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二生目 現実 水泡稚魚イオシ

 水面から再び顔を覗かせたそれに呆気に取られていた。

 そんな私にギザギザとした口を開き無数の泡を放ってくる。

 泡は大小様々ながらまっすぐと私に向かってきた。


 早くはなかったが尻もちついて呆気に取られていた私が避ける事が出来るほど甘くは無かった。

 正面から受けると泡たちが弾ける。


 痛ッ!!

 いだだだだ!!

 シャレにならない!!


 最後に大きな泡が弾け私は大きく後ろへ転がった!

 後ろへ吹き飛ばされるほどの衝撃なのだ。

 泡なんてファンシーな見た目しておいてなんてエグい威力!

 威力にばらつきはあるがデコピンから本気の張り手まで様々だ。


 うおお……今ので全身がずぶ濡れでなおかつズキズキと痛む。

 奴め水の中に引きずり込めないとわかったらこんな飛び道具を!

 気のせいか魚の顔が笑っているようにも思える。


 だが奴とて陸に上がってこられないはず。

 しかし私のそんな思いは直ぐに打ち消された。


 なあ、バカな! 魚なのに陸に上がって来やがった!

 足とかあるわけではないがさも当然という顔で陸に!

 いや奴の腹から水が湧き出て滑るように移動している?


 そうかさっきの泡といいこれといい、魔法というやつなのか!?

 タックルをかましてこようとしたため今度こそ横に跳んで避ける。

 うわぁ、生まれて初めての横跳びだ! 嬉しい! 足がつらい!


 そう、こっちは生まれたばかりなんだぞ!

 当然のような顔して魔法使ってきて、受けるのに精一杯だわ!!


 だが奴とて陸は苦手らしい。

 タックルを避けられた後ブレーキを利かすのに苦労し大回りして再びこちらへ向かってきた。

 身体は痛むし体力も心もとないがやられっぱなしで一方的に殺されそうなのは何というか(シャク)だ。


 私は心に決めて再びひきつけてからタックルをかわす。

 よし、奴のタックルの動きは良く見える。

 やはり気のせいでも何でも無くこの身体は動体視力に優れているようだ。


 それに私の心が無理矢理身体に鞭打って機敏に動かしている。

 ベイビーな奴なら楽に狩れると思った銀の鱗を持ったこの魚が運の尽きだ!


 また大回りしてブレーキをかけているところに今度はこちらが走って仕掛ける。

 ぎこちなくてほとんど転んでいるような動き。

 だけれど相手に届くのなら問題ない!

 そのままもつれ込むようにタックルをかましてやった。

 すると奴の腹の水が消え去り私と魚は転げ回る。


 何とかこちらがマウントをとる形で抑えれた。

 あの魔法は集中力の問題なのかはたまた別の要因か消えてしまった今がチャンスだ。


 ぐッ! 思ったより抵抗が大きい! ビッタンビッタンが割りと重たい。

 食いちぎってやろうとその腹に噛み付いた。


 グニッ。


 か、かったい!! 食いちぎれない!!

 歯が刺さらないだと!!

 いや今の感触はどちらかと言えば私の歯と咬合力が弱すぎるんだ!


 そうだよなあ明らかに私まだ乳のみ子だもの。

 ビクンと大きく跳ねられ今度こそ私の足元から抜け出されてしまった。

 ぐぬぬッ! 強い! 陸に上がった魚がこんなに強いとは!

 水の中ならもっと強いのだろう。


 水へポチャンと入った魚を睨みながら私は攻略法を考える。

 少なくとも私はアレが水の中にいる時は手出しできない。

 引きずり込まれたら終わりだ。

 何とかして陸に引きずり出さなければ負ける。


 数秒の後魚が先程とは別の場所から顔を出し泡を吐き出してきた。

 くッ! 避けられる前提か!

 泡が今度はある程度拡散して攻めてきた。


 数発小さいのは食らう覚悟で逃げ回る。

 小さくてもデコピンほどの威力はある。

 当たったところが痛むし恐らく毛皮をとったらアザだらけになっていそうで怖い。


 しかし明確にこちらを狩ろうとしている相手に致命打をもらっていないのは幸いだ。

 あちこちから顔を出して泡を放つその様はファンタジーチックながら欠片もロマンチックじゃない威力で攻めてくる。

 なんと恐ろしい魔物なんだ。

 こちとら可愛いだけの無害わんにゃんだぞ。


 ただ試していない手がないわけではない。

 そのためにも陸に上がって貰わないと。


 流石に何度も同じ動きをされればこちらだって対処できる。

 もはや泡をばらまかれた程度では動じずに避けるようになった。

 我ながらなかなかのステップさばきだと思う。

 まあ実は体力持つか不安だからなるべく早く陸に来てほしいんだけれど。


 何度かやっていると相手は泡以外の遠隔攻撃を持っていないらしくついに当たらないことを踏んだ相手が陸に上がってきた。

 単調ながら魔法で滑ってくる鋭いタックル。

 こいつを何とかかわしてから再びもつれ込む。


 ただし今度は背中から。

 背でのタックルは少し難しかったが確かな手応え。

 グサリと背に伝わる感触。

 背中の針を挿し込んでやった。

 当然強い抵抗が起こる。


 何とか抑えきってこいつが酸欠または針で息絶えてくれたら私の勝ちになる。

 背中に全体重を預け背の針が抜けないようにする。

 それでも私ごと跳ね上げるように抵抗されるためかなり厳しい。

 何度も跳ね上げられるが私はむしろそれを利用して背の針を深く食い込ませた。

 どうだ! 私も痛かったぶんはしっかり食らってもらうぞ!


