九百五十七生目 緊張
余計な華美はいらないとただ彼女を美しく映し出すことにこだわった照明。
踊りに合わせ幻想的に揺れる半透明のふわふわとした服。
そして何より爪先まで整えられた肉体美。
それは逆に年齢を重ねることで出せる重みと厚み。
そしてなにより技の巧み。
ずっと技術を重ね続けてきた者からしか出ない粋がここにある。
思わず見とれてしまった。
気配を感じて振り返るとエイナがちょうど礼をしたところ。
戻ってきたらしい。
「お邪魔して申し訳ありません」
「ううん、ちょうど一区切りだったから」
「それはなにより。それと、先程の件ですが話が付きました。本人が直接合うそうです」
直接……だったら行こうかな。
と思っていたらドタドタと音が。
歩くには派手な音をたてているこの気配はまさか。
「おや……どうやら、向こうから来たようですが……お会いになりますか?」
「うん、もちろん。通してあげてください」
「では、そのように」
エイナはすぐ近くの仕切りの向こうにいる女の子へと声をかける。
息をきらしているが身体能力に見合わない体力のなさだ。
いや……公演の後なのと精神状態とを加味すればわりとありうるかな?
ともかく通され私と向かい合うこととなった。
「こ、ここここのたびはご指名いただきありがとととととます!!」
「……落ち着いて」
思わずそう声をかけるしかなくなった。
先程の公演上よりガッチガチに緊張していたからだ。
手渡したコップの水を飲み干しやっと震えが収まる。
「も、もうしわけありません、落ち着きました……はじめてだったんです、まさかここの席に座るような来賓の方にお目をかけてもらえるとは……こ、ここ、光栄のいたりですっ!」
最後の方言葉が走りまくっていた。
さらに頭を下げて断頭待ちみたいになっちゃっている。
「いやいや、私は貴族とかじゃないから落ち着いて。それよりも、あの魔法について教えてほしくて、よかったらと思ったんだ」
「ふぇ? 魔法って……さっきの水魔法でしょうか?」
言われたことが意外だったらしい。
なんだかふのぬけた声を出していた。
「うん。ぜひ、私と契約してくれれば。私は何を差し出せば良いですか?」
「ええっ!? けけけけけけ契約っ!? それってわたくしめを指名するということですか!?」
「立候補、です」
「────っ!」
そう立候補だ。
私は彼女に選ばれる必要がある。
例え彼女が未熟でもここのルールは立候補。
そして今明らかにそのことに驚き感銘を受けているように見えてもだ。
顔を手でおさえて驚きを隠せない様子で。
果たしてこの立候補が一体どれほどの大きな意味を持つのか私には理解しきれない。
けれど嫌われているようでないならそれはよかった。
ぶっちゃけ向こうからしたらこちら初対面だ。
獣顔が好みではないとかあるだろうし。
「では、エイナさん、この子の額は?」
「それなのですが、先程訪ねたところまだ値無しという扱いだそうです。未熟ゆえに、本来は指名契約自体もやっていないのですが、今回は特例として、通して貰えました。ポイントの支払いは、今回はなし……逆に言えば、禁止とする前提で」
「ああ、なるほど……矜持があるんですね」
「まあ、原則に特例をもうけないという意味合いもありますが」
それはなんとなく理解できる。
2つも風穴あけるわけにはいかない。
「では、私はキミに何をお支払いしましょう? 金銭はだめだとして……魔法に関しての話、とかですか?」
「わわ、わわわわたくしめとしましょう! よろしくお願いします!!」
「あ、それでいいんだ……よろしくおねがいします」
私は女の子に手を差し伸べる。
女の子は手を見て私を見てなぜかエイナを見て私を見て。
そして改めて私の手を見てから……
ゆっくりしっかりとその手をとった。
「私はローズ、ローズオーラ。あなたは?」
「ローズオーラ様……あ、わたくしめは、ユナと申します! よろしくお願いします!!」
勢いのついた礼を見つつ私は早速する話を頭の中で整理していた。
さて水の上に立つとか想像するだけで死にそうな感情になるがどうやっていたか詳しく聞こう。
サーカスが締めくくられ私達は外に出る。
インカ兄さんは背中にでかい剣を背負っている女性を連れてきた。
戦士かな?
弟のハックは無口な女性を連れていた。
さっきまでみんな半裸な格好で踊っていたせいで誰なのかまるでわからない。
割りとしっかりキマった服を着込んでいる。
そして。
「せせせ、先輩方、どうぞよろしくお願いします……!」
「ははは、まーたあがってるな! そんなに緊張しなくとも、選ぶ相手さえ間違わなければとって食われることはないっての!」
「…………うん」
ユナと揃って次の場所に向かった。




