八百七十三生目 竜巻
戦闘は冒険者中心に行われる。
だがミルーカも動きを止めない。
鬱陶しそうにガンザが冒険者たちのことをブーメランで追い払う。
「うわっ、なんだこの武器!」
「気をつけろ! その武器は帰ってくる!」
「へ? きゃあ!?」
「ひええ、間違えりゃ死ぬぞこれ」
ミルーカの元にメンバーが増えても味方合計6人だ。
ガンザにとってブーメランを投げればコンボする相手が増えたぐらいの感覚。
連続でブーメランを投げつつ本人も武器を持つ冒険者相手に素手で殴りかかる。
間違いなく強い。
そもそもそういう能力なのかひとりが避けてもさらに別の相手へ追尾していっている。
盾持ちが防いでも軽快に跳ねてまた別の相手を狙うのだ。
「やっべ」
「こ、このままではまた……」
ミルーカがその光景に肩を落とし掛け。
リーダー風の女性がその肩に手をかける。
「いや……よし、散開! 同じ距離を保て!」
号令と共に全員の動きは早かった。
ブーメランを避けつつも全員が一定距離を離しつつガンザを囲むように散らばる。
「で、こっから?」
「全員がそれぞれ目の役割をするんだ! 見るのを共有すれば、どちらからも目をはなさずに済む!」
それは単純ゆえに人数をヒツヨウとするやり方。
簡単だが言うほど楽ではない。
しかし……連携されるとガンザは途端に動きにくくなる!
「ちっ、当たり前のように馴染みやがって!」
「ぼくは罪を償う。だから、ここで足を引っ張るわけにはいかない!!」
ガンザがなげるたびに誰かがブーメランを追い誰かはガンザを見る。
「あっちだ! 帰ってくる!」
「おっさんがお前に!」
「チッ!」
飛び回り走り回るのにしっかりとくっついて移動する。
それだけでガンザはいきなり動きが制限されだした。
当然その状態では周囲の警戒をガンザがしきれない。
おそらくスキルで周囲を見渡すものを使ってはいるが……
「デカブツそっち!」
「オラァッ!」
「こなくそ!」
「スキだらけだっ!」
「何!?」
ガンザが誰かに相手すれば他が集中的に殴りにいく。
単純だがこれだけでガンザの動きは面白いほど封じられている。
ブーメランは自由だが全員の目が常に離さない。
「このっ……!」
さてそうこうしている間に私の方である。
ビュウロウと私はこのエリアで互いの攻撃が届いていない範囲などないってところまで戦っていた。
向こうは既に息が荒く生命力が既に7割削れている。
というかこっちのほうが大立ち回りは効くので大きく削っては自己治癒されての繰り返しだ。
ただ向こうの自己治癒も完璧ではない。
攻めればそれどころではなく防ぎに走る。
「ねえ、まだ全力は……だしていないよね」
「はぁ、はぁ、なんだ、嫌味か……!?」
「違う。そのままの意味で。今まで、気を使って戦ってたよね?」
「ああ!? ……それはそっちも同じだろう!?」
「それはそうなんだけれど、それで私に勝てるものではないよ。みんななら、まあ守る手もあるし……やってみたら? 全力。でなければ……ここで狩る」
私が挑発しているのは理由がある。
戦いを楽しもうというだけではない。
こいつどこか常に逃げの選択肢が濃厚に残している。
今も竜巻弾を放ってきて私がそれを土魔法で弾いてと繰り返しているだけだ。
余力を私以外に向ける余裕がある状態で追い詰めたくない。
そういうやつはなにをしてまかすかわからないからだ。
的確に降り注ぐ風で出来た剣を雷撃の魔法で破壊して。
連鎖するようにビュウロウに当たる。
「ぐっ! くそ……」
彼はこちらのスキを見ては自らの身体に風を押し当て埋めている。
あれで治るらしい。
生命力があっという間に5割まで戻されたあたりでビーストセージをショットガンで撃ち込む。
しかしまあきれいに弾が体にまとう竜巻たちで弾かれてしまった。
ただし弾くのに集中するから回復の手は止まる。
その間に獣爪ビーストセージから2連続で水弾を放ち牽制。
水弾は速くないから避けられるもののちょうどいい。
なぜならどうやら腹をくくったらしい。
雰囲気が違う。
「やるしかないか……おい! 全力を出す! ニンゲン、適当に捕まれ!」
「何!?」
ガンザは言葉が通じているらしく焦り顔。
「みんな! どこかに掴まるか結界内に!」
「「えっ!?」」
驚いている……けれど。
ミアを筆頭にすぐ行動を始める。
魔力の高まりを感じているのは私だけではないから。
とりあえず砦内に人質がいないことは探知した。
どこから行くかは不明だが地下にいる。
ミルーカ派閥にバレないようにするためだろう。
ビュウロウの高まった魔力はすぐさま竜巻に……
竜巻は嵐に……
嵐は逆巻く大気に変化していく。




