九百五十五生目 応用
強いけれど別世界に住む女性たちの姿を見た気がした。
私と違い自分の肉体を別の方向に売る商売。
いや今の身体は男だけれど。
私が向こうの世界をわかるとは言わない。
普段あんまり触れてこなかったし。
だけれども少なくとも彼女たちから嫌なことをしているという目は見られなかった。
それがさっき話していた女性側が選ぶという手法にも関わってくるのだろうか。
クルクルとその場で縦回転しつづける女性も。
空を魔法で飛び交って輪をくぐる女性も。
みんなレベルが高い。
一般的なニンゲンたちが10から20なのに対してかれらは40や何度かトランスした形跡がある。
彼らは高みを目指しここにいるわけだ。
きっといい仲間に出会えたのだろうなあ……
それはよかった。
不幸なめにあってここにいるよりずっと。
なにせVVのところだし……
顔のない神だからね。
そこらへん安心して見ていない。
「みんな、ここが仕事の場って感じで、イキイキしてるね〜」
「自分の身体を表現するのに、ココ以上の場所はないでしょうからね」
「なるほどなあ……自分の技を誰かに見てもらいたいんだ。そんな者はとても多いけれど、同時にそこまで見てもらえるほどにならないと、よく師たちがはなしていた」
「ふたりは……ああいうヒトたちに対して悪くは思わない?」
「まあ、いいんじゃないか? それが誰かの役に立って、自分の技に役立つのなら止めるものじゃないし」
「だねぇ〜、わかったよ、あれは自分を使ったアートなんだ!」
「アート……なるほど……私も、少しわかったかも」
インカ兄さんや弟のハックの話を聞きなんとなく理解しだした。
きっと彼女らは高い自己表現力と自己顕示欲を同時に発揮する場にここを選んだものたちなのだと。
冒険者とは違う……美しい生き方なのかもしれない。
そんな彼女らがつぎつぎ履けていく。
「どなたか買われる候補はおられましたか?」
「うーん、今のところ見ているだけで面白いからなあ」
「だなぁ」
「ぜひ、VVのところへ行く前に誰かを買われたほうが良いですよ。そういう歓待の場になりますので」
「ああ……既にお付きをつけたほうが、またあんなふうに取り囲まれなくて済むってことですか……」
エイナは静かにうなずく。
私達はそれをみて少し遠いところに目をやった。
各々の想いは別だろうけれど苦労そのものは同じ思い。
「じゃあ俺は……あのコに立候補しよう。見ている限り、一番動けていた」
「僕は誰にしようかなぁ〜」
「うーん私は誰でもいいなあ……? けどなあ」
ああでもないこうでもないとうなるハメになった。
なにせパートナー選びとか知らないし。
インカ兄さんの立候補が早すぎる。
そうこうしている間にショーは終盤に。
『では、ここでほんの少しの休憩を。新顔による、ミニマムショーです!』
「ミニマムショー?」
「ここにいる者たちは超一流……ですが、まだ入りたての者たちはそこまで磨きがかかっていません。ですので、経験を積むための場としてもうけられている時間となります。お目汚しをするかもしれませんが、笑って許してあげてくださいと、そういう回です」
「へぇ、張り切ってるやつらなら応援したいな!」
インカ兄さんはそうはいいつつも立候補したやつに呼ばれ離席。
ハックもそのうち呼ばれるだろう。
さてさて出てきたのは……
スポットライト照らされたのはひとりの女の子。
そう他の面々は比較的年齢は大人! と言い切れる者からそこそこの年齢の方が多い。
ちなみに買う側はさらに高齢だったりするのでまるで問題はないようだ。
多分成人はしているんだろうけれど……
それだって法的にギリギリで第二次性徴期くらいだろう。
なので女の子で間違いない。
遠目からみてみても明らかに動きが緊張している。
今まで世間一般的にいう超人集団だったから新鮮だ。
行うのは水の演技。
用意されたのは巨大な水槽。
それに対して女の子は魔法干渉していく。
そっと手を差し伸べると水が徐々にカタチを成してきた。
そして輝くように光が水が動き出す。
「はいっ!」
かけごえと共に水がうごめきだす。
ザバリと持ち上がるとまるで生きている手かのように動いた。
女の子のほうへと伸びていく。
「お姉ちゃん、あの魔法ってなんなの?」
「へぇ、応用魔法を自己流にまとめてあるみたい。力は全然ないけれど、ちょっと面白いなあ」
「おうよ〜魔法って?」
「ええっとね……」
私は基礎魔法使いというジャンルに該当する。
ここはジャンルの話なので私のウデマエは関係ない。
つまりスキルで魔法を使うタイプのことである。
応用魔法使いはもちろんそうではないということだ。




