九百三生目 氷蒼
「ふむ……なるほどのう」
そもそも翠竜とまともに連絡が取れていればここまで大変にはならなかったのだが……
というわけでこれまでの事を離しつつ翠竜から【住所】をもらったものの問題があるらしい。
「連絡が出来ない……ってそんなことが?」
「うむ。しかも、儂が今聞いてそう考えただけじゃ。外の大陸のことを探ってはおらんかったからのう。もし意図的な妨害ならば、相手はかなり高度な神力操作を可能としておる」
私達の念話なんかは普通に交流が遠くまでできている。
ただし神力での交信はできないとすると……
意図的に神々を妨害する気だろう。
「ううん、なんだか事態がややこしそうだな……」
「こっちが送ったものの向こうがなかなか見ていないだけかと思ったわい。まあ普段のやりとりなんぞ、5年ほどは時間をかけるからのう。互いにそこまでは気にしていなかったわい。この大陸は、他の大陸と良くも悪くも交流が浅い。他の神も似たようなものじゃろうて」
「とにかく、このままでは敵に先手を撃たれ続けると思う。人形は翠竜の心当たりは?」
「正直ないのう……あのような型のは儂はつくらんし、そもそも儂がつくるのは儂が操るものだけ、勝手にうごくものはつくらん」
気になるのは依頼そのものは届いたことだ。
あれは物質だからいけたのかな?
だとすると狙われているのは神力による交流か。
つまり神の狙い撃ちである。
「それじゃあ、もしかして世界中がとてつもなく大変になったことも……」
「まあ、割と最近知ったのう。もちろん、数日という単位じゃ。たまたま外の情報を得られるタイミングがあっての……のう? 氷蒼の使いよ」
「……えっ、私!?」
翠竜は蒼竜のことを氷蒼などの呼び方をする。
つまり私だ。
「珍しいものが飛ばされてきたと思ったでの、ちょいと様子を見るために、氷蒼の土地に行ってきたのよ。そしたら当たりもあたり。面倒なことが起こっておっての、とって帰って色々準備しておったところに、氷蒼の使いがここまで来たということじゃな」
「……それで、性別を入れ替えた理由は何よ?」
「それはさぷらいずじゃのう!」
大喜びで手をたたく翠竜。
こっちは困惑のほうが大きいのだけれどね!
「なんつー迷惑だ!」
「まあまあ、いいではないかのう。正直、かなり希少なサンプルが得られた。こんなふうになるとは儂も思わず、最初のときは驚いて声もでんかったわい」
「それって、私の……そうだ。結局、これってなんなの? ただ性別を変えただけでは、こうはならないよね」
「ふむ……少し話の難易度があがるゆえ、ちゃんとついてまいれよ?」
翠竜がふわりと空に浮かび両腕を広げるとそれだけで雰囲気が大きく変わる。
ここからは真面目な話……ということか。
一般的に真面目と不真面目が逆な気がするけれど。
「ワタシたちの身に起きたことだもの。しっかり聴かせてちょうだい」
「うむ。ではまず結論から話そう。そなたらに起こった出来ごとは、正確には性別の反転ではない。そのようなことは、儂には出来ないからの」
「あ? やっぱ幻覚かなにかたさなのか?」
「違う。現実じゃな。ただし、それは結果的に起こったことであって、儂が操作したのは鎖の因果じゃ」
「……もう話が見えてこなくなったわね」
確かにいきなり結論にとんだ結果ユウレンの言う通り話がまったくわからなくなった。
専門的な話になりそうだ……
「ふむ……では、平たい言葉を向かおうかのう。そなたら、運命という言葉は知っているかの?」
「そりゃあ……占い師が言う、決められた生きる道筋とか、そういう胡散臭いやつだろ?」
「ま、その認識で問題はないのう。本来その運命というものは、肉体にとても小さく刻まれておる。良くはわからんじゃろうが、そのようなものだと認識しておいてくれい」
「は、はぁ」
私は今の説明でなんとなくピンと来たが多くはそうでもない雰囲気が強い。
まあそりゃそうだよねえ。
遺伝子の話なんだろうけれど。
なんとなくしかわかってなさそうなジャグナーを置いといて話は進む。
「刻まれた運命は、二重螺旋構造というものになっておる。そのままではよくはわからないが、形としては鎖に近いのう。儂はそれを操れるため、鎖の力と呼んでおる」
「鎖の力……」
「それじゃあ、その力で他人の運命をどのようにでもいじれてしまうんですか!? 未来さえも!」
たぬ吉が驚いて叫ぶがゆるりと翠竜が否定する。
「いんや、そんなことは出来ない。さらにいえば、そなたらの選択する道筋全てを意のままに操れる……などと、そんなたいそれた力は持たんな。多くことは、そういった運命の鎖が存在し守り通すことに力を使っておる」
翠竜の前に遺伝子のようなものの映像が浮かび上がった。




