八百九十一生目 死霊
ゴーレム2体で結界の外を見る。
結界をゆっくり解いていきなり現れたように見えないよう偽装した。
冒険者は当然斥候係がいてうっかりするといきなりやべー反応が湧いて出てきた扱いされかねない。
あくまで自然にだ。
そっと散らばっていく冒険者たちのうち1つの後ろにつくぐらいの自然さで。
「ってでっか!?」
「バカ、騒がしい! 他人のゴーレムに指を指さない!」
「気持ちはわかる」
「魔物使いかぁ、ゴーレムもたくさんだし、珍しいタイプだね」
「冒険者ではないのかも」
「そうか? あの服、見た所鎧みたいな能力あるぞ」
すれ違ったり通り過ぎたりする冒険者たちは口々に感想を言い合う。
普通冒険者がすれ違っただけではそうそう話題はおきない。
私達の特異な見た目から話題が起こっているのだ。
「……めちゃくちゃ注目浴びているわね。本当に大丈夫かしら?」
『むしろその方が良いんだよ。大きな違和感の前には些細な違和感は隠れてしまう』
当然私やジャグナーは念話で話すこととなる。
若干面倒だがひと手間で違和感が消せればそれで良し。
『まあ、そんなもんだろうなぁ』
「魔物出現率、低」
「うう、いごこち悪い……早く戦闘になったほうがまだマシね」
「確かに、冒険者があちこちにいるせいで、わざわざ接敵する相手がいませんね……」
冒険者の近くに魔物がウロウロしていることもあるが既に戦いをしている相手にわざわざ興味はもたないらしい。
ちなみに今いるのはトンボのような魔物と昆虫が2足歩行しているような魔物。
どちらも小型でそこまで脅威を感じない。
うろうろと進んでいけば多数の道別れや広場での分散により思ったよりバラけてきた。
「足元も壁も、全部虫の死骸……なんだか不気味ですね」
「まあ、そう嫌うものでもないでしょ。彼らは恨みつらみをここに残していないわよ。逆にここまでキレイに死ねるだなんて、虫たちは何を思って過ごしたのかしらね……」
ユウレンは壁に手をやりその思念を読み取るかのように指を這わす。
とはいえ既に死してだいぶたっている。
もはや死霊術師がやってやれることは少ない。
さらに進んでいけばあれだけ騒がしかった空間が不気味に静まり返っているのに気付く。
壁とかの雰囲気も違う。
「……死骸の種類が変わった……」
『エリアが進んだね。ここから気を引き締めていこう』
淡白な色合いから赤黒い土層のようなエリアに来た。
感じる魔物の気配もいっとう強くなっている。
『ところで、方角とかはあっているのか?』
『うん、私が察知している。この神の力を……』
ジャグナーの問いに答えつつ私達は進む。
疑問はもっともだが神力の方角がわかる程度によく感じているから平気だ。
冒険者たちも全員翠竜の爪にいきたいわけでもないだろうし。
スタートのエリアが同じなだけで四方八方に散っていける構図になっている。
意図しなければなかなか同じ場所でたくさん集まることはないだろう。
というわけで。
『囲まれてきているよ!』
「あら、数で押そうとしているのかしら?」
「迎撃体制」
全員武器を取り出す。
ユウレンは直接戦わないから本。
あれは『杖』の一種だ。
ジャグナーは拳に岩を生やして纏わせる。
わかりやすい獣爪装備。
まあタックルするだけでとんでもない被害を生み出せる肉体しているからね。
私はイバラ。
魔法は予備で構えるのみ。
まだ補助とかいらないと思う。
たぬ吉は横に手を伸ばすと太い根が突き出てきた。
腕で持てばそれは原始の槍になる。
ちぎれて振るう。
ノーツは光が機械的により集い1つの銃が出来あがる。
巨大でノーツですら両手で扱う大きさの銃。
単発式で撃つたびに爆発する弾が込められている。
対する魔物たちはやはり虫の者たち。
虫の魔物って対話意思が低いやつが少ない気がする。
今もどう不意をついてこちらを攻撃しようか悩んでいるっぽい。
「まあ、冒険者らしく……いくわよ!」
ユウレンの掛け声で全員が駆けた。
正確にはユウレン以外。
ユウレンはその本を勢いよく開き魔法を唱える。
「さあ、蘇りなさい! ワタシの矛と盾!」
ユウレンはどこまでいっても死霊術師である。
当然戦闘スタイルもそこだ。
死霊術師本来のバトルスタイルというには高度なことをしているが……
その場で生み出されつつある何かに高速で巨大な翅を持った昆虫が飛んで突っ込んでくる。
かなりの速度なのでそのままでは正面衝突だが虫魔物側が角に光を募らせ大きくさせる。
そしてユウレンにアタック!
「……させないわよ」
その直前で組み上がった肉厚の刃にて攻撃が防がれる。
そこには腕と剣の2つしか構成されていなかった。




