九百二十一生目 仮面
アカネと対峙する相手はあくまでただのインストラクター。
なので。
「でやああぁぁ!!」
「ぎゃあああああっ!!」
「げえええええっ!?」
鎧袖一触。
吹き飛んだ相手たちは壁に叩きつけられる。
これを後で聞いた私の心情と胃を察してほしい。
「誰かあの子止めろ!」
「受け身すら取れさせない攻撃は危険なのでお止めくださいお客様ーー!!」
アカネは攻撃を防ぎながら振り返り背後の九尾博士を見る。
「本当に大丈夫なんだよね?」
「ああ、自分の身くらい自分で守れるわい、さすがに孫のような年齢の相手に心配されるほどではないの」
「じゃ、行ってくる!」
アカネはそういうと蹴散らすように駆けていく。
それをどことなくまるで本当の孫でも見るように……
九尾博士は優しい顔をしていたという。
背中からバチバチと音をたてるエレキの走った機械を取り出しながら。
「新しく設計を組み直して作り出した、ビリビリ吹き飛ぶ君3改の出番があるといいのじゃが……」
物騒なふたりのダンジョン攻略は続く。
ニンゲンで毛皮を持ち狼のようなアタマを持つゴウはダンやアカネとわかれたあと意外な人物と気があうように同じところにいた。
「……へぇ、ではだいぶ仕事はタイヘンなのでは? ラゴートさん」
「ええ。でもやりがいがある仕事です」
ラゴートは人竜の魔物。
細身の体にぴったりなスーツは同じく細身のゴウと並ぶことで際立たせている。
その竜特有の迫力ある目も認識阻害用サングラスで和らいでいた。
ふたりは性格の良さからすぐにマッチして移動。
とても彼ららしさがあるように中央まで来ていた。
中央テントは巨大かつどれもこれも一級の品々が用意されている。
彼らが中に入った先はサーカスとかかれていた場所だ。
席に座りショーが始まるのを待っていた。
サーカスのショー。
彼らは詳細を知らないで中に入っていたが見せ物小屋のようなものだという認識はあった。
漏れ聞く話題も多くゴウとラゴートを楽しみにしていた。
やがてテントの中が暗くなっていく。
そこから始まるのは何なのか。
「始まるようですね……?」
「あ、舞台だけ明るくなりましたよ」
中央の舞台。
そこに当たるのはスポットライト。
ただひとり奇抜な格好をした男がお辞儀する。
「お集まり頂いた皆様!! 本日は、誠にありがとうございます!! この催しは、見やすいよう何回かに分けて行われます。ぜひ、最後までお見逃しのないよう注目してごらんください!」
はつらつとした声で注目集めが行われる。
奇抜な格好の男……つまりピエロ役のスタッフがどこからでも見やすいように仰々しいほど大きなお辞儀をして。
スポッと光が消え去る。
ここからはラゴートが見た話をしよう。
光が消えたあと男はスッと素早く下がったらしい。
スキルを使わないすみやかな移動により次なる演者達はまるでいきなり舞台に立ったかのように見えたという。
いくつものスポットライトがつき派手なニンゲンたちが華やかに舞い踊りだす。
曲がテンポよく流れ出しどこの席でも聴こえるようになっている。
開いた花のような見た目は景色を好むニンゲンらしいとラゴートは思った。
「実に可憐なお嬢さん方が出てきましたね」
「踊って……ますね」
激しくも魅惑的なダンスが終わったあとに会場は明るくなる。
手を繋いで例をして客席側に手をふってきた。
その後にこの場から立ち去る。
次には巨大な玉に乗った子がやってきた。
そのまま落ちそうになりながらも何度もその上で曲芸をしだす。
棒を何本も空中に放り投げてジャグリングしながら玉のバランスをとって。
会場が割れんばかりの拍手になったあとはドジそうなニンゲンが来て派手に転んだり。
さっきの玉乗りの子がツッコミを入れたり。
そのたびに会場は湧いていたという。
「すごいですね、10個も炎がついた松明を投げ合いながら、大玉に乗っていますよ。曲芸というものでしょうか」
「あ、ああ……なるほど」
……にこやかなのになんだかすれ違うようなその場の空気は見終わるまで続いていく。
「まったく、この仮面が売っていて良かったよ。落ち着かないからね」
「むしろそのせいでものすごく目立っているような……?」
片方はオウカさん。
そしてもう片方は鍛冶師のカンタ。
知らない同士かと思えば顔見知りだったらしい。
オウカの剣や鎧を打ったことがあるそうだ。
意外なところで繋がりがあったふたりは屋台道を歩いていたが。
オウカはいつのまにやら民族の何かを司ったかのような面を被っていた。
屋台での売り物だ。
蛇のような竜のような委託でわりかし豪華。
本来は飾るものだろうなあ……




