九百六十八生目 VV
ユナが私にもたれかかってくる。
「ロードさーん? わたくしめ、なんにもやってないのにー、いっつも物が壊れちゃってさー」
パリーンと割れるコップ。
今ユナがひじに引っ掛けた。
「ああー? もったいないなぁ〜、誰ですか壊したのー!」
「いやキミだよ」
ユナは雰囲気酔いをしていた。
ノンアルなのにしっかり酔ってる!
酒精のかおりはあちこちからするもののこんなふうに酔うのは明らかに雰囲気に呑まれているだけだ。
あちこちからまさしく歓談が響く中。
ユナも緊張が相まって変になってしまったようだ。
大丈夫かなこれ……?
私も場に酔うような目のやり場に困るような。
あちこちの女性を視界や嗅覚にいれると私の心を動かそうとしてくる気配があってどうもつらい。
この感覚VVの仕業なんだろうけれど微弱すぎて抵抗が難しい。
私自身でうまく目をそらしてぶどうジュースに集中するしかない。
はあ……VVはまだなのかな。
そんなことを思っていたら突然会場内に拡声魔法の音が走る。
「ザザ──会場へお越しの皆様、ご歓談のところ失礼します。VV様の準備が整いました。こちらをご覧ください」
会場の照明が消えていく。
間接照明だけになると今度はカーテンで覆われていた方にライトが向いた。
さらにカーテンがはけていくと壁が動いていく。
なるほど気づけ無いわけだ……
あれは単なる壁とかではない。
『隔てる』壁と『覆い隠す』カーテンの概念を使っている。
ココはVVの神域そのものだからそういうことができるのだ。
私達の誰も気づくことは出来ない。
そう私ですら感知をごまかされる。
その向こうは大きな広間になっていた。
いや……それは正確じゃない。
私の知る言葉で言うならスタジオだ。
「なんだ……? 何が始まるって言うんだ?」
ダンが空気を読まず発言する。
お酒のせいだろうなあ。
この場にただよう他者を惑わすような気配もあるだろうが。
いややっぱり他のメンツはしずかだからダンが飲み過ぎなだけか。
ライトが照らしていく空間の床が大きく開いていく。
その下から感じる気配は……やはり来るのか。
『紳士の諸君! 淑女の諸君! 他々の諸君! ココに来てくれてテンキューセンキュー! 来てくれて嬉しいよー!!』
響いていくる声。
間違いないだろう。
『いやー、まさしく今回はチコクチコク! でもその分スペシャルなアタシがここに登場しちゃうよー! ほーい!』
VVの掛け声と共にスモッグがたかれる。
氷系統の魔法を応用して魔道具にしているっぽい。
仕組みは簡単だけれど需要がなかったタイプの道具か。
濃霧にうまくライトを当てると乱反射して中の様子がシルエットのように見える。
その影響で穴の下から出てくる人影がはっきりと映し出されてきた。
階段とかではなくずっと下からゆっくりとのぼってくる。
一体……?
あとこの微弱な音はなんなのだろう。
聴き慣れないな。
感嘆の声が上がる中上がるシルエット。
長いスカートのシルエットははっきりと形をなし。
さらに上がっていく。
そして霧が晴れていく。
その肉体を十全に晒さんとポーズを取りながら。
私の方へ鋭く目線を向けながら。
「ちーっす!! アタシこそが、生VV! みんなのアイドルのーーー、VVだっ!」
……そして何か浮かびながら。
そう金髪ツインテールのVVは確かに浮いていた。
また何かしらのBGMが流れ出す。
「ほ、ほほほんものだ!」
「おお……映像越しならよく会うんだがな」
「…………!」
ユナたち女性陣が大興奮している。
実際ファンなら歓喜モノなんだろう。
私達はほとんど知らないだけで。
「どもども、楽しんでいた? それとも、何かご不満かな?」
「おおっと」
VVの動きは案外素早い。
重心を傾けたと思ったらそのまま加速して接近してきた。
そう加速だ。
相変わらず軽く浮いているのだ。
ゴウの側を軽く撫でるように通り過ぎていく。
「何であれ、その女性たちは、今日だけはキミたちのものだよ!」
「ひゃっ!?」
「じっくり歓迎するからさ、ゆっくりしていってね!」
「ん?」
いくらかの人々の間を飛び回りながら言葉を交わしていく。
ミアは驚きインカ兄さんは当然のように避けていた。
もはや手癖みたいなものだろう。
「今のってなんなんだ……? 近くに来た瞬間に、何か毛がたったな」
「……ほんとだ?」
インカ兄さんと弟のハックが何やらはなしている横で私の目の前にVVは舞い降りる。
なんとなく扇状感あふれる上半身側の服とゆったりとした長さのスカートがなんとも言えない特徴的なVVの服。
「やあ、直接会うのは初めてだよね。今はロードライトと言ったほうがいいのかな?」




