九百三十三生目 竜武
私達はキングと宝物部屋で話を進める。
「わぁ、宝石に座れるよ! これは絵になるかもしれない!」
弟ハックは宝石が抜き出された塊に座っている。
ピンクのような藍色のような複雑な色合いがハックによくあっている。
インカ兄さんは赤い鉱石の上だ。
「なんというか、森にいた時を思い出すな……まあ、修行しているときは割と似たようなものだけれどさ」
岩から生えるように向き出ている赤い鉱石は光り輝き美しく力強い。 というかみんな心がタフだな……
当たり前の用に座るじゃん。
エイナは立ったまま。
私は真珠のような色をした水晶塊におずおずと乗った。
「よっしゃ、話をしよか。うちに何の話があったんや?」
そして平然と始まる話し合い。
いいのだろうか?
良いっていったんだからいいんだろうな……
そして存在感ごと希薄になり自分をギリギリまで消して震えているミアはどこにも触れないよう扉前にいた。
「なんだったっけ?」
「ニンゲンだよな、攫われたヒトがいる。花街の方はあたってみたが、全員いたわけじゃないらしいって話だな。向こうはメチャクチャだったからな……」
「ああ、ジャックのところは確かになぁ、弱肉強食をうたうのは良いけれど、秩序がなくて無法地帯やからなぁ……いずれ破綻するとは思ってたわ。より強力な力で討たれるのは、まさしくのぞみ通りやろ」
キングはジャックのことを冷たく突き放した。
それと同時に思考を回している様子。
言われたことを考えているのだろう。
「まあ、あっちはあっち、だね。それでこちらにも、無法地帯がないかと訪ねてきたんだよ」
「なるほどなぁ……まあ、目は光らせてはいるものの、同時に影がないわけでもない。ここはウチの王都や。王都には……スラムもある」
キングはゆっくりと心当たりを語りだす……
そのころドラーグは顔の泥をぬぐって大きな金棒を地面へ投げおいた。
「つ、つかれた……どうしてこんなことに……」
……ドラーグのここまでの経緯はかんたんだ。
賭博街のあちこちテントで追い出されたあとフラフラと別の雰囲気のする方へ。
そこへ潜ってみるとあれよこれよというまに謎の場所に。
そして体格良いからそうだろって思われたらしくドラーグは選手登録を流されるままして。
今ここに立っていた。
熱気と……叫びの渦中へ!!
まさしく意味のわからない流れながらも第1回戦である多人数乱闘を生き抜いたひとりになった。
ニンゲンに扮するために前に買った金棒をこんなところに使うとは思わなかっただろう。
大歓声のなか裏の控えに戻る。
そこで熱をとり再度また熱演へ戻る……
ドラーグは何がなんだかでここで来ていたものの悪い気はしていなかった。
少なくとも結果をだせば認めてくれるしい続けて稼げてもいい。
それにハンデを背負いながらの全力バトルはドラーグ的にも楽しく良かった。
殺し合いなら断固拒否でもこういう楽しむ雰囲気なら歓迎だった。
それはドラーグがつけた自信でもある。
「次の戦いは……?」
そもそもドラーグとしてはもはや稼ぎに関してはどちらでもいい。
一応景品交換所やら買える品々があるのでそこでトップクラスのを目指してみる……ぐらいの心持ちで。
モチベーションはやはり娯楽であるということ。
ここなら怖い思いをせずにすむ。
それならばドラーグがいる意味があると感じたそうだ。
ふたたび闘技場の中へと戻る。
高くそびえ立つ壁のうえには多くの観客たちの椅子が用意されて慣れべられている。
すり鉢状にココだけが低いのだが。
今度は1on1。
向こうから出てきたのはまさしく同型タイプと言えそうなゴツい体つきの男……なのだが。
「本当にニンゲン……?」
「ウオアオオオオォォッ!!」
叫び声を上げた男はなんとドラーグの身長を越した筋骨隆々さだった。
トランス先としては珍しいがそれを戦士として操れるならばこれほど頼りになる肉体はないだろう。
3mに届きそうなその身長から分厚い巨大なナタを振り下ろした。
「わっ!?」
もう試合が始まったのか混乱しながら避けるドラーグ。
慌てて転がるように横っとびすれば地面がナタによって砕かれる。
会場からは熱狂の声が響き渡った。
「おおっとアンブッシュだあーっ!! 狂戦士ダグラに常識は通じない! 正式に試合開始ーー!!」
「いいっ!? 違反で退場じゃないの!?」
そんな清廉潔白な場所ではないことをドラーグはまだしらない。
響いた拡声魔法の音の後にドラが鳴る。
今度こそ試合開始だ。
ドラーグは見上げながら対策を考える。
果たしてどうやるのがこの闘技場としての正解なのか……
そう。ただ血を闘うだけならばこんなところさっさと抜け出していたのだ。




