九百五十一生目 言動
映像はまるで掠れてもおらず状態が良い。
質のいい品をつかっているのだろう。
昼間でも投影できるのはかなり工夫とパワーがいるし。
『ちーっす、チコクチコク! アタシのワンダーランド、R.A.C.2へお越しの皆様ー! ようこそ!! アタシは、ここのみんなのアイドル、ヴィヴィだよー!!』
大音量で拡声魔導具から声が流れ出し。
同時に明るいポップな音楽も流れ出す。
当然のようにいつの間にかたくさんのニンゲンたちが広場に集まってきていた。
「VV様ばんざーい!」
「VVー! こっちみてくれー!!」
「へぇ、あれがここの……?」
「かわいらしいですわね」
ただやはりというかなんというか。
ニンゲンが多いということは新規の相手も多い。
怪訝そうな顔で見る目も複数ある。
『いえーい! 応援の声、届いてるよー! んじゃ、今日は歌の気分! 1曲目、スタート!』
そう話すVVは決め顔ウインクシた後なにかのBGMが流れ出まてまてまてまてまてまて。
さすがに突っ込ませてもらうぞ!!
「この時代にこんな曲はなかったはず……まさか……」
私はオーケストラでもなんでもなく鳴り響く電子ピアノのエレキギターじみた歌を聞き流す。
いやおかしい。
曲調もおかしいんだけれど。
だから私は曲にしぼって記憶を掘り起こす。
いやぁ〜〜でもなぁ〜〜。
地球の曲って毎年死ぬほどリリースされていたからさすがにわからないかも……
でもまあ他よりめちゃくちゃ浮いていることから推察は出来る。
たぶんこれは地球の歌。
前世の世界の歌。
なんでVVがそんな歌を知っているのか。
1つめにあるのは買い取り。
この世界には地球から来たニンゲンも複数いる。
歌を残し詩を残すことはもはや珍しくない。
感覚がこっちの世界と違うのであんまりバズることはないようだけど。
そこに目をつけてVVが歌を買い取った可能性。
ただこれはさっきもいったとおりバズりにくい。
感覚が違うのでわざわざ狙ってそこをする意味は? と。
吟遊詩人の有名な唄を使うほうがずっとウケがいい。
2つめはVVの肉体が実は地球から来たものだった可能性。
最近情報を整理してやっと見えてきたことだが顔のない神は共通してニンゲンの死体を使っている。
いや神として生きているので死体にはなってないんだけれど。
なにかよくわからないがトリガーで対象を贄として顕現するのか憑依なのかよくわからないが神が降りる。
そして肉体側の知識や前世の知識と記憶も持ち越す。
ただなんというか前世や肉体側に対して他人事のような風潮も見られるが……
まあその話はいいとして。
つまり肉体がたまたまその知識があれば引っ張ってこれるのだ。
ただこの確率って多分天文学的に低い。
その3であるのは……
『よーし! あっちぃー! 盛り上がってるー!?』
「「いぇーい!」」
「ふふ、俺たちもああいう頃があったよな」
「やっぱビッちゃんはああいうオッサンくさい仕草が1番グッと来るよな」
なんだか後方の方で壁にもたれこみながら話している面々もいる。
極まったファンなのだろうか……
ほんと様々なカタチで信仰されているなあ。
「あ、ここにいたのですか」
「エイナさん。ちょっと何かが始まったみたいなので、見ていました」
「VVのちょうどいい時間の放送ですか。今やっていたんですね」
従業員すら把握していないタイムスケジュールってなんなんだ……
まあVVだから期待はしていないけれど。
「今日もこんな放送しているんですね」
「ええ、VVの夢は、ここの大陸だけじゃなくて世界中に届けることなんだとか。今は無理でも必ず。そうしたら……いえ、とにかくその日が楽しみですね」
エイナは一瞬だけ不穏なニオイを漂わせた。
さてその3だ。
VVが前世の歌を歌える理由。
地球から来た者を側に置いている場合。
その可能性だ。
エイナが端末をいじっている姿を見てそう心で呟いた。
実際のところ怪しい点はちらほらとあった。
いきなりほとんど実物を知らない黒VV.I.P.チケットを見せる前から来たこと。
少なくとも従業員と名乗る服を着たもので女性は彼女しは見かけなかったこと。
たまにちらちらと見せる魔導具端末。
薄く小さく手のひらに収まる液晶のそれは確かに魔力は感じる。
しかし私の記憶を漁ってみたらあれは前世のスマートフォンというものに酷似しすぎている。
そしてなのだが。
『あれはローカルネットワークというものを通して映している、VVの姿です。スタジオという撮影場所から、各地に声と映像をお届けしています』
『それが、長いと飽きてきて普通にその時の暦を刻むようになったのだとか。なので資料上にもR.A.C.2が何年なのかは記載されていません』
……言葉回しがおかしいのだ。




