八百八十九生目 紹介
翠竜の人形と世界を襲った人形はまるで雰囲気が違うといえばいいか。
実際のにおいもかなり違うがそれ以上に人形の漂わせる雰囲気がまるで違う。
手癖がまるで違うのだ。
人形という名前だけ聞けば同じと思ってもさすがにマトリョーシカとこけしを並べて同じという者はいないだろう。
そのぐらい違う。
同じ製作者の別手法とかでもないと思う。
おそらく別製作者だろう。
今翠竜と祖銀竜が情報交換しているはずだし……
一回直接会ってみたい。
なにせまだ敵の神に関してデータはない。
ここまでの道のり時間からするに余裕はまだまだあるはずだ。
私の目標をこなしても問題はないだろう。
「未だに見つかっていない部位がありまして、頭なのです。この部位を見つけた国は、この群衆国家の統一を行える……とも言われています」
「マー、話は長かったけれど、ようは、ここらへんの神と言えばやっぱすいりゅーサマってことなのよ〜」
「その翠竜の欠片のあるところ教えてくれますか?」
翠竜の欠片があるところは冒険者たちが常に探し続けている。
新たなる部位が見つかるだけで大騒ぎなんだとか。
そんな部位の1つである右中指爪がある場所。
「ここが……その迷宮かあ」
翠竜の肉体は野ざらしではなかった。
全て迷宮の中にあったのだ。
一般人がなかなか見つけられない配置なのだ。
さがしにいかなくてはならない。
ただ流石に神がいるところということで出入口は整備されその前は仰々しく飾り付けられついでに冒険者向けの屋台店がたくさん出ている。
めちゃくちゃ活気がある……
あくまで街からそこそこ離れた土地なのに。
「嬢ちゃん冒険者かい!? これは中に行く前に腹ごしらえはどうだ?」
「おうい! 保存食は足りてるかーい! 爪までは遠いよー!」
「本格的な研ぎはいかが? 自分での研ぎは、鍛冶師の研ぎがあったあとでこそ生きるよ!」
セールの言葉を聞き流しながら建物状になっているところへ入っていく。
不思議な紋様が刻まれている建物は壁が無く下に続く穴を覆うのみ。
もちろん宗教的な意味合いもあるし祭壇のようだが大事なのは刻まれた紋様の効果だ。
全部見たわけじゃないから解読は完璧ではないけれど……
たくさん何かが出てきた時に反応し警告音と結界を張るものっぽい。
なかなかないけれど迷宮型大氾濫対策かな。
他の冒険者に紛れるように降りていく。
その瞬間だけはいつも新鮮で。
私は光景が光に包まれるまで歩みを止めることはなかった。
虫という生物は時に難儀な生き物だ。
自身の身体を大きくすればするほど本来の力は発揮できなくなる。
強力無比の力も常にみなぎってなければまともに動くことすら叶わぬほどに。
それでも彼らは動きこの道を作り続けていく。
自らの命が新たなる道となり、やがて新たなる命のための標となる。
自身の巨大で重すぎた外骨格が確かな道となって。
蟲道の迷宮と言われるココは1歩踏み入れればその異様さにうめくことになる。
空は明るく広々としたこの空間だが……
字面が大きく硬質な何かに覆われている。
昔この何かを調査したものがいた。
調査結果によるとこれは頭骨だったそうだ。
……巨大な虫の魔物に頭部外骨格。
それが今私が立つ所。
少し先に進めば大量の何かが無造作に重なって結果的に城壁のように壁を成している。
……虫魔物たちの外骨格だ。
あまりに大きすぎてむしろイメージは湧いてこないが。
中身も魂もなくなにより既に石のように風化している。
サンゴの死骸を思い出すというか……
石灰の壁に似ている。
渓谷の迷宮みたいにこの空は天井限界がそこそこ近く上に行くと異様に重力が強くかかるらしい。
まあそれでも私が十分飛べるほどに空は高い。
そこまで壁が積まれている。
初めてきた冒険者たちはみんな、その光景にとまどい何度か来た冒険者たちは手慣れた様子で踏み入っていく。
私は覚悟を決めて奥へ進むこととした。
さて迷宮の中に入ったのだから約束通り喚ばないとだなあ。
脳内マッピングをしつつ周囲を探り……
ニンゲンたちが出来得る限りいない場所を探して。
その地区を結界で隠蔽。
見えなくする。
さてみんな呼ぼう。
空魔法"サモネッド"!
今回のメンバーは……
ひとりめの姿は全身から季節の草木が生えたようなタヌキ……
たぬ吉!
ふたりめは全身岩石鎧の大熊。
ジャグナー!
3体目は高度な思考能力を持った魂のあるゴーレム……
機械のような巨大な肉体はまるでここにいる虫たちの外骨格をまとっているかのように見える。
ノーツ!
そして4人目……
ほとんど共に冒険はしたことがない。
ただ昔からいてくれたメンバーで細い身体のニンゲン。
仮面はどこか恐ろしく美しい。
ユウレンだ!




