九百二十四生目 笑顔
ジャックとの試合。
相手のカード数字をあてるだけの簡単なゲーム。
しかし実際はかなり推測出来ることがある。
というかもうすでにそうだろうなという数字は見つけた。
この1枚をいきなり当てることはできる……が。
違う。このゲームは駆け引きだ。
1枚目は相手に対して軽い打撃しか与えられない。
まだ余裕がある……そういった瞬間を突くのだ。
それに1つの数字がわかったということは残り彼の手元にある数字は限られていく。
とにかく少しでも多くの情報を引き出すのだ。
「まずは俺からだ……数字は7、どうだ?」
……指定された数字の上下に手持ちの数がある場合どちらを宣言してもいいとされている。
つまり13と4をもっていたとした場合、5と指定されてもハイ宣言でも構わない。
そこは駆け引きなのだ。
私は6と8と13。
指定数は7だから。
ここまでを高速で頭を回して……
「その数字より、ハイだ」
「なるほど……んじゃあそっちの番だ」
7は半分の数。
6がきたら手痛かったがしのげたようだ。
そしてニンゲンは感情のニオイを隠すのに長けていない……
向こうの一挙一動もいいが1つのニオイから詰められることもある。
ジャックのカードの中には7より下がある……
私のことなのに安心のニオイが混じったのがわかった。
さあいくぞ!
私がカードで賭けている時。
別のところでカードで賭けている者たちがいた。
「もうやめときましょうよー」
「まずいですって、この消費速度じゃあ1日持ちませんよ」
「金額換算……うわっ、損しすぎ……」
「うるせえって! ここで当たれば1発逆転なんだよ!!」
おっさん3人……という装いに化けた隠密3名。
それになだめられているのはダンだった。
その大きな骨筋の肩幅がやけに小さく見えたと言う。
「さあこんどこそ……ああっ、ブタだ!」
ダンがテーブルの上に手持ちのカードを投げる。
勝負の降りだ。
ひっくり返されたカードたちはここから役が揃うにしてもあまりに弱そうだ。
ポーカーのようなゲームでテーブルについたもの同士で戦う基本的なもの。
ディーラーは開始時に一定のチップを得るのみのタイプ。
「ガハハハ、兄ちゃん! 悪いな!」
「悪いと思うなら手加減してくれよ……」
「運ばかりは手加減できないのですよ」
大きなテーブルについている他の面々になぐさめられるものの背後で止めている隠密班達は気が気でない。
派手に金を使って派手に駄目になっているダン。
明らかにダメなループに入っていた。
ダンはこの時点で大敗していて所持していた1000ポイントが枯れるところだった。
「まあまあお客さん。気分転換はいかがですか?」
「気分転換ー?」
「ええ、良い所を紹介できますよ」
ディーラーに苦笑いでそう言われテーブルから引き離される。
ダンは一旦落ち着くべきだとその場の全員がそう判断していたからだ。
というわけで移動して。
ダンは1つの華やかな店の前まで連れられてきた。
隠密隊の面々がいなくなっていても誰も気にも止めない。
「ここはぁ……?」
「行けばわかりますよ。おうい! お客さんだよお!」
「はーい!」
そこの中から顔を出したのは……
ダンいわく『べっぴんさん』だったとか。
「わぁ……」
「おや、はじめてのお客さん? ちょっとまってね、ゆっくり、さあ、中へ」
その女性は一瞬にしてゆるりと距離を詰めて。
速くないのに他人の意識をかいくぐるような接近にダンも驚き。
いつの間にか手に指を沿わせられていたとか。
それだけでダンは頭が真っ白になった。
いつの間にかたったふたりとなって。
フラフラと手を惹かれるままに置くヘ奥へ誘われていった……
私の戦いはというと。
こちらが残り1枚。
あっという間に追い詰められ残っているのは6のみ。
対して向こうのは1枚しかとれてない。
残り2枚。
私が追い詰められていた。
冷や汗が顔を伝う錯覚をする。
ニンゲンだったらしていただろう。
「さあて、あとはゆっくり追い詰めるだけだ……」
「獲物はトドメをさすまで追い詰めたと思わないほうが良いよ……」
「さあ、そっちの番だ! 当ててみな!」
だけれども残りのカードとこれまでのやり取りで……
既に見えている!
「次の数は……」
「フフン……」
「6だ!」
私が数を指摘する。
するとジャックの眉がピクリと動いた。
……カードが1枚捲られる。
「マグレにしては、やるじゃないか」
「どうも……ではそちらの番です」
「だが、こっちが有利なのに変わりはない! 3だ!」
「……数字に対して、ハイだ」
「よし、次のターンでしとめる!」
その次のターンが回ってくるなばね。
私はやっと笑顔になった。




