九百九生目 街道
翠の大地に戻ってきた。
さて私はとりあえず移動サーカスの方へ向かうこととなる。
こっちの神の依頼もこなさなきゃな。
人さらいが起きているならなおさらだ。
大のために小が犠牲になるのならば……
本来その小を守り抜くのが冒険者たる力なのだから。
私は首都を出発ししばらくの間歩む。
街道が整備されていて比較的ラクだった。
あと人通りも多く明らかに同じ方向へ行く者が多い。
事前情報通りだ。
……実は街で聞いていたことはいくつもある。
まずこの道は主要道路の1つである。
太い動脈のように首都から隣のくにざかいを超えて向こうの首都までの道のりが整備されていた。
そしてそれだけではない。
「やはり、そちらも?」
「ええ、大人のサーカス団へ」
「やはり最近はそちらへの依頼が多いですよなあ」
「ははは、中には入ったことはありませんが、金払いの良い客ばかりで助かります」
「ですよなぁ」
御者たちの会話が聞こえる。
彼らは鳥車に多くの客たちを乗せて進んでいく。
しかも乗合鳥車じゃなくて個別だ。
移動サーカスは様々な呼名がある。
そのひとつが大人のサーカス。
大人の遊技場だのの呼び方もある。
何か複合施設らしく入場するには大人である必要があるのだとか。
つまり金だ。
そこは客商売だしどうこう言うつもりはない。
富裕層を集めてたくさんの金額を引き出せて良い雰囲気づくりができるならそれはそれで成り立つ。
まあ私が入れるかが不安になるけれど。
それでも道中は警備の関係もあって驚くほどスムーズに行けた。
やがてたどり着いたのはくにざかい。
国境と言うには大げさで。
領境にしては立派な門が待ち構えている。
私はここをくぐらない。
まあ先程の御者の率いる鳥車たちも同じだが。
門への道を外れ最近出来たような道を歩んでいく。
野良道みたいだが確かに石で出来た小物が道の側に設置されている。
やはりこっちのようだ……
素直についていく。
一見秩序だっていない道のようでその実往来のにおいがすごい。
単に国が整備していないだけで実用数は高そうだ。
魔物が言うのもなんだが魔物よけとしても成立している。
なんだろう……香水……かな。
液体状のにおいが振りまかれておりそれが簡易的な結界を成している。
このまわりは弱い魔物ならば避けていくだろう。
まあ私は関係ないわけだが。
しばらく行けば門なんかも離れくにざかいが曖昧になっていく。
だんだん地形も入り組みだし本当にこんな奥地になにかあるのかと不安にさせる。
だけれども道は続く。
石で作られた小物も続く。
くにざかいを超えてどこからか繋がる道たちと合流しながら。
ここで我慢できずに上からスキルでみてしまうのはまだまだというわけだ。
私クラスになれば向こうの動線に従っていちばん見せたいところで見る。
まあ戦いになったら無視するけど。
だがやがて長い長い道のりは終わりを迎える。
歩いていた道のりは長く単に直進ではなく。
どこか複雑な地形の奥に誘われていて。
たどり着いてそれがはっきり明らかとなった。
地形が入り乱れた奥地は不思議と周囲からこの世界を隔離する。
世界の奥地は私達に新たな世界を提供してくれた。
黄金の輝きとシックな黒。
広々とした広場と設置された巨大なモニュメント。
そしてゲートの向こうに見える大きなテントたち。
たくさんのテントの向こうに……明らかにひときわ大きなテント。
ここは別世界。
あまりに巨大で小さな世界。
「ウワッ……」
恐怖だ。
現代においてここまで派手で輝かしく灯りも輝いて広場が賑やかな世界があるだなんて。
これを作る労力は果たしてどれほどまでか。
「おや、ここは初めてかい?」
ふいに声をかけられた。
そちらを向くと鳥車に載っていたであろうひとりの紳士然とした男性。
ほかにも多数の者たちがいるようだ。
ただ殆どはテントの方に注目が行っているが。
「ええ、まあ初めてですね」
「なるほど、やはり」
紳士然とした男は何かを納得した様子。
私は首をかしげることしかできないが。
心を読み取っても良いが余計な攻撃をしたくない。
「だったら先に行っておくが……少し残念なお知らせがあるかもしれない。まあ、ここの従業員ではないから、確定ではないんだが……」
「えっ、やっぱり、格好とかに規制が!?」
冒険者は荒くれ者だ。
服もそれに準ずる。
荒くれ者の格好をした泥臭いやつは暴力の元だから入店禁止! というのは……残念ながら珍しくはない。
特にこういういかにも高級というところは。
「まあ……私から話すことではないかな。その、せいぜい、気を落とさないでほしい」
「は、はぁ……」
なんなのだ彼は。




