八百八十四生目 繋寄
示された資料は領主一族たちの狙いをあきらかにした。
短絡的というか……性格が悪い。
そうだ。性格が悪いんだ。
「今回のこれ、とてつもなく性格が悪いですね。自分のことしか考えない極地のひとつというか……」
「まさしく、領主代行の器ではないな。本来の領主が幼すぎて領主をやれないからこそなのに、実権を完全に奪ってしまっているから、本来は器じゃない奴らがやっている」
「実際、ミルドレクド家に関してはなんで早死にしてしまったんだという思いがほとんどで、そこまで恨みはないのです。むしろ、先代はよく尽くしてくれました。流行りで亡くなり、優秀な部下もちょうどいなくなっていたりと、運が悪くて……」
実際に運が悪かったのか悪いようにはめられたのかはわからない。 ただ目をつけられて貶められたのは間違いなく運は悪かっただろう。
「とりあえず、ミルーカ様が持ち込んだ資料は読ませてもらいました。強制監査に踏み切る際に大事な証拠になるかと」
「本当はぼくがやりたかった……けれど、ぼくはいつの間にか、引き返せない泥沼に足を踏み込んでいた。もはや、裁かれるその時を待つ身になるだろう」
「アンタのためってわけじゃあないけれど……かたきは討つ。大人しく、被害者への償いを考えておきな」
「もちろん。ぼくは、ガンザを許しはしないが、ガンザと関わっていた自分自身も許せそうにない……」
ミルーカの眉間に深いシワがよった。
……本当に彼が苦しんだ時は少し手を貸すかな。
なんというか見ていてあまりに背負いすぎているきらいがある。
こんなものガンザに全責任おっかぶせれば良いのだ。
ただミルーカがここまで自己を追い詰めるのはミアの効果だ。
ミアが罪から逃れぬように杭を刺した。
これがどれだけこの先に影響が出るか……
なぜならミアも言ったことで中途半端に引けなくなった。
他人に責任を問うときは自身の責任ものしかかるからだ。
ただミアは共にいた相手を救うまで帰る気はないだろう。
村のものたちや同じ場所にいた相手をほうって誰かにあとを頼めるのならそもそも今刃を持って前線に立っていないのだから。
「……問題があるとすれば、強制監査には準備がいります。離れた各地のギルド会議の結果から、戦力の準備、それに詳細な裏取りが。この間に、捕らえた賊たちから、すこしでも有用な話が取れればいいのですが」
「すまない、ぼくはそちらの方面には詳しくないんだ……」
「そこに関しては、のちに尋問を受けてもらいますが、まあ多分本当だろうなとは」
何せこの王子全然嘘をつくニオイしないもの。
メリット狙いならまだあることないこと言ったほうがいい。
そのことはみんなも分かっているようで了承ということで話が進む。
すると扉が開いて防音状態が解除される。
こういう結界設備の特徴として静かに扉が開くことはない。
必ず音が響く。
それに外の音が一気に入ってくる独特の感覚がやってくる。
一瞬で目配せしあい暗殺未遂の件は黙ることにした。
「失礼します。兵の尋問で、少し情報が手に入りました」
「……一応言っておくけれど、なぜここに?」
「兵長の指示です。ローズオーラ様へ特に知らせるようにと」
「なるほど……」
やっぱりかあ……
まあ助かったのはいいや。
今この場で報告してもらうように伝える。
兵は身体をピンと伸ばしてから話す。
「直前に人身売買した相手のことが判明しました。彼ら自身はその者たちの情報を詳しくは知らなかったのですが、出現位置や、やり口から違法奴隷組織を1つ特定出来ました。その組織を摘発できればいいのですが、問題は搬送先です」
兵が資料をいくつか机の上に置く。
犯罪組織の特徴。
そして運び出される先。
そこはどこに向かうかは詳しくは不明だが……
1つの場所に道筋が見えてきている。
そちらのほうにいけばあるのは……
「ここ、おおまかな地図では何もない丘ですけれど……?」
「確かにここに何も町はないのですが……移動式らしい賑やかな場がココに設営されています。たしか、見世物小屋などがある、と聞いたことが」
「賭け事を楽しむことも出来るらしいよ。ま、アタシみたいな金無にはほとんど縁がないけどねえ!」
……最近できた賑やかな場。
もしかしてこれか?
意外すぎる繋がりを見せたが一気に胡散臭くなってきた。
「人さらいが移動サーカスに何のようがあるかはわからないけど、華やかな場所は闇の取引にも使われがちだよ」
「ここらへんにまでは案内は来ていませんが、気になりはしますね……まだ強制監査までに時間はありますし」
「だったらチームを分けましょう。私がこの移動サーカスに行きます。距離もあるみたいですからね」




