九百二十五生目 勝敗
ジャックが外したターンを凌ぐことで私は大きく有利盤面になった。
それに気づかないのは相手ばかり。
ディーラー役のエイナもなんとなく場の勢いを読んでいるようだ。
「……ここまでが長かった。私の数字探しはとにかく情報集めに似てたんだ。相手がありそうな数字と傾向を1つずつ丹念に潰して。そこから攻撃をはじめた」
「なんの話だ」
「もう、決着はついている」
相手のカードと自分のカードが1枚同じの6だった。
これが大きな防御力として働いていたようだ。
相手はなんとなく自分の数字を避けていたように思える。
そして私は相手の数字は特定済みだ。
「2だ」
「なんだとっ!!」
ジャックが怒りの声と共に立ち上がる。
それに驚いたのは周りの観客たちだ。
なにが起きたのかと目を揺らす。
「早くめくってください」
「インチキだ! 従業員、貴様、こいつと内通しただろうっ!」
「していませんが。するメリットがないので」
「嘘をつけ、デタラメを言うな!」
怒り心頭といった様子で私とエイナを指差す。
エイナはやれやれと肩をすくめた。
「せめてイカサマ指摘なら、トリックの説明でもしたらどうですか?
私の方は見逃していたのに」
「何!?」
「あっ、やっぱりそうだったんだ」
イカサマは防ぐ努力はしなくちゃいけない。
スキルで"影の瞼"などを使い読心や覗き見を妨害しまくっていた。
何か感知に引っかかるなあとは思っていたんだ。
ジャックは今度は顔に青が交じる。
けしてウンとは言わないだろう。
だけれどもほぼ肯定と同じことだ。
「クソがでたらめばかり並べやがって!! ものども、かかれ! こいつらの思う通りにさせるな!!」
「「おうっ!」」
「おやおや、結局そうなってしまいましたか」
エイナはのんびりと話すがあちこちからひょっこりと筋骨逞しいジャックの部下たちが出てくる。
場所が場所なだけに武装が魔法加工服に拳を保護するグローブととても軽装。
ふーむ……普通にやって大丈夫そうな相手しかいない。
しかしそれはここの場ではおそらく正しくない振る舞いだ。
そう場には場のふさわしさがある。
ジャックが指さして私にひとりが思いっきり殴りかかり。
ドンという音と共に拳が振り抜かれ。
「いってぇ!? て、鉄……!?」
戦闘もできる黒スーツとその内側に出した男状態で出せる外殻を一瞬展開させた。
鉄板ぶん殴ったようなものだ。
指が痛くなってもしかたない。
さて大事なのは既成事実である。
「いま、私を、殴った。おーけー?」
「ええ、見ていました」
ではあとは1つ。
怯んでいる彼らに対してやることは。
大きく息を吸ってだ。
「暴漢に襲われてま~~す!!」
「なっ」
「は?」
「ああっ」
エイナはさんざんヒントを残していた。
そもそもここでの乱闘は御法度なのだ。
従業員が『注意』していたのだ。
どのような理由であれ……と。
つまりそれは私が反撃する理由にもならない。
だがとんでもない打撃を与えることはできる。
それは私が被害者になることである。
きっと後ろ暗い商売をやってきたジャックにとってはこのような処分など日常的。
だからこそリスクに対して感づくのが遅れた。
今悲鳴のような気付きの声が聴こえたがもう遅い。
エイナのひとみが輝いた。
手元の魔道具をいじりどこかに連絡を入れる。
「緊急連絡緊急連絡、暴漢発生、被害者あり、直ちに対処されたし。場所は花街の…………」
もはや連絡途中だとしてもあたりの空気感が変わっていく。
そりゃあ見越していただろうなこの事態。
――周囲から突如暴力が降り注いだ。
魔法の氷や雷撃が降り注ぐ。
エイナのように従業員服を着た者たちが降りてきてあっという間に蹴散らしていく。
考えれば当たり前なのだ。
法的警備力がなければ自治する力を持つ。
でなければ客たちを理不尽から守れない。
客たちを守る暴力はこれまでジャックの味方として機能してきただろう。
しかし今牙をむかれるその時だったというだけだ。
警備従業員の手がジャックの肩へと伸びた。
「なっ!」
「ご同行願います」
「誰だと思っている! 俺は管理者だぞ!!」
「それでもです」
腕をふたりに両側組まれる。
簡単に見えて関節が入っている。
あっさり足すら崩され運ばれていく。
「ぐああぁっ!? 離せ! 離せえぇぇぇ!!」
「……負けた者の遠吠えはなんとも虚しいものですね」
エイナはいい笑顔で見送る。
私は冷や冷やものだったが。
「私が負けたらどうするつもりだったの……?」
「その時はその時です。負けた側が失うのは、ここのルールなのですから。あと……ツカイワ様の様子から、負ける気がみられませんでしたので、まあよいかと」
いいのかなそれで……