 だが何度めかの時に背の方から泡が膨れ上がるのが見えた。

 それは予想外ッ!

 逃げることも出来ず泡の大きな爆発に巻き込まれた。


 自爆覚悟でこちらを引き離しに来たッ……!

 私は一瞬意識が跳ぶほどの衝撃を背中に感じながら宙に浮き地面に叩きつけられた。

 今ので……背中の棘が何本かイカれた……


 まずい、本格的に身体が動かない。

 魚も元気はなさそうだが体勢を立て直して泡を放ってこようとしていた。

 まずいまずいまずい……

 何か、何か私も無いのか!


 アレに対抗出来る力は!

 私は物理的な力に頼ってきた。

 相手の魔法のような力の使い方がよくわからなかったからだ。


 しかし今は四の五の言ってられない。

 わからなくても神頼みでもやらなきゃやられる!


 起き上がれない身体を立て直しせめて相手に向き直る。

 泡が放たれる刹那私はあの『よくわからなかった感覚』に身を委ねる。

 五感はわかる。

 しかし五感に含まれなかったわからない感覚が私の思う魔と言うものの可能性がとても高い。


 何故ならあの泡からも同じ気配を感じるから。

 ならば私が出来そうなこの感覚を今放つ!


「くぅおおおん!!」


 私が叫びと共に放ったソレは声に乗り可視化するほどの空気の乱れが大きな波となって正面に放たれる。

 泡を蹴散らし真っ直ぐに魚に向かいそのまま魚を轢いた。

 水場の辺りまで飛び小さく爆砕した波はやっと止まる。


 で、出来た!

 土壇場だったけれどこれが私の力!

 け、けどもしこれで魚が倒れていなかったら私はもう完全にからっきしで使い切ってしまった状態だ。


 私の全力を乗せた文字通り最後の一撃だ。

 轢かれ跳ねられた魚はそのまま水へ落ちていった。


 しかし私の目の前に絶望が飛んできた。

 最後の最後にやりやがった。

 落ちる瞬間恨めしそうにこちらを見て最後の意地で泡を放ってきやがった。

 今までのものに比べると量も速さもまるで無いほんの少しの泡。

 しかし私がこれを耐える力は残っていない。


 魚よ、お前は強い。

 私は弱かった。

 命をかけて戦う事にまだ慣れていなかったんだ。


 そして死はそんな者にほど容易にやってくる。

 経験不足だなんて死後の言い訳にすら出来ない。

 もはやこれまで……か。


 ダンッという音と共に私は薄く目を開けた。

 気のせいではない地響き。

 巨大な脚が泡を踏み潰し次の瞬間水の中に突っ込まれた脚が魚を串刺し。

 そして一瞬で魚は喰われた。


 ああ、なるほど。

 私のこっちの母は強いなあ。

 そのまま私は眠るように意識を失った。





 おはよーございます、清々しい朝ですね!

 いや朝なのかどうなのかはわからないんだけれど。

 というかまるで身体が痛くない。

 さっきまでの放っておけば死ぬみたいな感じはなんだったのだ。


 原因はペロペロと親が舐めてくれるさいに気づいた。

 親が舐めてくれた部分の傷……今なら背中の針が折れてしまった部分が生え替わり治ったのだ。

 これはただのスキンシップではなかったらしい。


 いえーいもう平気だよこっちの母!

 その私の様子に気づいたのか舐めるのを止め隣で横になり寝転ぶことで再びただの毛玉と化した。


 気のせいでも何でも無くやはりこの身体は動いているものがとてもよく見えるらしい。

 人とは逆に停止しているものは見えづらい。

 これはよく覚えておかないと。


 さっきから親や周りが何かを伝えてこようとしている気がする。

 生まれて意識を取り戻しまだ僅かな間しか過ごしていないから流石に理解は難しい。

 とりあえずさっきのように死にかけるのはゴメンである。


 大人しくはしていよう。

 白い毛玉の壁は私と同種族と考えると腹側を見せている。

 ほのかに甘いかおり。


 ぐううと鳴る私のお腹。

 あー、これはそれですね、ご飯の時間ですね。

 行ってきます。





 行ってきました。

 魚を噛んだ時の生臭さがとれて甘い香りに上書きされましたよ。

 多分この時期限定だけれどなかなかよきかなよきかな。


 お腹が満たされてもう一眠りしたいところだけれど我慢がまん。

 少し整理や確認をしたい。


 まず同時に生まれた兄弟が私含めないで二人。

 いや二匹?

