エイナやVVにもだ。
基本は同じのを3つか数字が順に3つ並ぶのでワンセット。
それを4つと2つの同じ牌を頭と呼び全部揃えれば形になる。
はいまあ……来るのがかぶってるんですよね。
今1が3個あるのに4つめの1が来て捨てたところだ。
一応暗槓と呼ばれる自力で4つ揃えて隅に置きさらにチャンスを増やす技もある。
ただバレるんだよね他人に見えるように置くから……
そのとき3列目に差し掛かって。
私は足りない牌の1つを手に入れた。
聴牌に入る。
あとは……リーチするのみ。




