八百八十六生目 首都
森の中を進む。
今度は悲鳴なんかも聴こえてくることはない。
むしろ快適さが追求されていそうだ。
まあ私が森生まれだからね。
ニンゲンからしたら鬱蒼としていてどこに虫や獣や魔物が出るかと戦々恐々だろう。
それに駆けているとさすがに雰囲気が変わったのが見えてきた。
別に視界の外に出たわけじゃなくて森の質が変わった。
山の境目とか谷の構成とかの関係だろう。
具体的にどうとは言えずとも肌感は大きくかわる。
通り抜ける風が私の頬を撫でた。
さてとまあここまでこれたわけだが……
この神力の気配はなんなのか。
神そのものが鎮座している感覚とは違う。
なんとなく漂う神のオーラというべきか。
あたりを神域として認めている余波で広がっているような。
そして神力はとても不可思議な感覚がした。
何と特定させないような……なおかつしっかりした存在感があるような。
色で言うなら白にピンク。
ファンシーな雰囲気だ。
……そして私の警戒度も上がる。
小目標や中目標はあるものの大目標だって今回はある。
世界を混乱に貶めた人形たちの世界大蜂起。
その人形達を作ったのが翠の大地にある神。
ちょっとやそっとの神じゃない……だからこそ神力の気配が漂う相手に油断などできない。
少なくとも大神クラス。
私が潜入したのはバレてはないだろう。
神力封印しているし。
私はそのまま歩みを進めて行き……
やがて視界がひらける。
そこにあるのは遥か遠くへ続く道と街。
地図通りならばここが『国』の首都だ。
ようは国庁所在地だ。
ちなみに『全国』の首都は大首都というある意味そのまんまの名前で呼ばれている。
遠目から見てもこっちで見てきた複数の街たちよりも立派な壁と建築が見える。
それに同じく金属たちが使われていても美しく。
木材がよくよく使われ輝いている。
遠目からの感想でもそれなのだから近づいたらさらにいいだろう。
果たして神に愛された土地なのか神に呪われた土地なのか……
詳しい話はまだ仕入れていないから突入だ。
実際の所情報収集という面では私はそんなに役にたたない。
ちゃんと情報収集している面々がアノニマルースで活動しここの大陸でも暗躍中だ。
私に期待されているのは意外性である。
まさかこんなところで何が起こってなんとかかんとかというもの。
通称悪運。
私の方は必要な情報がその時その時でしかおりてこない。
アノニマルース側で制御しているデータだけくれるからだ。
移動サーカスもそのうち調べるだろう。
私は首都街道へ近づくに連れ誰もいないところで2足冒険者風に変身する。
こういうところで望遠し警戒している者はたまにいるので見られないように気を回すのが大事だ。
いつでも完全というものはない。
距離的に今までの道のりを考えればわずか。
私は足に力を込めて……
一気に走り抜いた!
「暇だな……」
「さっきのて列をさばいちまったからなぁ」
「つーかさっきの列でも全員問題のあるやつはいなかったし、ほぼそのまんま通しただけだしなぁ」
「王都の方では、魔物たちの大氾濫あったんだろ? こっちはそんなこともないからなぁ」
「いやいや、大蜂起だよ。魔物の兵が率いて襲ってきたらしい」
「おっかねー。ここではそんなことはないな」
「……おい? なんか遠くのおかしくないか?」
「んあ? 煙が上がってる……もしかして土煙? も、モンスターの突撃か!?」
「それにしては影が見えない! 何だ、風が、とんでもない駿鳥か!?」
「「と、とまれ!!」」
おっと。
あっという間に門前にたどり着いた。
ブレーキをかけて兵たちの前で止まる。
「…………」
「…………と、とまった?」
「お疲れさまです、身分証です。通っていいですか?」
「え、あ、冒険者? は、はぁ」
「い、良いのか通して……?」
「わからん……そもそも何もかもわからん……」
「冒険者は常識が通じないやつがいるからな……」
「あの……聞こえてますけれど……」
随分失礼な会話が目の前で繰り広げられていた。
首都の中には無事に入れた。
さすが首都ということで警備はあった。
冒険者証で無事入れる。
時刻はちょうどおやつ時。
日が高く登っていて過ごしやすく街の中は人通りが多い。
近くに来てやはり思ったのはめちゃくちゃ立派。
さっきまでの領地での出来事が嘘だったかのように見ているだけでワクワクしてくる。
木材のなめらかで深みある色合いや独特の塗料で完璧に構築されているだけで楽しめるものだ。
壁は頼りがいがあり分厚く美しい。
当然多くの資材が必要だけれどそれを支えきっている様子。
これだけ作りが立派なら心配する点はそんなにないだろう。
今までと違って。




