九百七生目 録画
神使の石を融通してもらえるらしい。
希少品だからなかなかもらえないのに……
「いいの?」
「まあ、余っているからのう。あまり儂が渡すのも問題になるから1つだけだが……そもそも、神使はなれば、まだ覚醒をしていなくても、もはや内側に力が存在する。神と向き合うには十分じゃろう」
「そうかな……?」
「もし、危機に陥ったとして、そのときは目覚めのきっかけになるじゃろうしな」
とりあえず納得をしておく。
何せさすがに神のまわりはまだわからないことの方が多いし……
翠竜は水面に手をつけてすくうといつの間にか小さな石がそこにあった。
石を突き出され受け取る。
間違いなく神使の石だ。
「うん、ありがとう」
「何、例には及ばん。それよりも、なすべきことを成してくれるほうが、ずっと重要じゃからな」
「……やっぱり、今回の件はそれほど大神の界隈でも、大きな事件扱いなのかな?」
「まあなあ。現在、地上に残っている大神は、基本的には悪徳の類はおらなんだ。それが、今回多くの神と大神の領域に足をつっこみ荒らすかの如く所業……ゆめゆめ忘れるな、今回の件、想像よりも危険かもしれぬ」
翠竜の言葉に私達は深く頷いた。
私はすごく身に覚えがあるしみんなも翠竜の言葉ならば重く受け止めるからだろう。
私達は翠竜と別れ元の爪まで転送させられる。
あそこは翠竜の神域で小さな迷宮を生み出してそこにあるんだとか。
ユウレンが死霊術を使えない理由だと推測していた。
「それで、誰を神使にするのよ?」
「そこなんだよねえ……」
「誰でもいいってわけじゃあないんだよな」
「ボクはだめなんですか?」
「駄目ってわけじゃないけれど、忙しいよね……」
たぬ吉は神使に適合できる。
私に適応させた石がちゃんと反応していた。
だがたぬ吉は基本裏方であり様々な重要業種を任されている。
最近は任せることも出来るようになってきたと言っていたが任せるために責任を取る立場として割り振りその場に居続けバックアップをするという仕事が増えていた。
今回も仕事が休みをこじあけてやってきているので1日の冒険の後帰還する事となっている。
たぬ吉もそれをわかっているらしく惜しそうに下がる。
なぜ惜しそうなんだろうか……
「ワタシも似たような理由で無理ね」
「ユウレンもあんまり外で働くタイプじゃないもんね……」
そしてユウレンも除外だ。
彼女も常日頃アノニマルースで業務を行っておりフラッといなくなる師匠のウロスの穴埋めで必死だ。
大量にいる骸骨たちアンデッドゴーレムのメンテナンスはユウレンがしている。
一手に引き受けているわけじゃなくて組織として動いてはいるがやはりトップの腕前がいるかどうかは現場の能力にかかわる。
やはりアノニマルースにいてほしい人材だ。
ドラーグは自分で神力を獲得した越殻者だ。
勇者の盟友と過去に呼ばれる存在らしく誰の神使でもない。
だとすれば後は……
「残ったのが……イタ吉かな」
ニンゲン組を除くとそうなった。
イタ吉ならむしろ喜んで戦いに赴くだろう。
そういうタチだ。
「今日は本当に楽しかったです。まるで昔みたいに、駆け回って、戦って、みんなとご飯を食べて……」
「ま、悪くはなかったわね、たまには。ここまで苦労して、変な力を貰っただけれど……こうやってたまに馬鹿騒ぎするのもいいわね」
たぬ吉とユウレンが満足そうに語る。
なかなか前に出られない職ゆえにたまにこうやって交流出来るのは私としても楽しかった。
ユウレンたちと笑顔で向き合う。
「所で」
ノーツが珍しく話に入る時に前置きをした。
そのためむしろ全員がノーツを注目する。
「ん?」
「全員の変化データを録画し編集し保存済み。そのため、詳細データを各々閲覧可能」
全員がその言葉の意味を理解する。
つまり自分のわけのわからなくなったあの姿を。
誰かが自分でないところで見られる可能性を。
「「他の人にはみせないで!!」」
その言葉が全員から飛び出すのは必然だった。
こんばんは私です。
無事アノニマルースに帰れた私達は家に帰っていた。
というわけで。
「いやー今日はほとんどダメージがなくて本当に良かったよ〜」
……ホルヴィロスによるメンテナンスを受けていた。
ホルヴィロスが心音1つ聞き逃さない姿勢で私は椅子に座らされている。
ツルがあちこち伸びて器具を使い私を測定していた。
「うん……そうだね……ダメージはなかったね……」
「……? どうしたの、ローズ」
「少し見てもらいたいものがあるんだけれど」
どうだろう。
いきなり見せて驚くだろうけれど……
ただやはり診察はしてもらいたい。
これが果たして無事なのか。




