九百三十八生目 正体
お知らせ 「休載(強制)していました」を更新しました
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非常にうわあとなる観察結果を得てしまった。
私は武装を見る目はあまりない。
ただ魔法的なことなら少しわかる……
[人吸木の首刈り刀 その刃は最初朽ちたような木である。しかし、人を斬り殺し生き血を啜るごとに真価を発揮する。金属のような美しい輝きは多くの生き血を吸った証]
[人吸木の腹切り鎧 その鎧は最初まるで破れ落ちた鎧の拾い集めである。しかし人を殺した返り血を啜るごとに真価を発揮する。金属のような美しい輝きは多くの生き血を吸った証]
だめじゃんこの装備。
だめじゃんこの装備!!
なーにが聖騎士だ。
詳しいことはわからないのに殺意だけが高い。
多分こいつ犯人だろう!
ニンゲンを殺して生き血を啜るというのが明言されてーら。
おもったよりダメな武装だ。
問題は……じゃあ彼は何らかの犯人か? と問われると難しい。
なにせ聖騎士らしく普段は警備や賊の退治をしているのならいくらでも首をはねる機会はある。
戦争でもすればいくらでもその業が手に入る。
彼が戦うための聖か汚しをごまかすための聖か……
「あの、彼……聖騎士ヴァルディバラードはどんな人なんですか?」
ダグラに話を振りつつ戦いを見守る。
今のところ逆に変なことがまったく起こっていなさすぎるくらいだ。
そう。真っ当に打ち合っている。
ドラーグが踏み込み振り下ろした大上段に合わせ下がりながら切り払う。
すると重さ負けしていても力の方向が逸れて避けられる。
金棒を振り抜いたところをヴァルディバラードが接近。
きらめいた刃はドラーグの肩を狙うが金棒を引き戻し柄で防ぐ。
ドラーグの返すような棍棒の振りに急いで下がり互いの武器リーチ外。
小技の応酬ながら迫真に迫っていて会場は大盛りあがりだ。
「聖騎士ヴァルディバラードについてか……まあ、俺もそこまで詳しいわけではない、派閥違いだからね。ただ彼は最近メキメキと頭角を表しているな。最近は連戦連勝って話だ」
「へえぇ、たしかに強そう〜」
ヴァルディバラードは剣圧から光を飛ばし斬撃とする。
ドラーグが耐えて防いでみせると突破の方法を変えてくる。
「はあぁー!!」
剛剣といった感じにパワフルな振り。
力がこもるほど光は強く具現化していく。
派手なラッシュは単純に見栄えが良く大盛りあがりだ。
実況がなんらかの技を叫びつつ。
ドラーグはまともにくらわぬように耐え続ける。
必ず反撃の時がやってくると狙いすましながら。
「これ、攻めている側は恐いだろうな」
「そうなのインカお兄ちゃん?」
「ああ。攻撃するということはその意志に全力を傾けなくちゃいけない。ほんのわずかな時でも、相手の護りを抜くために全力を込めるときに意識の外がうまれる。近接戦闘ではそこをどう互いに突くかの戦いになるから、攻め続ける側はスキを晒し続けているに等しいんだ。やろうと思ってもなかなかできないよ」
「へえぇ、あ! ほんとだ〜!」
そうこう話している間に僅かな押し込みがヴァルディバラード側に見られた。
だがそれはドラーグの誘い。
不意にとんだ拳が鎧ごとヴァルディバラードを撃ち抜く。
『なんだとー!? 鎧をグーで行った!? これぞ鉄拳だああ!! これは判定、おりました! ウッドナックル!! 強固な鎧をも貫く大木の如き拳だあああ!!』
会場が一気に沸き立つ。
多分今のでフルアーマーの相手が吹き飛ぶほどだったからだろう。
しかしヴァルディバラードもすぐ体勢を立て直しているあたり本人が強いのかそれとも……鎧か。
「すごいですね、また向かってきましたよ」
「ああ、強い戦士だ。見目もよく、騎士らしさがあるのだから、それこそ本物になればいい。本物は安定していて給料もいいし、だからこそ、なぜ裏のところで稼ごうと思っているのは謎なのだが……」
「裏のほうが稼げるから、とかですかね?」
すっかりミーハー状態になっているミアがふと会話に入ってきた。
話……聞いてたんだ。
そう思ったのはみんならしく会話が一瞬止まる。
「……う、裏はたしかに稼げる。けれど、ほとんどの者は本職も持ってるんだ。きっと俺がしらないだけで、アイツも本職はあるんだろうがな」
ふーむ……ダグラはそう結論付けたもののわたしはまだどうと判断はできない。
こういう時は相手が無防備な心の時を狙うに限る。
"見透す目"……深度モード。
相手の思惑や体を透かすスキルだがどうせ今は戦いに夢中だ。
表層的な興奮よりもっと深い無意識を探るとしよう。
集中……!
私の目に鎧の中身が飛び込んでくる。
(わっ!?)
(おーおー、こりゃあ……)
思わず私が心の声を出すと私の人格が1つであるドライもそれに乗ってくる。
鎧の中身は飢えた目をしている男がひとり意志なくうごめいていた。




