二百生目 切断
次々と生えてくる土槍は中央に引っ張られる。
その中央はねじるどころかねじきれて空間に穴が開いちゃっている。
向こう側がなんなのかはちょっとわからないが空気も光も吸い込んで穏やかじゃなさすぎた。
確かに魔法を放つにしても威力を高めておきたかったから時間もかけてたっぷり魔力使ったが"峰打ち"をかけてあるから死なないだろうとタカをくくっていたのはある。
いやアレ死なないかもしれないけれどあの先が無に繋がっていたら駄目でしょ。
幸い土槍すらも通り抜けるほど穴が大きくないのか地面からスッポぬけ縦横無尽に空を飛び回るだけで吸い込まれたりはしていない。
そのせいで空間内は土槍が中央に飛んでそのあとどこかに向かって吹き飛びさらに引っ張られてまた中央に戻ることになっている。
次々発生する土槍と戻ってくる動きのせいで弾幕が濃くなるね。
うん、大変なことになっている。
全力で穴から逆方向に駆け360°から襲ってくる土槍を切り捨て避けてとしている少年も中央に引きずられるのは同じだ。
背後に伸びた尾が空間のねじれに触れそうになればなんとか踏ん張って速度を上げて土槍に後頭部から迫られても必死に避けている。
「ダアアッ! がっ!? ガアアア!!」
十数秒の間に10以上の土槍が乱れ飛び20秒で少年の全身は傷と血だらけになる。
たれるはずの血も吸われて行き時間がたつにつれ土槍が辺りを覆い尽くす。
少年の刃は止まらず土槍を切り裂き弾き砕いているのになお。
だからこそ理解するのに遅れたのだ。
ググ。
そう鈍い音と共に空間の歪みがやや元に戻る。
だがそれは普段の土槍ではない完全な異物が入り込んで歪みを抵抗されたせいだった。
「カッ、あがあああああああ!!」
少年が堪えきれない痛みで絶叫する。
尾が空間ごとネジ曲がっていた。
おそらくは骨も筋肉も。
もちろん神経も多大な負荷をもらっているだろう。
さらにはあまりにも大きな痛みやダメージのせいで足が一瞬もつれた。
少年にとって尾は普段はなく"進化"時に生えてくるものだ。
尾に関しては少年にとっても慣れていない部位だったのだ。
扱いきれていないものに振り回されたのは私だけではなくて少年も、だったのかな。
僅かな足のもつれはそのまま体勢の悪化につながり穴に引きずれらるというようにどんどんと大きくなって行き……
尾が次々とねじられ長い尾が無理矢理引きちぎられるかのように引っ張られる。
もはや少年の言葉は文字に変えられないほどの絶叫になっていた。
悲鳴と恐怖と全力を出し切ろうとする雄叫びが混じって下手な魔物よりよほど『魔物』らしい叫び。
だが一度崩れた動きは簡単に直せない。
「ガハッ!?」
どこからか吹っ飛んできた土槍が横に薙ぎ払って少年の肩に当たった。
普段ならまず切り落とすし当たっても耐えるだろうなんのことのない衝突。
それに耐え切る力がすでに少年にはなかった。
衝撃で足を踏み込み間違え空を切り思いっきり引っ張られた。
そしてついに長い尾は空間の小さい穴へ吸い込まれる。
すっぽりとちょうどといった感じで収まった。
「!?!?」
ほとんど酸素を吐き出した少年が声にならない声を降り出すかのように異常に汗をかき青ざめた。
ちょっと、このままじゃあ"峰打ち"しているのに死ぬんじゃ……
なんとかしようと思ったその時に魔法の気配が消えた。
そう、ついに魔法が終わった。
土槍は生えず空を飛んでたものは地に落ちて砕け空気や光の吸引は終わり穴は閉じる。
穴は、閉じる……?
「あああああああああーーっ!!」
少年が前のめりに倒れ込むと共に絶叫が響き渡る。
ひえ……
思わず私は自分の尾を掴んでしまった。
少年の尾が途中でぶった切られている。
吸い込まれた分はどこかにつながるあの空間の穴の向こうへ切り抜かれてしまったらしい。
尾はめちゃくちゃ痛いのだぞ!
というか背骨から伸びている骨ごと切られるって言えばそのおぞましさがわかりやすいよね……
"峰打ち"は確かに攻撃分は下手に後遺症クラスのダメージを与えたりしないが攻撃ではない……つまり魔法が終わって空間の穴が元通りに閉じるだなんて部分には乗らないのか。
凄く大事なことだから覚えておこう。
つまり"峰打ち"で誰かを切っても死にはしないが、"峰打ち"を使った火攻撃で油に火をともしてその火が相手に燃え移ったら相手は死ぬか重症を負う。
今の少年の惨事はその後者だったからだ。
すっかり吸われたり土槍がぶつかったりと壊れかけている土砂の山を越えて少年に会いに行く。
「うぐ……ぐ……」
よかった、息はある。
そんなこと思っていたら少年の"進化"が解けて元のニンゲンに戻った。
尻尾は同時に消えたからこれで痛みも軽減されたのかもしれない。
試しに"無敵"を使おうと少年に触れたが無効化された。
やはり少年はなんらかのスキルで無効化してしまうらしい。
仕方ないし別のアプローチするしかない。