八百五十四生目 気配
廃棄された下水道。
都市としての機能がないために小さく川を途中で分岐させてひきこんでいる。
今やこの水は川の通り道みたいになっている。
清潔にするためのスライムが半野良となってはいるが結局ここの不衛生を食べているのでここの衛生は保たれていた。
「そいやーよお、ずっと気になっているんだけれど、なんでここの砦に住み着いているって今までバレなかったんだ?」
「ああ、それならいくつか理由が重なっているが、簡単だな」
ロッズの疑問にバンが笑顔で答える。
どうやらこっち方面で先輩顔出来るのがうれしいらしい。
「あん?」
「まず奴らは国家騎士レベルのやつを引き入れているプロだ。バレそうになっても黙らせる手なんていくらでもあるし、取れるだろう。ただそれ以上にばれないだろうな。ここの砦は、もはや旧道としても利用数がほとんどなく、兵の巡回ルートには入っていない。そういうところを知ってて選んでいるんだろうな。少ない旅人なんかは、門を閉じておけば単なる廃棄された砦だ。補修の跡に気づいたとしてもいつのものかなんて、だいたいのやつは調べるはずもない。襲撃地点も秀逸だ。わざとここを中心にしないように、意図的に偏らせていた。地図上から見たら、ここが巣窟だと見抜くのはよほど困難だからな」
「お、おおう」
「めっちゃ語るじゃん」
「つーかやたら詳しいな」
「冒険者長くやるなら、こういう情報を頭に入れる方が1番なんだよお?」
そこまで詳しくはわかっていなかったなあ。
特に地図のくだり。
過去の襲撃場所も全部調べられるだけ調べられ当てられる位置にいるだなんて……
考え込んでいたミアがふとバンに目線を向ける。
「もしかして……あなたもこの相手を、前から追っていたんですか?」
「……まなあ」
バンはふと暗い影をその目に見せた。
バンのあの顔は……
痛みを堪え何かを見据える目。
なるほど3人組以外何か抱えたチームだったらしい。
実際今回はかなり大きな戦いになる。
地元の面々で因縁を持つものは少なくないだろう。
私はまさしく外野だ。
彼らが彼らの世界を救うのを見守る使命をもつ。
それまで支えるだけだ。補助魔法で。
現在彼らの能力は数値化したらどのぐらいの倍数強くなっているのだろうか。
ココから先の本番で見してくれるだろう。
結局活かしてくれるかどうかは彼ら次第だ。
魔法を使うウッズ魔法威力が増す薬液を渡しておいた。
ミアは既に体内に含まれている。
さっき食べさせたとても不味いアレに含まれているから。
魔法って魔法威力を増す系は少ないんだよね。
魔法威力を増す武技はあるらしい。
魔法威力は集中力とか精神力とか知力とかの複合なのでまあそこらへんが上がるものもないわけではないけれど……
筋力を増すとか固くなるとか物理面を強化しやすいのが魔法っていうのは一種の相互作用的効果らしい。
効率が良いというか。
効果も大きい。
さてそうこうしている間にあっという間についた。
梯子から上へ行けるわけだ。
「誰が先頭で行くよ?」
「ま、アタシだねえ」
隠密が出来るバンが名乗り出る。
軽くはしごを握って壊れてないのを確かめ。
ふわりと上へ駆け上がっていった。
「……なかなかバンもとんでもない身体能力してんな」
ゴズがそうつぶやいた。
音もなく数段飛ばしてふわりと駆け上がっていく姿は完全に手慣れている者。
私達も後に続いていく。
「補助魔法の違和感もだいぶ消えてきたな」
「最初はどっちかっていうと補助魔法に引っ張られていたからな……」
「力が強すぎて蹴り飛ばした小石がどっかに吹っ飛んでいったからな……」
こなれてない相手から補助魔法を受けることを補助のジレンマと呼ぶ。
強くなるはずが弱くなるのだ。
イメージ的には例えば速さが突然倍になるとそれに脳が適応できるはずもなく派手に転ぶようなものだ。
もちろん全体的に強化したほうが強いし私は相手をみて調整するのでいうほど不合理は起こらない。
だが多くのものは経験が感情を呼び起こす。
果たしてこれは大丈夫なのだろうかという不安。
それで全力を出せなかったら……というジレンマ。
だから今回私は早めにかけて大丈夫なことを見せておいた。
何度もかけ直しできるしね。
バンがそっと重し蓋をずらす。
どうやら床の一部と一体化していたらしい。
上に何も乗っていないのは幸いだった。
場所は倉庫の一室か。
よくみると近くに消火設備があった。
なるほど壁にある消火設備を使うために荷物を置かないように……
そして死角にもなっている。
これを建てた時はよくよく考えられたのだろう。
今や夢の跡だが。
すでに扉の向こうに気配があるな。




