九百三十一生目 凹凸
ホルヴィロスは緊急的に診断を行うらしい。
あっちはあれでいいとして。
私はミアの元へ戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい。あの……」
「ああ、ロイダはこれから緊急入院、多分大丈夫」
「そうですか! それはよかった……!」
ミアはほっと胸をなでおろす。
まあずっと不安そうではあったからね。
そこは大事だ。
「そうだ! そういえばミアの村の方たちは? 何人かさらわれたって……」
「まだ見つからないんです、村の他のみんなが……」
「そうなんだ……怪しかったのはここだけじゃない。まだ付き合ってくれる?」
「はい、もちろん!」
肝心の相手そのものであるロイダはみつかったが……
まだ全員助かったわけではないようだ。
一応きょうだいのインカ兄さんと弟ハックと合流したものの集められた人員たちの中にそれらしい相手はいなかったそうだ。
なんとか終わったエイナとも合流する。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえいえ。それで……他にこのような商売をやっていそうなところはご存知ですか?」
「花街以外に、ということですか? そうですね……」
エイナは話しつつ観光用マップ看板の前に来る。
「まずはここ、現在地が花街です。花街での騒動はひととおり終わったと見て良いでしょう。後はジャックにやらせます」
こっちがやっておいてなんだけれど丸投げされるジャックが少し哀れに思えた。
「入り口近くから入った時、すぐにたどり着いたのが賭博街ですね。そして多くの人々を楽しませる娯楽街、そして中央のみが取り扱っている曲芸街……大枠としてはこの4つです」
今までなんとなくで巡っていた場所の話がまとまって出てきた。
こうしてみるととんでもなく広大かつ巨大な施設だ。
よくこれを移動式にしてやっているなあ……
「へむへむ」
「あれ、ハックとインカ兄さんなに食べてるの?」
「なんだっけ……ちゃろす? そんな感じの名前のやつ。うまいぞ」
「たしか……チェロスだったかなあ。コレ、揚げたてですごく美味しいよ!」
「き、気になるけどまずはこっちから……」
ふたりが食べていたのはチェロスだった。
なんであるんだチェロス……
翠の大地では見かけないものだったのに。
それはともかく話は続く。
「大枠の中で曲芸街と娯楽街は比較的余裕と資金のある、とてもよく管理された地域です。中央寄りなので当然といったところですね。問題は花街と賭博街のほうが多いですね。ここを収める者の名は『キング』。彼は我々運営側に協力的なため、
ちゃんと渡すものさえ渡せば良いはずです」
「渡すもの……袖の下とかかな」
「それは条件次第ですね。それよりも、手土産のほうが効果的でしょう」
思ったよりそのまんま渡すものだった。
手土産か……
キングのことを知らない私達ではそのままでは渡せないものだ。
「ええと、ボクから質問。その手土産って何を渡せばいいのかなあ?」
「そうですね……彼らはここの支配する者たち。このR.A.C.2内にあるものでは、不十分でしょう。キングは昔から石の類に目がないようで、みずからを飾り立てるより、管理し飾り愛でるような宝石たちにならば、あるいは」
一般的に宝石を手土産に……だなんて馬鹿げた話である。
とんでもなく高価な代物をポンポン渡すことになるからだ。
「ただ、そんな相手ならば、普通の宝石は良く持ってるよな……?」
「そのとおりです。つまらない宝石を持っていっても、まあそれなりの反応を返されるだけでしょう」
「だったら……迷宮産の宝石かな」
私は黄金砂漠の迷宮にあった宝石を亜空間から取り出す。
それは宝石としては大粒の石。
しかし……
「それは……? 磨かれてはいますが、まるで透け通らないあたり、単なる石のような……?」
「ふふ、これは石好き用の石なんだ……まあ、いけると思う」
私は指の中に握りこんだ。
屋敷に通らせてもらい中に入りキングと向き合う。
あたりにはきらびやかな宝石たちが各々美しく棚に飾られていた。
触れるの禁止! という圧を感じる。
なんだかしっかりとした石造りの椅子に座ってキングと向き合う。
キングという男は……なんとも長身痩躯な男だった。
名前には相応しくないほどに威圧感はない。
ただ逆に……
どこか静かな佇まいなのにまるで内側に秘めているようにみえる。
油断のならない男だ。
そして気づいたことがある。
この木材が鉄のような世界での石への執着……
普通じゃない。
「では、すでにうかがってるとは思いますが、ウチがキングやさかい、よろしゅう」
「ローズオーラとインカローズ兄さんと弟のハックマナイトです」
「これはご丁寧に」
「よろしく」
「よろしくね〜」
まあとりあえず挨拶から入ってた。




