九百五十六生目 道化
応用魔法使いというのは基礎魔法使いと違い魔法を唱えてそのまま具現化しぶつける……ってことはしないということだ。
魔法を使い道具を生み出し魔導具とするのは有名な応用魔法の使い道である。
ただそれだけじゃなくてもっとアカデミックに追求していくのもまた応用魔法だ。
眼の前で繰り広げられている魔法はゆったりとした展開で水を動かしている。
水魔法は水の環境から水魔法光を生み出して水の力を操るのが基本魔法。
そしてあれは応用して水に魔法を干渉して操作している。
スキル魔法そのものを唱えているわけじゃなくて自身のスキル魔法を適用し変化させ道具を通して変えている。
これは研究の重なりゆえなのでニンゲンたちが得意としているものでもある。
まあ私もやろうと思えばできるが……
私の場合とにかく言語化がなかなか難しい理解を自分自身がしている。
スキルとか実践の効果の影響で。
悪いわけではないけれど学問という面に……応用魔法としての面はあまりに弱い。
まあつまり計算式とかに起こすのに苦労するのよね。
先に答えと問だけわかってるので。
それはともかくとしてとにかく彼女の念動力でもないし応用魔法だ。
そこらへんまとめて語ったがハックは半分くらい理解した「なるほどー?」という返事があったが。
水という物質を使って魔力で変質させ女の子自身を掴ませている。
掴んだところは濡れておらず簡単に持ち上げた。
さすがに拍手が観客席から上がる。
そっと水の上に立つ。
そう床がなく直接立っているのだ。
息抜きの時のはずが1番真剣に見ることになっている気がする。
そのまま水の上でタップを刻みだす。
そして水にふれるたびに波が大きく起こり弾け飛ぶ。
高く跳ね上がり輝きをもって形作る。
彼女の横で魚のようなカタチを象った魚たちがとびはねる。
そして徐々にタップが踊りとなってゆき共にダンスしだした。
水は跳ねてうつくしく様々な色を映し出す。
水の跳ねる音が音楽となる。
水が螺旋に上へ伸びて自然現象へと反骨する。
やがて空中に集まって……パンと弾けた!
そしてリズムにのって小さな水がはねていく。
水でステッキを生み出しまるでステッキを使ったダンスのようにクルクル回す。
水音符が浮かび賑やかに華やかに。
私は1つ1つの魔力の流れをよく見る。
構成と流れがとてもきれいだ。
触れてしまえば崩れてしまう飴細工みたいで。
「こ、この調子なら……!」
小声で聴こえる言葉を拾える。
あっ、なんか構成がやばい。
「えっあれ」
そして水の上を踏んだ時に滑る。
バランスを崩すともう片方の足が水に沈む。
魚たちは途端に破裂し彼女を濡らした。
そして。
「ひゃあっ!!」
派手にボチャンと着水。
思わず観客席からも悲鳴に近い驚きの声があがって……
「……にへへ」
にゅっと水から顔を出した彼女を見て安堵からくる笑いがおきた。
どうやら惜しくも役割どおりになったようだ。
……笑顔の中裏の水中に回した右手に拳をかためながら。
「私、あの子がいいなあ……」
「えっ、彼女ですか?」
「うん、いいヒトっぽいし」
「そうですか……では、はい、とりあえず手続きをします」
そういえば看板が上がってなかったな。
まだ訓練中だから本来は表に出せなかったのかもしれない。
なんか黒VV.I.P.の力でゴリ押ししたみたいで悪いな……
エイナが離れハックが呼ばれた頃に今度は大トリとしてひとりの女性が出てくる。
メチャクチャ若く見えるがもしかしたら今までで最高年齢かもしれない。
いろんな薬や魔法を使って年齢不相応の若々しさを保っているのかもしれない。
「「おおおおおぉーーー!!」」
ただアナウンスが聞こえなくなるレベルで声が鳴り響く。
みんなの歓声が地鳴りとなっていた。
そんなに人気なのか……
今までのニンゲン達はだいたい半裸に近い格好だったが今回の大トリさんは全身をゆったりとして透けが入っているきらめやかな布で覆っている。
それがまるで天女のようにも見えて同時に強い感覚を覚えた。
こちらの心に訴えかけてくるような良さ。
立っているだけで声援が沸き立つ存在感。
ソレはカリスマと呼ばれる。
思わず固唾をのんだ。
なるほどこれがトップクラス……
声援を出している面々は同年代からずっと年上まで多くいるのでそもそもここの対象年齢は高いんだろうなあ。
何せ娯楽に手を出せるほどに余裕ある立場だし。
すっと出た看板は……
えっ何アレ額が書いてない。
時価。
1番恐いなあ……今までの女性たちもひとりたりとも4桁ポイント切ってなかったし。
そして音楽が流れ出す。
ソレは激しくない動き。
しかし無駄を排した流れ。
もはや1つの美しい流派の型のように見るものを圧巻する踊りだった。




