九百十三生目 屋台
「す、凄い……なんなんだあの服装は……」
「新しい……かっこいいな……」
「あの方たちが例の?」
「ああ、黒VV.I.P.様だ。本物がおられるとはな……」
私達はゲートから一斉に歩いて出ていく。
こちらの勝負服である黒スーツに驚き驚嘆の声をあげるもの。
私達が黒VV.I.P.としって心揺れる従業員たち。
そんな騒然の中心となったことで私達に下手な絡みは一切なかった。
初手は悪くなかったらしい。
それにしても……
「周囲の道に、たくさんの屋台がならんでいるんだなあ……思っていたのと少し違うなあ」
「そういうものなの? 僕は詳しく知らないんだけれど」
「とりあえず俺たちはこっちに来たけれど、なにがなんだが……とにかくすごいなあ」
私と弟のハックそれにインカ兄さんと共に歩む。
なお私の男化に関してはさんざんいじられ倒したので省略。
なんなのだ、「いつかなると思っていた」とは。
通路周囲には屋台が立ちならんでいた。
所狭しと開かれている様々な種類の屋台はなんとなく私が抱いていたイメージとは違う。
テント郡はたくさんあるもののどれにいけばいいか……
それにこの道に開く雑多さはなんなのか。
ちょっと掴みきれない。
そんな時に私専属らしいエイナがスッと横に来て説明してくれる。
……ちなみにエイナは私が男になったのを黒VV.I.P.の持ち主ならそのような魔法技術も使えるのだろうと無理やり納得していた。
おそらく10ではきかないほどに聞きたいことはあるのだろうが全て飲みこんでくれている。
それが従業員としてのそして専属でしての姿なのだそうだ。
こちらとしては助かるけれど。
その時には、「ここの方たちは、プライベートを大事にされる方が多いのです」と言っていたがつまり探られたくない腹や正体持ちが多いということ。
チラチラとマスクや認識阻害持ちが見える。
看破しても良いけれどロクなことにはならないだろうなぁ……
「ツカイワ様、ここは施設としては歓楽広場でございます。ここは我々施設担当の者がいない、自由市のようなものです。ここでは申請を出した者たちが、商いを行えます。屋台の者達は程度が低いので、ツカイワ様たちは相手をしなくて大丈夫でしょう」
ツカイワと呼ばれて遅れて自分のコトだと認識する。
未だにこの貰った名字になれない。
ただこういう場ではやはり家名のほうが良いし冒険者としての活動じゃないからというのもあるらしい。
「へえぇ、ここは市場なのかあ」
「まつりの会場に入ったら市場とは、なんだか奇妙な気分になるな……」
「まあ、我々としてはいてもいなくても同じという見解ですが……こう見えて、循環や比較という意味では役立ってはいるのです。これを見たあとでは、我々の管理する部分の価値が高く見えますからね」
「そ、そうなんだ……?」
エイナはスッと進む向きを変えて屋台の方へ歩む。
その屋台は雑多なものが売られていた。
本、灯り、油、食べ物、キレイな服。
それに宝石を加工した装飾品らしきものもちらちらと見える。
魔術媒体になるため結構重宝されているものだ。
店の店主はこちらを……正確には従業員であるエイナを見るとサッと顔色を変える。
おそろしいものを見てしまったような。
「ら、R.A.C.2の方!? な、何か御用で!? マージンはちゃんと今日までに……」
「そんなくだらないことはどうでもいいのです。この御方たちに、貴方が誰の何を売っているのか説明なさい」
「は、はぁ……えー、ここにありますは、古今東西から募った奇品逸品勢ぞろい、0.5ポイントからの取引、こちらの本は別大陸の、ピッ!?」
エイナの目線から軽い殺気がとんだ。
それは一般人をひるませるには十分。
目線だけで飛ばしたので正面相手にしか意味がないあたり手慣れている。
「誰の、何ですか?」
「しゅししししし主人様のです! 主人様が、ここで手放す覚悟をなされたものです!!」
「……とまあ、こうやって金を稼いでここで再度使い込む奴は、多いのですよ。総量としては大したことはなくとも、下層の支えとしてずっと成り立っているのです」
「は、はぁ……なるほど」
私達は説明になんとなく納得する。
チップかわりに魔法の指輪を買っていこう
結構希少そうだけれど本当に大丈夫なのだろうか?
「それじゃあ、このポイントで……」
「毎度どうも! 見たことのない券ですなあ」
ポイントは人数分のVV.I.P.黒カードにわけられている。
私のがマスターカードで他のがサブカードだ。
見た目が大きく違うので知っていればわかる。
まるでどこかの世界の機械みたいな魔道具を通してピッと音がすることで譲渡が完了したようだ。




