八百七十二生目 突入
穴のある壁は2箇所壊した。
これで毒の流入はだいぶ止まっている。
反対側の高台に射る賊と別エリアの高台に射るガンザ。
それに私が今蹴り飛ばしたビュウロウが残りの相手だ。
それと下にもう一箇所穴があるけれど……
「「うわっ!」」
……今爆破された音が鳴り響いた。
上に習って爆破したらしい。
これで毒の流入そのものは止まっな。
残留しているので結界と高台以外は変わらず危険区域だが。
とりあえず自然に霧散するだろう。
態勢を立て直しつつガンザたちの元へとミアたちが移動。
ミアたちはミルーカの助けに走る。
「これ、戦局的には勝っているんですか……ね?」
「いんや」
ミアの言葉をバンは否定する。
それは私も同じ気持ちだ。
「え?」
「確かに勝ち進んでいるように見えるけれど、それはガンザとあのあちこちで戦っている風の魔物みたいなのが抑えられているから。どちらかがフリーになるだけで、ひっくり返されるね。そう見た」
「そんな……!」
正直ガンザをいまだイラツカせながら食いつきブーメランをしのいでいるミルーカは凄い。
ただそれは奇跡の時間が続いているだけのようなもの。
機を見て突撃を噛ましているが相手に痛打を与えるに至っていない。
間違いなくガンザは手傷を負っている。
しかし全身から血を流しているミルーカとどちらが優勢かわざわざ論じるまでもないというだけで。
明らかに早く助けが必要だった。
「おらっ! もう限界だろ! 死ねよぉ!!」
「ぐっ!! 嫌だっ、ぼくは、こんなところで負けるわけにはいかない、死ぬわけにはいかない! 卑劣な貴様を倒し、領民を苦しめ、ぼくと母を追い詰めた一族を許さない……っ!」
ミルーカが激しく踏み込み剣を袈裟斬りするとギリギリに避ける。 連続で振るうのを背後にとんで避けてブーメランが帰ってきたのをミルーカが転がり避ける。
ミルーカが立ち上がる瞬間にブーメランをタテで投げつけさらにギリギリ回避。
そこを蹴り上げたのをミルーカが剣でギリギリ受ける。
もちろん足には木で出来た重厚な鎧で受けている。
「があっ!?」
受けて吹っ飛んだミルーカが必死に着地する。
なんとか耐えられたらしい。
ギリギリの綱渡り……それなのに。
「ちぃっ! まだ倒れねえか!」
「1度貰ったチャンスは、無駄にしない!」
文字通り血を吐くような叫び。
しかしガンザは頭に青筋を浮かべているもののまだ全力を出し切ってはいない。
あれではいずれ追いつかれる。
しかしガンザもミルーカも知らなかった。
私たち冒険者たちしか。
時がたつのはあちらの有利だけではないということを。
……轟音。
それは最初くぐもって聴こえた。
1つめの轟音は遠くにくぐもった音で。
……轟音!
それは先程よりもはっきりと。
どこかこの戦場近くから響く。
「あ、これ爆発するぞ!?」
「「おわぁぁっ!!」」
轟音!!
みんなが察して伏せた通り壁が爆破されて穴が開く。
そこには冒険者たち。
そう。別働隊たちだ。
さらに。
「て、鉄扉が!」
「「うおおおぉーー!!」」
封されていたはずの鉄扉が開いていく。
そしてなだれ込むように入ってきたのは外で休んでいた者たちと兵たち……
勢ぞろいである。
「ってなんだこれ! ゴホッ」
「毒かこれは! ゲホッ」
「全員早くこっちへ! 結界がある!」
「「ああっ!」」
毒煙が外に排出されていくもののそのあおりを受けたのは突入部隊だ。
慌てて布で顔を覆いつつ結界に駆け込む。
ただこれで毒煙の嵩が減ってきた。
ガンズとミルーカのところに来た冒険者はふたりを見回す。
そして。
「誰か! 状況!」
「細いやつが味方! デカいやつが敵!」
「わかっ……おおう!? なんだあの空での大決戦!?」
多分冒険者が話すのは私とビュウロウのことだ。
私達は集中しているから外からどう見えているかだなんてあんまり気にしていないが……
魔法が数秒の間に入り乱れている光景はなかなか生きた心地がしないかもしれない。
こちらではゆっくりしっかり組み立てながら戦っていることも他のまだレベルが低い者たちから見たらどれほど高速に見えるか。
さすがに目で追えないほどではないとは思う。
「ちぃっ! 増援とは!!」
「はぁ、はぁ……増援……たすけ……?」
「おい、大丈夫かイケメン!」
「くっそ、血まみれなのに顔がいいなこいつ」
「ほら、薬だ! 自分にかけろ!」
ガヤガヤと冒険者たちが出てきてガンズとミルーカを切り離す。
ミルーカは手渡された薬液の栓を外し体にかけた。
明らかに意識が朦朧としているがギリギリ動けたらしい。
「きみ……たちは……?」
「冒険者だ!」
その言葉を皮切りに戦いが再開する!




