八百六十四生目 王位
「うん。思いっきりやってきて。カバーはするから」
神の力が絡んでいる時点でもはやこれは単なる依頼じゃない。
この地域にとってもそうだ。
彼らは一体なんなのか。
地方の賊退治なのに国の中枢が関わっていそうな。
そんな不気味さがにじみ出ている。
正解はわからない。
ただ答えを知るものたちがこの先にいる。
それだけでミアたちが扉を開くには十分だった。
重々しく鉄扉が開いていく……
中に入ればそこは開けた空間だった。
砦の中にあると思えないほどにどこか清々しく。
そしてやはり周囲には高台が。
高台に座っている気配のなかに……いる。
先程から私が視ている神が。
そしてきっと私たちを視ている神が。
「どうも、よくぞここまで……男爵を打ち破るとは思わなかった。罠が仕掛けてあると思ったか? 悪いが、そういうやり口は性に合わない。君たちみたいな相手は、正面から向き合ってこそだ」
反対側の閉じた扉の方にひとり立っている。
逆にたくさんの賊たちは高台の方でやいのやいのとやじを飛ばしていた。
そして立つ男はたったひとりこちらを見据えているのに冒険者たちの視線に全く屈する気配はなかった。
なにをしているのか……
そう思ったのは私だけではないらしい。
「やい、ひとりで出てきたとは何をするつもりだ!」
「なにも」
その男性は……ひとことで言えば死ぬほど美形だった。
市民としてはありえないと思えるほどの美しさ。
それは高貴さという名前がつく。
ただ高貴なだけではなく賊としてありえないほど身綺麗なのだ。
化粧もしているのか。
髪も1つ1つとかれている。
金のかかった美容は同時に高められた血筋も感じる。
……貴族は自らの権威や能力の証左のために美形の血筋を集めるという。
まさしく狙って作られたかのような違和感。
「なにもってお前……?」
「君たちを殺そう、っていう意思ならば当然ぼくはここに出てこない。高台から一方的に攻め入るだろう。というより、ぼくはそれをうまく誤魔化し止めている立場だ。バレる前に、こちらの事情を話さなくてはならない」
「……賊のはなしていた、上の者が意見が割れている……って……」
バンがそう溢す。
聞こえているか聞こえていないかはともかく彼の言葉は続く。
「はっきり言おうか。ぼくらは、ここの領主一族にあだなすためにいる。奴らを許すつもりがない。どうにかして、引きずり下ろす。そのための組織だ」
「なっ!?」
「はぁ!?」
「んなっ!?」
全員が口々に驚きの声を上げる。
正直言うと……予想しなかったわけではなかった。
それでも面と向かって言われると驚くけれど。
「ぼくはミルーカ。ただのミルーカだ。こちらも痛手を負ったし、そちらも少なくない被害があったはずだ。だから、にこやかに手を組もうとは言わない」
その言葉を聞きバンが人々をかきわけ前へ出る。
「待った! ただのミルーカ? 冗談はよしなよ。その出で立ち、男爵と組むやつが、なんの立場もないわけないだろう? 話せよ、話はそれからだ」
「……ふうん、その目……君もワケアリに見える。まあいいや、とりあえずこっちの話だが……まずただのミルーカなのは間違いない。正式に勘当処分となったのを、この目と耳で味わったからね。ただその前は……一応は、王族の端くれ……とも呼ばれていたかな」
「「王族!?」」
この国には王都があるように王族また存在するらしい。
ただしこれは首都と首脳陣とはまた違う。
2つは同じようなものであり同時に敵対関係でもある。
王族は間違いなく国内で最大の財力とそれに伴う権力を持った一族だ。
彼らが得る税収は多い。
それは彼らが一大複合カンパニーの原型を持っているから。
王族ブランドの関連会社……という解釈が出来る形態があった。
あれも王族関係。これも王族関係。
そこの農家は王族の下設けの下設け。
名ばかり王族ではなく国内でトップクラスの実力持ちで坂状になっている権力構造の間違いなくトップ。
単一財閥としての王族というわけだ。
領主は王族の下設けみたいな位置でもあったりする。
一方首脳陣はいくつかの財団が集い権力構造を握った国の実質政治的側面を補う部分だ。
王族がトップダウン方式で首脳陣がボトムアップ構造となっている。
どちらが国の政治を回しているかといえばこっちだ。
領主はこちらに任命されている形となる。
もちろんボトムアップ方式とはいえまだまだ一部の選ばれた権力者たちが集って選ぶタイプだが……
王族はその一族からブレることはないのでこれでもだいぶ差異がある。
そして国として政治しているといえるのはこちらのほうだ。
……の割には影が薄いらしく王位を揺るがすほどではない。