 一緒に食事に来たからほぼ間違いないや。


 年の離れた兄弟がいるかはわからない。

 そしてさっきの戦いで得た技。

 魔法と言うものかな?

 声に乗せて力を飛ばした私の最大威力の技になる。


 また戦う時があるなら確実に決めて行きたい。

 それと戦い始めた時と意識が落ちる瞬間にかすかに感じたもの。

 もしかしたらと私は目を閉じあれこれ確かめてみた。


 ……よし、見つけた。

 私の閉じられた視界とは別の頭の中に浮かぶ光景。

 色々と念じたり探ってみたりしたが想像内でスイッチを押すような感覚で開けるような気がした。


 これは私の成長段階だ。

 光る中央のマス目を中心にどこまでも曲線がつながって行ってるようだが近くしかよくわからないようだ。

 中央は"串刺しLv.1"と書かれている。

 想像内でそれをタッチする感覚で詳しく表示される。


[串刺し 相手を身体の一部で貫く。 レベルが上がることで能力が増す。]


 予想通り私の背に生えた針を使った攻撃を指すらしい。

 中央にあるということは生まれつきの技なのだろうか。

 背に生えた針で刺すのはもちろんだが成長すればこっちの母のように爪でも使えそうだ。


 そして中央とは直接つながっておらず遠い所にポツリとあるのが"光神術Lv.1"だ。

 なんとこれが先程の声音波アタックになるらしい。

 光も神もなんなんだそりゃとなるが説明文はこうだ。


[光神術 光や音などの波を使った神法を扱う。 レベルが上がることで使える術が増える。]


 いわゆる魔法との違いは一切わからないがとりあえずそういうことらしい。

 音はともかく光が波ってなると、んん?

 となるがよくよく考えたら前世で聞いたことがある気がする。


 耳も目もそれぞれ別の波を受け取る器官で耳は音波を目は光波をつかまえるのだとか。

 だとすればどちらも扱えるのは理にかなっているのかな?


 そしてレベル1で私が扱える術は以下の通り。


[ライト 熱を持たない光源を発生させる]

[サウンドウェーブ 音を起こす]


 さっき眠ったのと食事したことでスタミナは戻っている。

 色々テストした結果ライトは文字通り明かりをつける術だ。

 便利なのは光源を自分から少し遠ざけたり逆に私と同化して私自身を光らせたり出来る点だ。


 戦いでなくてもちょっとした探索に使えるし逆に私中心とした目を焼くほどの強い光で戦闘時相手の視界を奪う事も出来る。

 ただ今の段階ではそこまで強い光は一瞬出せるだけで制御しきれずに消えてしまう。

 そしてサウンドウェーブ。


 この説明文だとわざわざ取る人がいなそうなほど雑なものだがこれこそが先程の戦いで使った声音波だ。

 サウンドウェーブは指向性を指定したり逆に拡散させたり出来る。

 ただ、より細かい調整であればあるほどスタミナを奪われてしまう。


 パワーの加減にもスタミナは使うから訓練しなくては使い勝手が悪い。

 やろうと思えばこの『くおおん』とか『ぐぅうう』とかしか発音出来ない声帯の代わりに言語を発せられる。

 ひたすら空気の揺れのみに力を注いだ……そう先程の戦闘のような事ができるはずだ。


 どちらも使い勝手が良さそうだが中心からは距離があるな。

 うーん、この事に関して何かを忘れているような…、

 まあ私の才能ってことにしておこう。


 ちなみに確認作業をしている時に兄弟や母が多分めっちゃ変なもの見る目つきで見てきた。

 いやまあ気持ちはわかるけどね。

 いきなりピカピカ光りだしたりするしね。


 そして重要なのがこのスキルツリー(仮)を開く要領で開ける別のもの。

 そこにはこう書かれていた。


[不意打ち回避 +経験

 連続回避 +経験

 水難 +水耐性

 限界戦闘 +経験

 イオシに勝利 +経験

 経験値増加 +レベル]


 経験というのはまさしく経験値でレベルもまさに強さといった所か。

 先程からの文字は私の脳の言語分野に直接"言葉"として理解できるように見えている。

 不思議と理解出来てしまうがもはやこういうものとしか言えない。

 母の言いたい事とかは全然わからないんだけれどね。


 この"ログ"とも呼べる文字欄こそさっきの戦いで何か意識の中に感じた違和感だった。

 これは重要だ。

 何か行動を起こすことで、経験を手に入れまたは経験以外のさっきのなら水耐性などを手に入れられるかを理解できる。


 水難は水の攻撃を喰らいすぎた時につくのだろう。

 避けても食らっても結果的に何らかの形で還元されているところを見ると比較的何をしても良いことは起こるみたいだ。

 限界戦闘というのは先程死に掛けたせいだろうか。

 確かに貴重な経験だった。


 ……なるべくなら次は"無傷で勝利"なんかが来てほしいなあ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 生まれて、直ぐに死にかけていたのに、側にいた親はどうして直ぐに助けてあげなかったのか、不思議です。直ぐ近くだから、気づかなかったことは、ないでしょうからね。
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