八百八十二生目 復讐
協力したいと申し出てきた人物。
それは見間違えるけもない美丈夫。
ミルーカだった。
「おお……もう起きて平気なのですか? だいぶ血が失われていたはずですが」
「良い悪いはともかく、今立って話さねば、後悔すると思い馳せ参じただけですら……っく」
まだその服装は包帯がまかれた上から着る病人服だ。
それでも絵になっているのがすごい。
ただしフラフラしている。
「と、とりあえず、座って……」
私が椅子をすすめてギルドマスターが手を引けば素直に座ってくれた。
しんどいのは事実のようだ。
においが良くない。
「済まない、助かった……」
「まさかギルドの中に匿っていたとは……大胆ですね」
「あまり選択肢がなかっただけではありますが……タイミング的にはちょうど良かったかもしれません。領主一族の話ですから」
ということは男爵もここにいるのだろう。
ただミルーカでこれならダウンした男爵はまだまだ復活に時間かかるな。
「領主一族の話は……あくまでぼくの主観になります。そこは念頭においてください」
ミルーカはそう切り出し私達は無言で肯定する。
「ここの領主一族とぼくの関係性は……簡単に言えば、裏切り者です。元々ぼくは、ここで多くの食料を管理し増産していく立場でした。まだ若輩の身ではありましたが、先代の作った立場をうまく引き継げて、それなりに広範囲の食料をコントロールし、都会にも安定出荷できていました」
「なんともまあ、控えめな表現だねぇ……」
「バンさん、詳しいの?」
「まあね。確かに巨大生産ブランドによる食料生産は先代から引き継いだけれど、第一次生産が中心だった先代を踏襲しつつ、それらを加工し、多くのものを同じ品質の食べ物として各地にインフラ整備をして、加工した各地のものたちをそれぞれの場所にある店舗まで届け、さらには料理屋を多く統一企画にし、ターゲット層それぞれに向けて、多種多様な店をだして……を全部ひっくるめてさっきの小さい表現なんだからね。私が知る限り、道路整備や運搬用新型鳥車までする食料生産コントロールはしらない。この街で出ている食事処も、元々王子のところのだし」
「ええっ!?」
聞く限り死ぬほど優秀じゃないか。
しかしミルーカは軽く照れてしまうのみ。
「全部過去の話です。今ではなんの力もありません。それでも慕ってついてきてくれた者達は複数いますが……」
「裏切られて、とのことでしたが」
「ええ。元々、この地方は先代のころはとても豊かで、伝え聞く限りでもかなり重用していたのです。ただ、代替わりしてからは一気に悪くなり、ここの領主一族の代表と何度も話を交わしましたが、簡単に言えば幼い現当主のかわりに務めている者達は、かなり悪印象を起こすことを起こし、それだけで亀裂が入っていきました。ただ、そこまでは悪く言えば、よくあることなのです」
よくあることと言い切ったミルーカはどこか自嘲気味だった。
そのよくあることからの違いを見分けられなかった先に。
何があるのかというのを。
「ということは、その先ですね」
「ええ。そのうち重用しなくなったあたりで、決定的に道が分かたれました。様々な工作や妨害……そこまでは誰がやっているかはわからなくても、まあ多くあることの1つでした。しかし、最後の最後決定的なことが起こりました。ここから先は……」
「他言無用、ですね」
ギルドマスターが防音の結界を部屋に起動させた。
ミルーカがうなずくと話が進む。
「……暗殺未遂が起こりました。ぼくの選んだ食料たちから、王を狙った毒物暗殺を。毒耐性を貫通させる呪いのような毒で、非常に恐ろしかったのですが……まあ、そこまではよくある話です。王族は、余計なうらみもかいやすいので、ギリギリのところで回避できました。ただし、その後ぼくが画策したことになって、大きく事態は変わりました。もちろんぼくが提供したからなんてつまらない話ではありません。捜査をきちんとして、その上でです」
「つまり、ハメられたことを主張すると。ただ、アタシたちからしたら本当にあんたが犯人ではないかはわからないんだけどね」
「それは信じてもらうしかありません。というより、ここで嘘をつくメリットが薄すぎますからね」
「まあね……前提として主観だという話は聞いているから」
バンの懸念は最もだが今のところ嘘をついたにおいはない。
"見透す目"にも反応はないので少なくとも本人は嘘をついている自覚はない。
多角的視点ではないというだけだ。
「ぼくはその時点で確信しました。誰かに手回しされハメられたのだと。だけれども何もかもが遅い。さらにぼく直属の部下と名乗る者たちが襲撃をかけ……問いただす場は騒然となりました」




