八百九十八生目 変化
──視点変更──
最初に気づいたのはノーツだった。
「予期せぬ不具合のため再起動。状況を把握」
ノーツは急いで機体内のレポートをかき集める。
それによりどこかに転送されたことはわかった。
ただ転送の衝撃が尋常じゃなくて生物風に言えば気を失ってしまったらしいと把握した。
ノーツは警戒しながら周囲をスキャンする。
ここはまるで部屋のようだと判定した。
しかしノーツが入れる部屋など巨大極まりない。
ノーツはノーツ自身の違和感などはなく銃をだして突き進んでいく。
扉向こうの別部屋では各々阿鼻叫喚なのを知らずに……
「んん……ううん……?」
たぬ吉は気絶から目を覚ます。
それは僅かに聞こえる耳の音からの違和感だった。
知らない声がする。
なんだか甘ったるく聞こえるような。
ただしタヌキ魔物族にしかわからない差異で。
知らない声がすることにたぬ吉は強い違和感を覚える。
「ううん……うん?」
ゴーレム内で目覚めたたぬ吉はその違和感が加速度的に強くなる。
違和感の声が自分からする。
それはゾワゾワと毛革に怖気を走らせ先程何が起こったかもわからずパニックになりかけた。
「な、何? どうしちゃったの? え!? ボク一体……!?」
震えながらたぬ吉が自分の全身を見回し探る。
ソレはとても焦っていて何もかもが恐ろしく感じるような。
「違う……違う……何……ええーー!?」
たぬ吉の絶叫はゴーレムの中で響く。
その前までは太かったはずの体型がシュッとした体型にいつのまにかなった見たことのない植物の機体の中で。
「あぁ……なんだったんだ……? 頭いてぇ」
ジャグナーはさっきの不可思議な空間で一番騒いでいた。
部屋に転送されてからは一転して落ち着いているが。
ジャグナーの奇妙なものに対するアレルギーは未だ健在だった。
そんなジャグナーもすぐに自分の違和感に気付く。
声が人に変換すれば随分と高く感じる音に。
もちろん熊内でしかわからない違いだが。
それに肉体も変だ。
自慢の重戦車じみた重たい肉体がいくばくか軽い。
同時に景色が若干低い気がしている。
それもそのはずでジャグナーはひと回りは小さくなっている。
しかしただ小型化しただけでは説明がつかない感覚がジャグナーの中にあった。
「おっかしいな……全員とはぐれていることも大変なのに、これはなんの罠にかかった? 俺は幻覚でも見させられているのか?」
ジャグナーは頭の中に浮かんだ現実があまりにバカバカしすぎて切り捨てる羽目になった。
だがいくらそうしても違和感は消えない。
仕掛けた相手の意図も見えない。
「気持ちわりぃ……なんなんだ……? 俺の大事な、アレがねぇ!」
ジャグナーの悲鳴じみた声は本質の違いはなくとも何か根本的なものが変わってしまったことをこれでもかと含んでいた。
ユウレンは仰向けに倒れていた。
どうにも気怠い頭を振って腰から起きる。
どうにも状況がつかめない。
身体が重たくなんとなく声が出せない。
だいぶ自分が参っている感覚がユウレンを襲っていた。
まるで風邪をひいたかのようだ。
それはユウレンがこういう唐突な場面に不慣れだったのもある。
危険があると脳内の片隅では分かっているのにすぐに探索へ移れなかった。
どうにもはっきりしない頭を抱えて再度倒れ込んで。
「んん……ん?」
息の抜ける音があまりにおかしく止まった。
なんなら再度座った。
ユウレンが聞き慣れた音とは違い喉に引っかかるというか低いというか。
音階が低いだけの音ならユウレンもここまで違和感を覚えない。
まるで別人の声……
そう声質が違っていた。
ユウレンはこういう時脳内の警鐘が鳴らされるとだいたいあっていることが多い。
心臓がやけに強く早く揺れ動くのを感じながら落ち着いてちゃんと見てみる。
心臓を意識するとどうしても視線がそちらにいく。
……こんな服を着ていただろうか。
腕も別人だ。
もともとやせぎすだったから細かったはずなのに骨ばってゴツゴツしている。
自分の腕なのに見慣れないことに不気味さを覚えた。
手を動かし心臓付近の胸にやった手の感触もおかしい。
服が違わなければ先に皮膚と骨が当たるような感触にはならない。
ユウレンは一周回って諦めモードに入りだした。
また何かに巻き込まれたのが確定しているのだから。
いっそ複雑な事を考えずに立ち上がる。
「……もはやなにかもがおかしいわね」
今ユウレンは自分の口から出てきた音は凄まじく気持ち悪かった。
違和感が10倍増しで襲ってきた。
ユウレンがつぶやいたのは声に関することだけではない。
背丈だ。
絶対高くなっている。
ちなみに客観的な数値で言えば189cmあった。




