百九十六生目 土砂
魔力の種類を変えれば"進化"の先も変わる。
コレは覚えておいた方が良さそうだ。
私自身を"観察"!
[ホリハリー Lv.23]
[ホリハリー 個体名:ローズオーラ
魔を統べる森の魔女。怒りをかったものはその魔眼で見詰められ様々な災いにかけられるという]
魔を統べる森の魔女……か。
たしかに全身のイバラ模様や背後の目の模様あたりもいかにも呪術的な魔女に見える。
だが見た目だけではない。
今の私は息をするかのように魔法が理解る。
莫大な魔法の力を扱える。
深い闇に身を浸して沈むように。
怒りで正気を手にし冷静な部分で正しくその闇の恐ろしさがわかる。
たまたまだったがおかしくならずに済んでいる。
そういえばスカーフがミニマントのような形に変化している。
しかも私と融合している?
ひらひらした部分すら私の一部だと言う感覚がある。
そして直感的に一番大事だと感じるのが胸のかざり。
トゲや肉体の一部で出来ているのだろうそれを傷がつかないようにそっと掴む。
……そう、なるほどね。
色々やることはあるが"見透す眼"で少年を見抜く。
肉体も心も。
全てを額の目で貫いて視る。
「グッ……! 気味が悪いッ!」
少年がまとわりつくものを振り払うかのように手を振る。
ただ物理的な干渉はないかは空振りに終わる。
さて、と。
「ずっとほんの少しだけ違和感があり続けたんだ」
「……何の話だ」
「キミはまるで力だけを求めそれに振り回されるかのように暴れまわった。さらに爆発的な怒りと殺意で、喚き散らしながら惨事を繰り広げた」
「話が見えないな。そこをどいて――」
「ココまでずっと感情を操って計算づくしで動いていたよね?」
少年の目が変わった。
構えは解いていないが核心を突かれたように見える。
「……」
「私も色々経験しているから、訓練しつくして感情はともかく戦える姿やただ激情に任せて振るう戦いは知っているけれど、キミはそれとはまるで違う。
確かに怒っている、殺したがっている。だがそれと同時に異様なほどに冷静で確実に攻めている。
デタラメに振り回すかのような剣は確実な一手を決めるためのフェイク。
無茶苦茶に放っているかのように見せかけた魔法での炎上も、実際は狙ったよね?」
そう言って私は背後を指す。
周囲はごうごうとテントが燃えて風のせいで燃え移り倒れている。
だがイタ吉とカムラさんが互いに肩をかしながら逃げていった方向である背後だけは炎がとても少なかった。
気をつけなければ偶然に見えるだろう。
だか一連のどこか冷静な攻防を見るとこれすらも狙って逃がす方向を決めていたのだろう。
ひとつ失敗してもその先のリカバリが効くようにひとつひとつ先々まで組んでいるのだ。
だから少年は私を怒りのまま無茶苦茶に突破せず罠を警戒している。
逃げ先がわかっていれば追いかけられるという自負も私を排除できる自信もあるのだろう。
だがつまらないことで追いかけて殺すための体力を消費はせずに石橋を叩いて渡るかのように攻めている。
「ただの魔物……ではなさそうだな。確かに、俺は長い間の訓練で感情を有効活用し支配下に置けるようにした。でなければ、俺は絶望に塗りつぶされて立ち上がれなかったからな。わかるか? 俺の絶望が。
肉体よりも過酷なその試練を乗り越えて俺は"進化"を手に入れた。
この力は心を蝕むから確実に感情を支配下に置く必要がある。『悪』を殺すのに都合が良い力だった。
それは"進化"を使えるお前もわかっているだろう」
「そうだね」
「時間稼ぎも、そろそろ良いだろう?」
まあ時間稼ぎなのはバレているよね。
ただ傷ついたカムラさんたちの歩みは遅い。
こんな短時間では一瞬で追いつけると踏んで付き合ってくれたのもあるだろう。
だかまそれだけの時間稼ぎではないのだ。
「まあそう言わず……」
「――これは!?」
飾りを掴む右手に力を入れる。
その時初めて巨大な魔法が空に展開していた……と少年は思ったはずだ。
実際は少年にギリギリまで気づかれないように魔力反応を偽装しながら唱えていたのだ。
空から勢い良く土砂が降り注ぐ。
ただし私達の周囲のみにだ。
良く燃えていたテントたちが押しつぶされるほどに多く、多く!
「なっ、クソ!」
「じゃあ、もう少し付き合ってくれるよね?」
ちょっとやそっとじゃあ乗り越えられないほどに高く周囲に土砂が降り注いだ。
しかも足場のない砂利だから私に背を向けて楽には登れないだろう。
炎は土によって鎮火された。
"アースレイン"だ。
ただし規模は前使った時の比ではない。
範囲も量も桁違いだ。
少年にはこれからたっぷりと『災い』を受けてもらわないとね。
もう時間を稼がせるのは危険と悟った少年が剣を構え突っ込んでくる。
私も真正面から彼を見据え胸の飾りをしっかりと掴んだ。