八百六十九生目 飛去
ミルーカとガンザ。
少なからず協力関係であったふたりであり……
今互いに武器を向け合う相手でもある。
「ガンザ、お前と最初あった時は、暗闇の中に輝く月のようだと思ったよ。ギラギラと輝く星の光は、確かにあの時、闇に沈んだぼくの心を救ってくれた。それでも、今日までだ」
「へっ、気障ったらしい言い回しだなぁ……俺様からしたら、最初からテメーは鴨がネギを背負って見えたもんよ。だが、最後にシメられるときにあがくってんなら……容赦はしねえ」
「追い詰められた鴨の底意地は、偽物の月すら砕こう!」
ミルーカが仕掛けた。
殺意の確かにこもった一撃があまりに素早い速度から繰り出される。
乗った速さがそのまま刃の先に勢いとして乗る。
「ちっ!」
弾く刃はガンザがギリギリ武器を使ってどけたもの。
それは「く」の字に折れ曲がった木を削り出したもの。
しかししっかり作り上げた巨大な飛行する刃。
ブーメランと呼ばれるものだった。
私おもちゃのブーメランは知っているけれど武器のブーメランは初めて見たなあ……
だがおもちゃでないのは確かだ。
籠もっている力も……
ガンザが込めている力の上限も殺意あるとするほどだ。
「ウゥンッ!!」
「ハアァッ!!」
ガンザが真横に振るったブーメランはソレだけで大剣の薙を思わせる剣圧を生む。
それに怖じけずミルーカは屈み髪の毛の先を切らせ腰をねじって無理な体勢から剣を振るう。
それでも威力は乗っていて無視できずガンザは背後へ跳んだ。
服の端が切れ飛ぶ。
「はんっ! ウォーミングアップは済んだか?」
「ガンザ、1度しか振るってないのにもう温まったのか?」
「ぬかせ! この武器のこと、忘れたわけではあるまいっ!!」
確かにガンザの言った通りあれは剣ではなくブーメランだ。
つまりミルーカの剣リーチから外れてこそ真価を発揮する。
ガンザの筋肉がみるみる膨張しブーメランが光出輝いて。
全身をバネにするようにしてブーメランが投げられた!
「オラァッ!!」
鋭い角度と速度でミルーカに飛来するブーメラン。
ただ投げただけでは生まれない滑空しているからこその加速と軌道。
転がるようにしてミルーカは避ける。
「ハッ!」
そして……返ってくるブーメランを見て身を逸らして避けた。
初見殺しだが元仲間のミルーカならば避けられる。
戻ってきたブーメランをガンザはキャッチし勢いを殺さず再度投げつける。
「そう! 俺様の武器は貴様を自由な角度から襲いかかる武器! さあどうくる?」
「言われるまでもない……!」
ミルーカは剣に嵌った美しい宝石を『杖』として氷の槍を放つ。
ブーメランはスレスレで跳んで避け後ろに目をやる。
氷の矢はガンザへ……
「どこを見てるんだ?」
「何!? ぐっ!?」
ガンザが真横に現れミルーカを殴り飛ばす。
ギリギリ体躯そらしは間に合ったか?
ブーメランはガンザの元へ戻ってさらに今度は明後日の方へ投げる。
「オレサマはフリーなのに目を離しちゃいけないよなあ! 氷の槍も、牽制なら問題ないが、避けることくらいは簡単だ! この得物の真の恐ろしさは……集中力を割くってことよ。どこから来るか常に全方位配ってなくちゃいけねえ。このようにな!」
殴り飛ばしたあとのミルーカをガンザ自身が追い語りかける。
ガンザが直接肉弾戦で大男の体躯を活かした殴りをしてくる。
ミルーカは言葉を追うかガンザを追うかで迷って……
1つの選択肢を頭の中で処理しきれなかった。
「ガハッ!?」
ブーメランによる横の急襲。
さらにグンと角度を変えガンザの手元に戻るブーメラン。
ミルーカはとっさに防げ手はいたらしくふっとばされても態勢を崩さず足でブレーキをかけて向き直る。
「くっ……相手にするとそんな厄介なのか!」
「ははっ! 今更気づいたかよ! 手元に戻るってだけでも厄介だろ? テメーのことも当然俺様は知っている。一方的になぶれるってこともなぁ!」
ガンザとミルーカの差は武器相性だけではない。
……レベル差もある。
ミルーカのほうが技量があるけれど回復もなしにひっくり返せるほどではないはずだ。
ブーメランは自由自在に飛来し思ったよりもミルーカを四方八方から襲いかかる。
ガンザも動きが止まらない。
ブーメランを避けたとおもったところに横からガンザが殴りかかり。
ガンザのなぐりを防いだところにブーメランが帰ってきて。
ブーメランが投げられ避けるとガンザの姿が消えて。
そして後ろに消えたはずのブーメランはまた正面からやってきて慌てて受けると背後の遠くにガンザが立っている。
「どうした!? よけてるだけか!? ならそろそろ死ねやっ!」
ブーメランを投げたガンザがミルーカに向かって駆け出す!




