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十八生目 焦燥

 この群れは野生生物らしく、暇があれば毛づくろいか睡眠、時間は次の空腹までを何とか誤魔化すものという至って退屈な過ごし方だ。

 まあ仕方ない、生きる事でギリギリなのだから。

 ちなみにダイヤ隊はみんなが寝ている時も草食動物並に気をはって奇襲に備えて見張っている。

 交代しながらではあるものの見張りは見ててしんどい。

 まあそれほど屋根のない所で暮らすというのは大変なんだなぁ。

 当事者ではあるが見張り番はしてないので気楽なものだ。

 私も光魔法を鍛えがてら真似をするためディテクションを唱える。

 レーダーを起動していればなかなか奇襲はされないと思う。

 ただしそこそこ近い相手……つまり私の感覚が拾える範囲しかないので過信は禁物だ。


 この、魔法を唱えるというのは頭の中で習得したスキルから選ぶ感じだ。

 ディテクションという名前は覚えにくく忘れやすいがちゃんと光魔法を選べば頭の中に一覧がぱっと浮かぶのでありがたい。

 それにしても魔法とはなんだろう。

 オジサンの話を聞いたら魔法というものに対し深い疑問を覚えるようになった。

 神術との違いもまだ分からない。

 カロリーを消費して生み出す力、行動力を変換し魔力とする。

 魔力は魔法にさらに変わる事で現実に影響を及ぼす。

 魔とは、現実ではないもの……?




 この群れには別に思想程度が娯楽しかないわけではない。

 それを私はいつもの昼に知った。


 ディテクションによるレーダーに複数の緑点が引っかかる。

 緑点は警戒していない存在だ。

 私の耳は人よりも遥かに良くなっている事は自覚している。

 もちろん大人よりは弱いだろうがそれでもディテクションが耳の情報で拾ったのは目視では何も無いように思える森の奥だ。

 ダイヤ隊が気づいていないはずがない。

 そっとダイヤ隊に近づく。

「あの、近づいてくる複数の足音ってなんでしょう?」

 するとダイヤ隊は笑顔で答えた。

「あの足音はクローバー隊だよ。もしかしてキミたち3兄弟は初めて会うんじゃあないかな?」




「クローバー隊ただいま帰還しました!」

 精悍せいかんなメスホエハリが後ろに二匹連れ群れの中へと足を踏み込んだ。

 何せ先頭のホエハリは左目に治っているとはいえ大きな傷跡がある。

 戦い抜いた者という感じだ。

「お疲れ様、おや、もうひとりは?」

 ダイヤペアの一匹が声をかける。

 1頭いたはずだったのかな。

「いない。先日の戦いで命を落とした。良いやつだったよ」

「そうか……詳しい話はぜひキングたちにもしてやってくれ」

 顔は見たことがないが1頭亡くなってしまったらしい。

 どこかに転生して楽しくやっている事を祈ろう。

「分かった。……おや? そうか、もう子どもたちが外に出て良い頃か。初めまして、私は外から来たがクローバー隊を任されている者だ」

 なるほど、このホエハリがもうひとりの外から来たホエハリなのか。

「初めまして、少し前に産まれた3兄弟のうち真ん中の姉です」

 尾で警戒せず喜んでいる意思を表す。

 騒ぎを聞きつけインカとハックも来た。

「こっちが兄でそっちが弟です。ほら、挨拶」

「「はじめまして!」」

 クローバー隊3頭が驚いた顔をしている。

 私も一月前は赤ん坊だったはずの相手にしっかり挨拶されたら腰を抜かす自信があるがそれは人間基準か。

 直ぐに落ち着きを取り戻したようだ。

「驚いた、子どもの成長は早いものだ。こちらこそ改めて初めまして」


 クローバー隊は全員強そうだ。

 観察からもそれが分かる。

[ホエハリLv.25]

 これが先程のメスホエハリ。

 群れの中ではジャックにつぐ強さだ。

[ホエハリLv.24]

 後ろのタフそうなホエハリも同様といった所。

 もう1頭のオドオドしているホエハリはどうかな?

[ホエハリLv.20]

