九百六十七生目 無礼
VVがいないことをつぶやくと周囲のインカたちも気にして目を配る。
しかしそれでもいないことは確かだ。
「VVはこの後来ます。ぜひ最初は、皆様でご歓談くださいとのことです」
エイナがちらりと手元の端末を見てから語る。
まだ連絡が来ていないということだろう。
まあこれだけ準備万端でVVが遅れているはずもない。
つまるところ予定通りなのだ。
こちらも備えねば。
目配せだけして私達は各々の席につく。
それにしても女性たちの数がすごい。
私達は雇っていてよかった。
他の面々へと向かっている。
「え、ええええっと、わたくしめは、お酒ついできます!」
「え? どこにあるかわかるの!」
「大変です! わかりません!!」
だろうなって思った。
ユナの慌てっぷりに付き合うようにして席を離れる。
他のみんな女性たちにもみくちゃにされるレベルで接待を受けていた。
うへえ絡まれなくてよかったあ。
私とインカ兄さんそして弟のハックのみ自由に動ける。
自由といってもこのメンバーが集まれば流石に狭くなったこの空間だけだが。
いろんな探知がまともに利かなくてつらい。
私はユナとともに酒のある棚へ向かう。
私はにおいでわかった。
ユナの好みをきいて時間を潰す。
とはいえユナはやはりギリギリ大人すぎてお酒はよくわからないみたいな反応だったが。
私もそんなに飲む方じゃないしよくよく探して1本見つける。
無酒精の酒。ノンアルコールワインだ。
それってつまりぶどうジュースみたいなものではというツッコミは置いておく。
ユナと共に席へ戻るとちょうどインカたちも帰ってきた。
「よ、そっちはどうだった?」
「まったくわからないなあ……動きもだけれど、私達をもてなす気しかないみたい、彼女たち」
「だよな。そういった動きがない。多くのものは素人、やってても問題がない程度しか揃えていない。兵にはならないな」
「う〜ん、伏兵もいないみたいだよ〜?」
やっぱり武力には訴えてこないらしい。
まあそれは助かる。
小神相手に武力勝負はやりたくない。
単純な殴り合いならば負ける気はしないが小神は搦手がメチャクチャ強い。
ホルヴィロスのような無限再生と継続ダメージエリアやグルシムのように攻撃無効化かつ変化する前に止めないとどうしようもなくなるものとか。
顔のない神たちもほとんど直接攻撃しているの見たこと無いが真面目にやればえげつない戦略が取れるはずだ。
だから今回は怖い。
真面目だから。
いままでの相手みたいな偶然のぶつかり合いではない。
1つも気が抜けない。
精神攻撃されているフシもあるしみんなもその旨は伝えてこっそり心へカバーする魔法をかけてある。
「へぁー、おいしいですね、これ!」
「うん、さすがに良いもの使っているよね。一緒に置いてあるだけあるや」
私はユナと話しつつ周囲に耳を傾ける。
ミアは大人っぽい女性ふたりに囲まれている。
「さあさ、本日はこちらのもてなしだから、どんどん飲んでねー」
「かわいいねー、ここに来て何を楽しんでくれたー?」
「あぅ、えっと」
「あらかわいい」
ミアもギリギリ側なので勘弁してあげてください。
気を配りつつ他に目を回すとダンはやけ酒していた。
「くそーっ、さすがにきついぜ……!」
「まあまあ、そんなハイペースで飲んで大丈夫なのかい?」
「と、言いつつついじゃおーっと」
「ありがとう! もうみんな飲んでくれ! 酒に付き合ってくれぇ〜」
「「はーい!」」
うんダンはダメな気がする。
負の酒ループに入っている。
あれは後でしかられコースに入るかな……
さてあと目立つのは……
「「うえーい!!」」
……酒飲みズは置いておいて。
ふむアカネが何やら変わった飲み方をしている。
「ええ……? 本当に大丈夫なんですの? そんな飲み方で」
「イッキってのはあるけれど、限度はあるよ!?」
「……ぷはぁ! いやさあ、私見た目のせいで普段はこんなことできないんだよ、しかも高級なお酒で!」
彼女はなにかちょっと高そうなお酒をビン1本飲みしている。
普通に心配されているや……
あれは私もアカネじゃなきゃ心配している。
アカネの肉体はニンゲンに見えて合成されたモンスターと言っても間違いではない。
精神性がニンゲンのまま戻せたのは奇跡みたいなものだ。
それは一種いびつなのかもしれない。
ただ今のアカネはそんな身体じゃなきゃできない楽しみ方しているからまあいいかってなっているだけで。
なんというかもう少しマナーを気にしてほしいが。
無礼講というのはやべー行為をしていいってわけではないのだ。
そうこうしている間に私達は一刻ほど楽しむこととなる……
あれ? VVは?




