八百五十三生目 下水
あとは時空魔法かな。
それの補助をしてから私の能力で使える他の魔法から補助をそれとなく引っ張ってくれば……
「もういい! もう十分だから!」
「さっきまでのわたし達が馬鹿らしくなるほど力があふれる……! 一旦落ち着ければ受け入れられるけれど、ガンガン付与される時、正直力が溢れて零れ落ちそうで、怖いですよね」
「い、いきてる……?」
「おう、死んでねえ……」
「なんで補助魔法で死にかけるんだ……?」
「はは、しかも全員に同時に……今までで一番おかしいって」
「え? そう? というかむしろ生命力は増しているんだけれど……」
それと各々に調整して本当に駄目にならないようにはしている。
オーバーフローを起こさないように。
昔勇者に試して反省し訓練したので間違いない。
つまり彼らは恐ろしいのだ。
今アルコールを何杯も飲んで果たして自分が酔いつぶれるか気持ち悪くて吐くのはいつなのか。
自覚的にわからなくて怖い段階。
それでぶっちゃけ私側はそれを見分けられている。
「あ、でもこれだけはかけさせて」
[オーバータイム 対象のかかった効果の延長が出来る。味方は良い効果が、敵は悪い効果が延長される]
時空魔法のこいつをかけてと。
みんなの周りに光の時計が現れて伸びて溶けていく。
みんなからの視線が『こいつマジか』というもので辛かった。
「はぁ、規格外だねえ……」
「今更ながらこいつに喧嘩売ってよく生き残れたな俺たち……」
「うんうん」
「性格やばかったらもう死んでるな」
「わ、わたしは、ローズさんのことを信じていますから……!」
そんな化物を見る目でこちらを見られても……!
まあジャンルとしては化物に近いかもだが。
そうこうしている間にも砦の全貌がはっきり見える距離まで近づいてきた。
天然の要塞が視界を塞ぐせいで近づいた時いきなり見えてくるような不可思議な気分にさせられる。
……要塞はもちろん木造だった。
「近くでみると、とんでもない威圧感だな……」
「見てくださいよ、修復もかなり済ませてありますよ」
「厄介だね……」
私は"鷹目"でさらにあちこち見回して見る。
どれもこれも穴が塞がれスキマがない。
見える限り警戒も厳重だ。
「うーむどうすっかなあ」
「うん……」
「さあみんな! ここからどう攻めるか考えてみよう。正面道は火が焚かれていて開かれた道。進行しやすいけれど、当然構えられている。パッと調べた所、横穴はない。上空からも、見張りと設置罠が見える。バリスタあたりで撃ち落とされるかもしれない。背後は崖。そちらは御存知の通り、他のグループが担当している。さてどうする?」
みんなの沈んだ気持ちを整えるために少し口出ししてみる。
はっとしたらしく口々に建設的な意見が出だした。
気持ちの切り替え程度にはなったかな?
どちらにせよ私達は歩みを止めよるわけにはいかない。
砦までの距離をどう活かすか……
ここで生き延び方がかわる。
私達は崖そばのくぼんだ地に来た。
「まさかこんなとくいわざがあるとは……」
「砦だからな、絶対あると思ったぞ」
ゴズが短剣をくるりと回す。
閉じられた扉が目の前にある。
……カンタンに言うと裏口だ。
本来の役目は砦で戦っている間民間人や貴人を逃すためにある扉。
ただすっかり使われなくなっていてサビていた。
ゴズが砦なら絶対あるこの地形ならココらへんに隠されていると話したのだ。
それをロッズが探知してウッズが探索し埋もれているのを見つけた。
自然に隠されていたがあるとわかっていて探すならば話は別だ。
「オレはよう、もともと遺跡とか、砦とか、建物の構造見るのが好きでよう、こういうタイプならなきゃおかしいと思ったぜ」
「ほんと、3人ともやろうと思えばやれるじゃん……なんでいままでくすぶってたんだか」
「うるせえ! なんつーか、腐ってたところに無理やり火をつけられただけだよ、どっかの誰かさんにな!」
「ですってローズさん」
「え、私?」
今の流れで振られるとは思っていなかった。
それにしても手際よく解錠していく。
普段からシーフ的な斥候能力が高かったんだろうなあ。
「おっ開いた」
「えっ、そんな簡単に開くもん? ここ砦の裏口なんだろ?」
「そう、元な。そんときならまず無理だろ。だが、今や廃墟。高級な魔法鍵なんかは回収するし、ショボい備え付けの鍵しかないんなら、オレの持ち前能力とロックピックで行けるさ。せめて砦の今いる持ち主が、この通路に気づいていやあ違ったかもな」
扉は古臭くウッズとロッズが力を合わせて重々しく開く。
ちゃんとメンテナンスされていない証だ。
古臭い中に水の流れる音がする。
なるほど王道ゆえにその利便性は確かなもの。
下水道だ。