 うん、十分強いじゃないか。

 クローバー隊は群れの仲間に歓迎されながらキングとクイーンの元へ向かった。

 オドオドしていたオスホエハリはみんなにやや手荒に歓迎されていたようだが。

 ……何か引っかかるな。

 前世の知恵を少しサルベージしてみよう。




 キングたちに報告を終えたクローバー隊はやっと一安心と言った感じで群れの中に腰をおろした。

 その周囲には多数の群れの仲間が集まる。

 目的は単純で群れの唯一の娯楽のためだ。

「探検に出てそこまでは順調だったんだ、だが危険は直ぐに迫っていた」

「ああ、あれはヤバかったな」

 クローバー隊は縄張りからも出て遠くまで遠くまで探索する。

 その話は変化のない日常には刺激的なものだった。

「5匹くらいのニンゲンが奇襲をかけてきた。しかもかなりの手練、体制を立て直しても劣勢は覆らなかった」

 踊り舞い切り結ぶ。

 それを疲れているだろうに全身で表してくれた。

 これもクローバー隊の役割なのだろう。

 ちなみに何とか犠牲を出さず撤退できたらしい。

 人間たちも追撃はせずどこかへ去ったとか。


「そうそう、変わった景色も見つけた。大量の生き物だった骨が積まれているところも見つけたんだ」

「あれは、何か恐ろしい魔物がんでいるんだと想定したんだ……」

「だからお前だけ行かせようか? ってね、ハッハッハッ」

 タフそうなオスクローバーが笑うとオドオドしているオスクローバーは深いため息をついた。

「冗談じゃないよ……」

「まあ、さすがにそんな無謀はしない。迂回して行ったよ」

 この後も秘境のような場所で絶景を見たり、前通ったはずの道が木々が倒されて景色が変わり危うく迷いかけただの仰々しく語られた。

 芝居がかっているとも言えるがそれは楽しませるための工夫だろう。

 亡くなったメンバーの話はまた後日とのこと。

 暗い話よりまずは明るくといった所か。


 こうして夜はふけていった。




 いつもの昼前、ハートたちの授業だ。

 ただ今日の規律授業は違う雰囲気を漂わせた。

 ……私も前世の記憶からひっぱりだしたものに何となくあてはまるものが。

「ちょうど良いと思って3兄弟に話しておきますね」

 兄ハートがそう切り出すとこの群れの隠された部分が語られた。

 隠さなければならない部分が。

「2つのジョーカーの話です」


 一つ目のジョーカーは群れの中のジョーカーの話だった。

 群れの仲間でひとつの季節が巡るまで、つまり1年間必ずいやがらせを受ける役割を引き受けなければならない。

 それはスペード、ハート、クローバー、ダイヤの中で1匹。

 不平不満を一身に引き受け群れ全体のガス抜きを行う係だ。

 特に群れの中で貢献度が低いとみなされた……つまり社会性が低いと仲間に思われた者がなりやすく、選ぶのはキングだ。

「今はクローバーの、あのオドオドしている兄さんだね」

 若いおとながなりやすいが別に若くなくとも選ばれる事があるという。

 実際ハートのふたりは若いが選ばれたことはないらしい。

「クローバーの兄さんら、もう8つも季節を巡っている。よくジョーカー役に選ばれやすくて大変だと思うよ」

 そうか、もしやお年寄りなのか。

 体よく汚れ役を引き受けそしていずれはこの世を去る。

 必要なのはわかるし恐らく他の群れでも同じだろうが、何とも人間感覚ではつらい。

 ……前世の世界でも殆ど同じ群れを形成する生物がいたのをなんとか引き出して、心の準備は出来ていたんだけどなあ。

「ジョーカー役に仲良くしたら駄目なんですか?」

 兄がそう言うが、おそらくそれは良いはずだ。

「いや、ジョーカー役とはぜひ仲良くしてあげてくれ。仕事と私情は別だし、こっちはまだ群れの仲間だ」

 こっちは、と姉のハートが言った言葉はそのまま次のジョーカーの話に移った。

「もう一つのジョーカーは役すらなくなって群れから追い出された、捨てられたジョーカー。これにだけはなってはいけない」

 群れを離れる時は2つ。

 群れの仲間に見送られ新たな群れを作るために旅立つ時。

 そして群れを追い出され役割をなくす時。

 ……オジサンは、どちらかだったのだろうか。

「まあ幸い今のキングの元では捨てられたジョーカーを出したことは無い。よほど不真面目じゃなきゃ大丈夫だよ」

 もちろん獲物が不作でどうしても生き残るために離れてもらう事はあるらしい。

 ただその場合も駄目なおとなが先に減らされるとか。

「だから、みんな群れに置いてもらえるように良い子にしようね」

「「「はーい」」」

 3兄弟仲良く返事。

 私も頑張らないとなぁ。

「まあ、お姉ちゃんは大丈夫だろうね」

 だからハートの兄がそう言った時もいつもの褒め殺し姿勢の一つだと思っていた。

「いえいえ、まだまだですよ」

「まあ、お姉ちゃんは既にクイーンに直ぐになるって言われてるもんね」

 姉のハートがそう話す。

 ……ん? え?

「私がクイーン?」

「うん、群れの中ではおとなになってスペードを経験したらそのまま飛び級でクイーンになるだろうって」

「クイーンもそろそろ交代の時期らしいからね」

 え?

 ……え?


「妹すごいじゃん!」

「お姉ちゃんクイーンになっちゃうの!?」

 く、クイーン、母に……?

クイーンの、役割って、群れに指示を出す他に……

 その、キングと、子どもを、ええ……?

「その場合はキングも同時に変わるんだよな」

「候補は今のジャック?」

「妹がクイーンになるなら頑張ってキングになろー!」

 きーんしーんそーかーん!!

 ジャックペアのオスも兄、インカも兄!!

 いや、野生生物の群れだから血が濃くなるとか気にせずそうなるだろうね!

 いや、ソレ以前にさあ……

 私に、この群れの中の誰かと、アレソレして仔を産み育てるとか絶対にムリ!!

 母が神がかってるだけやぞ!

 なんで、いつのまにこんな話になってるの!?

 ムリムリ、私にはそういう行為はムリ!

「あれ、お姉ちゃんどうしたの?」

「いや、はははは……」




 授業が終わり即母の元へ訪問!

 その真相は!

「あら、もうそこまで……気がはやいんだから」

 ふぅ〜、ですよねぇ。

「まだ一つは季節巡らなきゃおとなにはならないのに、まあそう思ってるのは事実よ」

 アウトおおおおぉ!!

「その時は我も退任か、どれ、ふたりでゆっくり隠居でもするか」

「そうねぇ、お姉ちゃんなら安心して群れを任せられるしねぇ」

 父も母もすっかりその気じゃねーか!

 え、これ、ええぇ……

 私が、私がおかしいのか……いや、ホエハリ的には私がおかしいのか……


 私が悪かった。

 だから嘘だと言ってくれ!

 ああ、そんな事を言ってもこの世界はとりあってすらくれない。

 私が下手に前世の意識が残っていたのが運の尽きだと言うのか……

だいぶ前に書いた部分はここの最後だったんですね

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