百九十一生目 抜刀
"観察"を使い40という高レベルなのが判明した侵略者のニンゲン。
言語は耳に聴こえる範囲ではこの国のものだ。
望みは薄そうな気配だがなんとか交渉できはしないか。
時間を稼ぐためにも声をかけてみよう。
強化して補助魔法系を全体に……唱える。
「止まって!」
「……!?」
その少年がこちらを見つけ動きが止まる。
他の魔物たちも私に反応して止まった。
少年が私を見る目が一瞬驚愕からスッと冷ややかな目になる。
あれは……何も命をうつしていないような目だ。
まるでモノか何かを見るような。
左目を黒色の髪の毛が伸びて覆い隠している。
その他の特徴は耳が本来の位置にありつつも少し犬や猫のそれに近く見える。
服装は軽装で頑強そうな服ではあるがただそれだけだ。
そして背には2つの鞘。
1つはすでに抜かれて彼が持っている。
小剣とか呼ばれる類だったか、片手剣としても小さめの部類で小柄な彼でも余裕を持って振れそうだ。
威力が無い分は手数で補うスタイルか。
もう片側は背にしまわれている。
ただ何となく何の確証もないが……とんでもなく嫌な気配がある。
恐ろしさを強く感じる。
「人……いや、魔物か……」
「そうだよ、けれど話すことは出来る! だから一旦話を――」
「だったら問題ない……俺の経験値になれ……!」
強い口調で一方的に打ち切られてしまった。
補助魔法をかけ続けているが話は時間稼ぎにすらならないか。
「タアッ……!」
「うわあっ!?」
小剣を両手で持って振るえば光と共に突風が起こる。
少年の周囲に発生した風は強く魔物たちを吹き飛ばした!
風の刃なのか同時に切り裂いていて危険だ。
「ぐっ、ローズ! 誘導だ! 誘導するんだ!」
「誘導? うん……? そうか!」
ジャグナーが少年に言葉が通じないことを良いことに叫んでくる。
何かと思ったがよくよくさぐると"魔感"にひっかかる地面が近くにある。
隠してはあるが何かあるところだ。
ジャグナーを信じて防御系補助魔法をかけつつ前へ出る。
他の魔物みたいに風の刃で吹き飛ばされないようにしないと。
フルアーマー状態にしておこう。
「フッ……!」
独特な足さばきで急速に距離を詰められた。
滑るかのように姿勢を崩さず突進してきたせいで一瞬だけ距離がわからなかった。
そして小剣が振られ……
ガキンッ!
硬質なものにぶつかる音が響く。
"鷹目"で上あたりから見ていたかいがあって正確に私の鎧にある棘による溝にハメられたようだ。
「ム……」
「反撃!」
引き抜こうと一瞬で判断したようだがもう遅い。
そこそこ力を込められた振りだったからがっちりハマっている。
刃を折るために身体をひねると思ったより頑丈だったのか折れずに少年ごと引き抜けた。
それでも体勢が崩れた。
こういう時こそアレの出番!
武技"正気落とし"!
体だけが知っているかのように脳の思いとは別に身軽に体全体が勝手に動く。
1拍少年が遅れて手を離した。
それは良い判断だったが私はまるで達人のように少年の背後に回り込んでいた。
そのまま回転するかのような勢いで鎧化させた針に覆われた尾を叩き付けた!
重量のこもった一撃が少年の背後から襲う!
「ガッ……!!」
軽い身は派手に転がり数メートルで止まる。
今の受け身を取られたか。
ということは……
少年は辛そうに立ち上がった。
"正気落とし"が完全に入ったのに……
格上だからかはたまた気絶耐性か。
いずれにせよ"正気落とし"は生命力には影響を与えないスキル。
フラ付きはしているみたいだがすぐに調子を戻されてしまう。
だがアドバンテージはあった。
「ぬう……」
「探し物はこれかな?」
なんと剣が私の肩にハマったままだ。
これそう簡単に抜けないだろうなぁ。
武器がない状態つまり無手になったものの少年にはもう1本ある。
少年もそう思い腕を伸ばしたが……やめた。
「これは……お前を斬るためのものではない……それを返してもらうぞ……」
どういうわけか使わないらしい。
その代わり無手でも拳を構える。
まだやり口はあるということか。
警戒しながら数歩近づけば今度は普通にダッシュして接近してきた!
だが速い。
少年が何かのスキルを使い――
「グウッ……!?」
剣を奪おうとしたがその前に歩みが止められる。
ポイントに誘導成功したからだ。
少年の足には地面から生えた大量の白骨の手がしがみついていた。
「やっと止まったわね。どうやら人がお望みらしいから出てきてあげたわよ」
そう言って魔物たちの背後から出てきたのはユウレンだった。
そうユウレンによる骸骨トラップだ。
手はドンドンと増えてゆき腰まで手が伸びていく。
さながら地獄に引き込もうとしているようで恐ろしい光景だ。
少年は足を動かそうと暴れているのにまるで地面に根をはったかのように動けないらしい。
「人間……死霊使いか……? む……」
「どうしたのよ私の顔を見て考え出して」
「お前……どこかで……そうだ……!」
少年がそう言うと背の使おうとしなかった剣に手をかける。
「お前は……近くの町でも指名手配されていた……人殺しか……! 人殺しは『悪』だ……悪ならばこの刃で討つ……!」
「ええっ!? くぅっ、しっかり指名手配までされていたのね! こ、これは出てきたのは逆効果だったかしら」
急激に少年の殺気が高まっていく。
もう1本の剣がついに抜かれた。