八百八十八生目 欠片
トークがはずみ飲み物は次々消化されつまむお菓子は消えていく。
冒険者たちは身体が資本だ。
逆に言えば食べたり飲んだりして蓄えたはずのものを次の依頼を受けて帰ってきたら全て吐き出していることも少なくない。
それは心もだ。
だからこそ今こうして交わし合うことでしっかりとためておく。
休みの日も冒険者ギルドに来てしまう面々は仕事に来ているメンツを見ながら飲んで食べるのが最高にうまいことをよく知っていた。
そんな最低な理由はともかく情報を常に得られるここにあしげなく通うことは冒険者たちはそこまで珍しくはなかった。
「まーーじウケルー! ヤバすぎ!! ヒャハハハハ」
「笑い方怖っ! んで、ここに来たわけかぁ」
「そういうわけです。正直かなり向こうはヤバい……」
「全く、内情を考えると笑えないですね……話し方がうまいだけで」
彼らに軽くここに来た経緯も話す。
まああくまでおもしろ話にはしたてあげたが。
でないと色々重たいし機密情報もある。
「そうそう、ソレ関係かもなんですけども、ココらへんで神様祀ったりしていませんか?」
「神ー? そりゃあ神ってるスイリューさまは、もちろん祭りまくり!」
「まあ、ここらへんといえば翠竜様だよなあ。大陸広しといえど、首都が立つところには理由がある」
「翠竜以外にも土着信仰というか、この地方にしかないみたいな逸話の神とかは……」
「ええ、あるにはありますね。やはり翠竜様には話題性は負けますが。そうだ、首都と翠竜様の関係、もしや海外からのあなたはまだ知らないことがあるのでは?」
「そういえば、今理由があるって……」
他の信仰のことも気になるがやはり翠竜信仰自体も気になる。
まだまだこの大陸での翠竜信仰の形をあまりしらない。
もちろんマークを掲げたり置物があったりとどこでもあるものはよく見かけたが。
「海外の方に説明するのは初めてなのですが、翠竜信仰自体の教義などは教会へ行ってもらうとして……話を聞くに、翠竜様だけのことは分かっています。ええーっ……と。おお、ありました」
テーブル囲んでいたひとりが近場から1つの置物を持ってきた。
冒険者ギルドの美術品だろう。
デフォルメというか象徴化というか。
竜っぽい何かがそこにあった。
まあ色も緑だしこれは……
「翠竜ですか」
「ええ、これを……こうやると」
パキッと快音が鳴り響いたと共にバラバラになった。
「ええーっ!? 壊れた!?」
「うーわ、備品壊しちゃったー、知らないぞー?」
「いやいや、これはよう」
「ええ、壊れたわけでも壊したわけでもありません。翠竜様の置物なら当然です」
そういいつつ彼はバラバラになった像を指で持ち上げる。
それまでは止まっていて見えなかった光が今見えた。
きらりと輝く仕込みもの。
「これは……糸で繋がっているんですか?」
「これが翠竜様の最大の特徴です。翠竜様の身体は、このようにバラバラになっても無事生きており、その全体像を見せること無く、各地で地面に埋まる形で存在しております。簡単な細工なので、再現するためにだいたいの置物は分解できますよ」
「へええ〜……バラバラになっても生き続けている神……ってえっ、それって細工なんですか?」
「え? ええ。この程度なら量産されていますよ」
バラバラになっている翠竜も気になるがやはりここの大陸は独特だと思い知らされた。
"鷹目"を利用しズームして見るとまるで二重らせんのごとく極細に絡んで織られた糸が見える。
さらに像がバラバラに机の上に配置されているのに簡単にワンボタンで元の形に戻った。
金属の像に仕込むものといい伸縮自在な極細糸の量産といいここの大陸のものが気づけていない海外向け商材がいっぱいである。
物によっては技術革命おきそう。 ピアノ線より細そう。
細い繊維をたくさん編み上げて魔物の素材効果で強力な服装を作ることはよくある。
冒険者用だ。
ただここまでってなるとさすがに見たことないや。
「神の欠片は各地に埋まっており、そのおかげで土地の賑わいと争いは常にあると考えてもらっていいほどです。幸いなことに、発見された部位は多く、今のところ国に1つはあります。その発見された部位の近くにたるものが」
「そう、首都だ!」
「ああっ、わたくしのセリフ!」
なるほどつまりここの近くに翠竜の欠片が……
いや欠片があるってすごい表現になるな。
翠竜の本体はそこまで大地に根付いているのか。
……私があったあのあやつり人形のような不可思議な翠竜の姿を思い出す。
もしかしてそういうことなのだろうか?
本来の肉体すらバラバラでも問題なく各々操れる力……
それと翠竜の分神人形と世界を襲った人形。
パッと見関連性がありそうだしおそらく賢いものが気付くのを狙っていそうだが……
においが違うんだよなあ。




