百九十三生目 猛進
少年の持つ武器を"観察"!
[スモールソード・レイ
小ぶりで細めの剣で取り回しがよく一般的な片手剣。鎧を貫く力は弱いが生身には有効。魔力によって通常より威力が増し早く振れるため汎用性が増している]
[復讐刀 恨み辛みを表すかのように刀身を含めて真っ赤な片刃。とある国では公的に復讐対象の殺害が認められた証で、相手を呪い魂と肉体双方で殺し復讐を果たすための聖剣と言われている]
これがさっきユウレンが言っていたものか。
少年自身も言うように復讐が目的なのか。
ただカムラさんではない気がするが……
そっくりだったのかどうなのか、今少年は間違いないとカムラさんを文字通り親の仇として見ている。
復讐を果たす邪魔をするもの全てを吹き飛ばさないと止まらないという雰囲気だ。
今もイタ吉が打ち込まれたらそのまま打ち上げられたあげくアヅキを巻き込んで吹き飛んだ。
「あーっつつ、見た目と違ってなんてパワーだ!」
「くっ、早いな……一連の流れで何度も切ってゴリ押しで吹き飛ばすとは」
「うおおおおッ!!」
地に叩き落されたアヅキに向けて少年が腕を伸ばすとアヅキの前の空気が熱でぼやける。
あれは火魔法"エクスプローシブF"か!
アヅキも気づいたらしくて急いでその場から転がるように離れる。
ボオォォン!!
爆炎が広がってあちこちに飛び火する。
テントたちにも……
「コレはマズ――」
「らああぁあ!!」
裏返るような声で火魔法が連射される。
"フレイムボール"があちこちの魔物に向けて放たれる。
"エクスプローシブF"がアヅキたちを襲う。
火の手はアッという間に広まることとなった。
めちゃくちゃだ!
みんなで作り上げた景色が炎に飲まれていく。
「カムラ、だっけ? 武器は使えるか!?」
「ええ、多少は心得ています」
「良かった、だったらこいつ使ってくれないか!」
イタ吉が自らの尾を伸ばして差し出す。
先端は斧槍のような刃でイタ吉が伸ばせば尾の一部は持ち手のようになる。
前はイタ吉があれを無理矢理使っていたがあまりうまく使えていなかった。
尾はかなり長く伸縮出来てイタ吉の近くにいるという制限は出来るがカムラさんが持って振るっても問題ないだろう。
カムラさんも一瞬何を言われたか分からないといった様子だったがすぐに理解しイタ吉の尾を構える。
イタ吉の尾を斧槍とした構えるカムラさんの様子はイタ吉の未熟なそれとは違った。
気品すら漂うほどに武器を構えた姿に圧を感じる。
我流ではなく正当な流派なのだろうかまるでスキがない。
「があああぁぁ!!」
「行かせてもらいます」
「合わせるぜ!」
イタ吉と少年が前へ出て爪と剣がぶつかリ弾ける。
さらにカムラさんが踏み込んで空気とスキをつく鋭い突き!
左の小剣を這わせて防ぎ火花が散る。
そのまますんでで顔を避けてカムラさんに迫る。
懐に潜り込まれれば小回りの効かない斧槍では不利に追い込まれる。
そのことを理解して振られる復讐刀をバックステップで回避しそのすぐ後にイタ吉が潜り込んだ。
「邪魔だ!」
「遅いぜ!」
互いにラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!
目にも止まらぬ早さで繰り広げられる猛撃たち。
いやまあ早ければ早いほど目にはよく見えるので比喩表現。
それほどまでに圧倒的に双方の乱激がでたらめに早い。
とは言ってもイタ吉単独ならすぐ押されてしまっただろう。
遅くはあっても確実に入れていくカムラさんの援護あってのたまものだ。
イタ吉は軽いが数がある。
カムラさんの斧槍は遅いが重く鋭い。
アヅキは上空から支援に徹底している。
リズムとタイプの違う攻撃が織り交ぜられてそれでも耐えてかつ攻めているのが少年の実力を物語る。
こっちもひとまずの治療は終わったものの火の手の放置はまずい。
水は無いが土で潰して沈下すれば問題ないはず。
急いで唱え――
「らぁ! まだだ、まだ終わりじゃない!!」
強く剣と斧槍がぶつかり少年が弾き飛ぶ。
よく見ると生傷が増えてきている。
大したダメージではないがいままで傷が入らなかった相手に対してついに優位をとった。
だが後ろへ下がった少年から強烈に嫌な気配を感じる。
何といえば良いのだろうか。
私はこれを知っている?
「魔力よ! 合わされ!」
パァン!
少年が剣を地面に刺してから手のひら同士を強く合わせた。
これは! もしや!
「みんな止め――」
一瞬の出来事に様子を見ようとしたアヅキにカムラさんとイタ吉それに私も慌てて駆け寄る。
だが。
「"進化"!! ウオオォォォ!!」
「ぐっ!?」
急速に空圧か何かが発生して弾き飛ばされる。
いや、この光は!
私が出来るし私以外も出来た。
つまりニンゲンが出来てもおかしくない……!
光を破って出てきた少年の姿は"進化"していた。
人型ではあるが赤黒い体毛を全身に纏って毛皮になっている。
服はそのままだが細長い尾が生えた。
ネコ科……その中でもライオンに近いかもしれない。
例え子ライオンだとしても漂わせる風格は先ほどまでのものとは比べ物にならないほどに王者だと物語っている。
マズイ。