九百六十六生目 保護
たどり着いたところは……さっきまでとまるで格が違った。
テントの中を思わせないように工夫されていたという各々の空間から一転してテントではなくなった。
どういう意味かといえば質そのものが変化した。
開けた庭。
透明な窓ガラスの向こうに見える1つの屋敷。
そしてしっかりとした門。
これは私でなくてもわかる。
屋敷の空間は門を境目に草木1本からすべてVVの世界。
神域の芯の部分だ。
朱竜が巨大すぎる火山噴火の中であったように。
私が美しく荒々しい荒野があるように。
顔のない神のリュウが高さや深さが狂った段差と流れる水の神殿があるように。
各々の世界を神は持つ。
VVのその世界はなんというかチグハグだ。
ベースはこの世界でのとても裕福な屋敷のようで。
同時にそこにゴテゴテとしてカラフルな模様が入り込み。
木造のところもあればタイルや……なんだっけ? サイディング? とかの壁が見える。
つまりまるで地球のものっぽい。
どの年代の建築方法だったか……
とにもかくにも統一感のない世界だ。
まるで自分のありようが大きく変質しているかのように。
それはとても珍しいことだ。
自分だけの神域はとてつもなく影響を受けにくい。
なぜなら自分の芯の部分だからだ。
こんなに変わっているということはエイナの与えた影響がそれほど大きいということ。
エイナが先導して門を開く。
門は軽く金属音をたてながらゆっくりと開いていく。
そこは神にとって絶対の地。
「みんな、少しだけ待って」
私はひと声かける。
そして首飾りのところに手をかざして力を込める。
……神力解放。
不可視の……神力を感じられなければわからない神々しい輝きが私から解放される。
その輝きは一瞬みんなを包んだ。
これで大丈夫だ。
みんなは私の神力に触れた。
向こうの神力に対して……理不尽な力を押し付けることに対して抵抗できる。
「なにかしたのかローズ?」
「うん、少しね」
「そうか、じゃあ、いこうか」
オウカさんの号令で改めて進む。
エイナが先導し神域の中へ……
……くっ!
やはり入った瞬間の異物感はすごい。
特に私とVVは同格の小神。
互いに影響が大きい。
朱竜みたいな大神だと向こうが大きすぎてこちらへの影響が少ないんだけどね。
ただまあ少しすると慣れてくる。
このまま歩みを進めよう。
庭先はこれまた変わっていた。
ここらへんの国でオーソドックスな植物も多ければいきなりヤシの木が生えていたり。
ゴチャ混ぜなのになんらかの統一感を感じる。
私達はエイナについていって屋敷の中に踏み込み……
異質さに小さく声が上がる。
中は外の屋敷よりもより変質している。
床や壁は木材や石材ではない。
まるでビルの中みたいに壁紙が貼られている。
進んでいけばさらに配線があちこち見られるようだった。
フロントを抜けて廊下へ。
ここらでさらにヘンテコだ。
ゴテゴテと輝く装飾。
VVの絵を貼って……いや正確にはポスターを貼ってある。
もうLEDライト風の魔道具に関しては突っ込まないぞ。
そして漏れ聞こえるBGM。
何が……なんなの?
ここだけあまりに別エリアすぎる。
なんでノレそうな重低音響いているんですかね。
ツッコミどころはたくさんあれどやがてたどり着く。
エイナが頭を下げつつ開く扉の先。
そこでは大勢の女性たちがこちらに向かって礼をしていた。
「「いらっしゃいませ」」
全員が一斉にそう告げたのに威圧感がない。
むしろ優しくふわっとした声色だった。
緊張は乗っているもののニンゲン同士なら気づかない範囲だしこの緊張は気を張るにはいい具合だろう。
「す、凄いな……」
「いやぁー、大歓迎じゃん!」
鍛冶屋のカンタやおばあちゃんのオウカはその光景に感嘆する。
他の面々もわざわざ声に出さないだけで同じようなものだ。
私は……ちょっと別のところに注目。
まずこのエリアだがかなり広い。
いくつものテーブルと豪華そうなフルーツなどの盛り付け。
どれもこれも酒のペアリングが考慮されている様子。
後で薬が入っていないか検分しておこう。
私達は中へと入っていく。
……あそこにカメラ。
あそことあそこはマイクかな。
わかりにくいように隠されているがあちこちに機材が置いてある。
もしこれが本物の科学技術により作られたカメラやマイクならわからなかったかも。
しかし魔道具である以上魔力でバレる。
そしてこの華やかな空間に1番大事なものがいないことが気にかかっている。
「VVがいない、ね」
見回すとVVの気配がまるでない。
VVの神域内はVVの存在感が全てある。
ゆえにヘタな探知は効かないから1度目視したい。
はてさてどこから出てきて何をするのか。




