九百六十三生目 借金
今1つの豪華な部屋の中ユナがひたすら私の書いたものを読み漁っている。
ここの部屋は待機部屋。
時間になるまで待っていてほしいらしい。
「ほほぅ……」
私達は存分にくつろいで待っているがエイナもいないしすでに1時間くらいいることですっかり気を抜いている。
まあ私たちと女性たちのための時間でもあるのだろう。
食事してすぐ行事してというのは慌ただしすぎる。
「へぇ……」
そしてユナはこの時間を使って私の渡したメモを少しずつ読んでいた。
わかりやすくしたつもりだがそれでも魔法関係の応用魔法については話が難しい。
前提知識の部分を読んでいるだけでも相当時間がかかるだろう。
渡した時メチャクチャ慌てていたからこれほどまでに熱心に読んでくれるのだろう。
ありがたいことだ。
しばらくすると外から呼ばれエイナが扉の前に立っていた。
「行きましょう。お時間になりますから」
その言葉で私達は覚悟を決めた。
まずはこのテントのフロントみたいなところに集まった。
ここでここにきたメンバー揃うまで待たなくちゃいけない。
雇った女性たちをのぞく。
「あれ? ひとり来てないよね?」
「おかしいですね……ダンが来ません」
ゴウが首をひねり疑問を口にする。
確かによくみると後はダンだけだ。
あの巨体がいないから雰囲気が一気に足りない感じがあるんだ。
「誰かダンを見た人は?」
「え? 今日はしらないなあ」
「ホテルにも帰ってきていないんだっけ?」
「うーん……?」
私は念話でダンがちゃんといることは知っている。
ただなぜか今いない。
うーんもう一回聞くかな?
「わ、わるい! 遅れた!!」
すると慌てて駆けつけてきた音。
ダンの声だ。
ってあれ?
「どうしたのダン、遅いのもそうだけど、その……」
「アハハハ! なにがあったらこの服がそんな乱れるの!?」
オウカが指さして笑う。
ついでにアカネもこらえきれない笑いをしていた。
黑スーツが半分脱げかけているしメチャクチャな位置にボタンがありさらには酒と香水と他人のにおい。
「わ、悪い、ただトラブルが……」
「あらあら、トラブルだなんて……まるでわたくしたちがご迷惑をおかけしたようで」
「ヒッ」
おや?
ダンの背後からひとりの姿が現れる。
美しい女性と感じる大人びた方だ。
しかしダンはその姿を見て軽い悲鳴を上げる。
「あら、別に全額しっかりお支払いいただいたから、そこは恐れなくてもいですのに。さすが黒VV.I.P.の方、豪胆な賭けを見させてもらいました」
「そ、そうだローズ! 大変だ! あのカードなんなんだ!? 一体何を担保にしたらあんなに借りられる!?」
「え? 借りれる?」
確かに黒VV.I.P.チケットは特に何も言わずとも後払いに出来る。
私達もいくらか後で払う予定だ。
ただなんかあんなにだのなんだのと言っていて不穏。
みんなの目がさらにダンへと集まる。
「その…………」
「言いづらければ、わたくしから言いましょうか?」
「いや、いい……自業自得だしな。その……だな。その……ざっくり10万ポイントを、借りてしまっている……」
「……へ?」
桁が狂っている。
この瞬間にそう感じられたのは何人か。
少なくとも何人かはピシッと音がするほどに固まっていた。
まとめて買えばポイントはお得になる。
だいたい最大で1万シェルぐらい一気に変換できるプランがあり、それで500有償ポイントと4500無償ポイントが入り変換効率がメチャクチャ良くてオトクなプランだ。
1万シェルぶちこむというアホらしさを除けば。
さてもう今回は合わせて5000ポイントとしよう。
このプランを20回やる必要がある。
つまり20万シェル。
それは1晩で作り上げる借金としては……
あまりに高すぎる数値だった。
「……ハァ?」
「ス、スマンー!! 気づいたらこうなっていたー!!」
スライディングしての圧倒的平謝り。
まさしく激しい謝り方で私達をむしろ困惑させた。
特にエイナが。
「ええっと……確かに大金ではありますが、別に黒VV.I.P.の方が苦しむほど、ですかね?」
「あー、うーん、少し難しい」
「そうだね。ダンの財布にはそんな金はない。けれど、必死こいて良い依頼をやれば、数年で返せるくらいの実力はあるだろうし」
「それに……まあ、ローズさん、無理にとは言いませんが……」
「あ、私? うん、別にそこまで問題なくは払えるかな……ただ大金は大金だから、すごく驚いちゃって。何があったの?」
正直私が気になるのはココだ。
するとダンはすがるようにこちらを見る。
「ここの賭けに……騙されたんだ!」
それは場をさらに凍りつかせる言葉だった。




