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その能力は無敵! ~けもっ娘異世界転生サバイバル~  作者: チル
狂った境界と踊る神々そして大きな賭け後編
2032/2401

九百三十九生目 狂気

 人吸木の腹切り鎧の中には確かにニンゲンはいた。

 しかしその目に怪しい光を宿し肉体が膨れ鎧から物理的に根を伸ばし繋がれてなければ無事と言えただろう。

 中身を見るとまるで操り人形のようにちゃんとした体の動きをしているように見えない。


 どこと明言はできないが筋肉の動きや骨の回し方1つとってもどこかかけ離れているように感じる。

 動いているというより動かされているのだろうまさしく。


 さあ心の内を覗こう……!


『斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る強くなる斬る』


「げっ!?」


「?」


 一瞬ミアがこちらを見たがすぐに熱狂の声援にかき消えた。

 思わず私はのけぞり読み取りをとく。

 私が見たのは知的生命体の感情か?


 それとも……私が見たのは鎧と剣の……

 人吸木とはよくいったものだ……


「ダグラさん、彼の、ヴァルディバラードさんの様子なんですが、最近と昔で何か様子が変わったりしました? その、特にメキメキと強くなった前後で」


「ン? そうだな……とくに変わったことは……ああ、そうだな! あんまり鎧を脱いだ姿を見てないな。あとは、強くなる少し前、剣と鎧を新調していたな。ただまあ、自分にあった武装になれば強くなるのはそりゃあ当然だしなあ……そこまで不思議でもないな」


 あーんアウトである!

 どうしようかこれ。

 誘拐に関わってなかったとしてもアウトなんだけれど。


「そうなんですね……あっ、今の入り大きい。ちょっとトイレに行ってきていいですか?」


「え? 今……まあいいか、トイレはあっちだよ」


「はーいありがとうございます」


 ダグラは戦いの激しさを増す方へ気を取られている。

 だから私が離席するのは驚いたようだがお花摘みなら仕方ないからね。

 さあ急ごう。





 席をたってするりとみんなの意識から逃れていく。

 もちろん行くのはトイレではない。

 裏側だ。


 探知をかけながら探っていく。

 裏はメチャクチャ広いわけじゃないから割とすぐに見つけた。

 ベビーフェイス側の控室だ。


 聖騎士ヴァルディバラードは最近メキメキ強くなっている。

 当然小さいながらも個室を分け与えられていた。

 施錠されていたが問題なく中に(くう)魔法"ミニワープ"して侵入。


 "見透す目"で扉1枚程度簡単に向こう側を見れる。


「当然ここに証拠はないけれど」


 ぱっと来てみた感じきれいに使ってあるようだ。

 そうキレイに使われすぎている。

 生活感がない。


 武具の手入れすらしないのだろう。

 備え付けのものはほこりがうっすら。

 さてはてでは真実を見つけに行こう。


 いくら生活感はなくとも本人のにおいがするものや足跡は残る。

 それを元に探知を走らせ……

 追跡だ。






 時間はかからなかった。

 灯台下暗しというべきか。

 結論から言えばたどり着いたのは

なんと闘技場結界内だ。


 巧妙な隠し扉の向こうにあった地下。

 底は精巧なつくりではなく魔法か魔道具で無理やり掘ったのだろうか。

 思ったより広めの空間である。


 中に降りるとやはりここまでくれば鍵はなし。

 扉を開けばそこには……

 

「うっ!?」


 すさまじいニオイ。

 人の老廃物を煮込み続けているかのような。

 熱気と湿気と共にそれが私に襲いかかってきた。


 鼻元を抑えながら中を見る。

 ……人だ。

 いや血か? 脂?


 命なきそれらをニンゲンと呼ぶべきか。

 それとも血と脂と肉の塊とでも表現したほうがいいのか。

 私はこんな時そう迷っていた。


「……無理だ……こんなになってしまっては……」


 私は中にちゃんと入り暗い中暗視をきかしてみわたす。

 ソレはニンゲンの死。

 腕をもがれ足を断ち切られ。


 興味なく処分するかのように肉をバラバラに積んである。

 何人分だ……


 私の蘇生はなんでもできるわけじゃない。

 原型もなければウジがわくほど時間がたっていてそれが戻る奇跡は私には起こせないからだ。

 こういう時自分の手がまた届かなかった力の無さと男の姿の時にだけわくコントロールできない怒りが拳を震わす。


「ッ……!」


 今の音は!

 僅かに息を殺すため息をのんだ動き。

 私は慌てて奥の部屋へ駆ける。


 そこには暗闇の奥にただある鉄格子。

 闇の中に存在するさらなる、闇。 暗き力がみちみちて。


 もはや死を待つのみの目をしたものたちが複数。

 良くはなかったが闇の汚泥の中に攫われた光を見た気分だった。


「……!」

「……」


 みんなひどく怯え震えている。

 当然だ。

 ここの部屋に来るのはただひとりなだけ。明かりも無しにくれば私が誰かもわからないし。


 私は弱めに光神術"ライト"を使う。

 淡い輝きがあたりを照らした。


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