九百生目 重獣
ふたりの大胆変化は実際の所細々と差異はあるのだろうがどうも人の目線ではそこまでコレという差異がつかめない。
ゆえにユウレンが指摘できるのはサイズのみだったわけだ。
そして驚いていた3名も態度で突然現れた高身長のニンゲンが誰か突き止める。
「個体名、ユウレンと推測」
「もしかして、ユウレンなのか……? 声ひっくいな」
「そうよ。何このトラップは。信じられないんだけれど」
「よ、よかった……知らない男の方が来たかと……」
「こうしてみると、においすら全然違うからわからねぇなぁ」
「あら、そうなの」
歩き方などをみれば全員そのままだ。
だから動きではわかるがそれ以外はまるで別。
たぬ吉が人の男だとすぐにわかったのは接客で慣れているからだ。
「ノーツ、あなたは変わりないのかしら?」
「変化未確認。推測、この機体は性別指定されていないため無影響だった模様」
「なるほどね……」
ユウレンは同時にもう1つの方向も思考した。
肉体だ。
ゴーレムは無生物が肉体であり他みんなは生物。
そこに影響があったのかもしれないと勘付くが言及はとくにしなかった。
「というかまあ、お前もだいぶ変わったな……オレたちもどうしたら良いか悩んでいたんだ」
「流石にね。こうなるとは思っていなかった、の方向でもとびっきりおかしな方向だもの。ローズオーラもいないし……」
「部屋構造がこの部屋に集合する形状となっている模様。扉は反対側からは開かず。破壊は検証前」
「まあ、一応誰の家かもわかんないものをぶっこわすのもなあ……」
それにはユウレンもうなずく。
自分たちは野蛮人ではないという自覚はある。
ノーツが言う通り少しずつ全員がここに集まるようになっているのなら待つのが得策だろうと判断した。
「その間に、鏡でも見ますか? あっちに姿見があるんですよ」
「あら本当? それは……少し興味あるわね」
「にしてもお前、割と平然としているな……なにせ、ないものが増えたんだろ?」
「意識しないようにしていたのにセクハラ気味の事を言うんじゃないわよ」
「ああ、そう……すまん」
ジャグナーにとっては大事なものがユウレンにとって大事とは限らない。
そういうことだった。
ユウレンは歩いて鏡のあるところまで行く。
大きく姿見というだけあって全身がきれいに映りそうだ。
覚悟を決めてユウレンは姿見に脚を踏み入れる。
そして……ユウレンは鏡を見る。
「……あら、本当に誰かしら」
そこに映っていたのはユウレンだ。
間違いなくユウレンなのだがユウレンの知っている顔はそこになかった。
やせぎすのせいで浮く男性的な骨格は顔にもよく出ていた。
ユウレンのよく見知ったものは目くらいなのか。
それは記憶の裏にある両親で父にどことなく面影があった。
元々父よりの顔だと言われてはいたがこうなるとよりはっきりする。
ただ母の部分もあるから完全に影は重ならない。
「……ヒゲは薄いのね」
父は髭がそれなりに濃かったイメージがある。
成人してからどうしても髭がほんの少し生えてきて処理に手間取ったものだ。
ユウレンはそう思いつつ男性になったら逆に母の面影並に薄い髭周りに思いを馳せた。
そうこうしつつ短くなった髪を流し中央へ戻る。
ローズオーラが遅いが待つしかないと全員そう考えていた。
それよりも……この肉体と仕掛た相手に対して思考を巡らす時間が欲しかったのだ。
──視点変更──
うう……ん。
なんか……いきなり転移を食らった気がする。
どこかに飛ばされた?
ゆっくり目をあけるとやはりまったく知らないところだった。
はぁ……どうすればいいのか。
みんなの気配もない。
とりあえず即死トラップではなかったのはよかった。
まあ即死トラップは流石にあんなにわからないようにやったり理不尽すぎる仕掛けにはしにくい。
ソレに発動は神の力。
翠竜のものだ。
ならば翠竜が私を感知して神の規模でなにかしたと考えるのが道理だ。
彼らは普通にそういう事をやる。
思考時間を加速していたがとりあえず危険はなさそうと判断した。
みんなの姿はみえないけれど……
とりあえず立って。
「ん?」
ん?
「んえ? は?」
は?
…………は?
まず2つの違和感。
立とうとしたら身体の形が違った。
そして第2に私の声が私のものじゃなかった。
おそるおそる"鷹目"で私を見回す。
そこにいたのは……
巨大な鎧を纏いし獣だった。
「いや誰だよ。そしてこの声誰だよ」
ツッコミが止まらない。
光神術"サウンドウェーブ"じゃない方の声が低音効いている。
全くもって状況が理解できなくなってしまった。
だ、誰か説明してくれー!
翠竜出てこいー!




