八百五十一生目 譲渡
短剣がスキマを縫うように裂いて。
槍が敵の剣を持つ腕を払い。
長棒がふっとばし。
両手剣がかちあげて。
ハンマーで叩き落とした。
「ちゃんとオーバーキルだなあ……いやしんではないけれど」
みんな捕縛が第一目標なのは覚えていたらしい。
地面に叩きつけられピクピク動き伸びているがちゃんとギリギリ生きている。
というか全体的にバンが調整したかな。
多分"峰打ち"系スキルだ。
ミアは完全に必死ながら柔軟流変を使って斬っていたから大体は気絶させるしかなかった。
……そう柔軟流変は弱点もある。
切れ味がなくなるのだ。
受けるときの切れ味もなくなるが斬る時の切れ味もなくなる。
ただ私は元々フラワーを作るさいに切れ味が薄い両手剣を選んでいた。
第1に切った張ったで血がドバドバ出るのは初心者向きではない。
第2に鋭く斬るのは上級者の技だ。
最初は両手剣をふっとばすための重量武器だと思っていてくれたほうがいい。
普段使いにも便利です。
剣が切れ味鋭いと農業やるにはちょっとねえ……
それに手とか危ないし。
なので攻撃力を跳ね上げ切れ味があんまりない型を選んで作ったらああなった。
まさか切れ味ゼロで扱えるようになるとは。
柔軟流変は切り替えられるからもし切り裂かないといけない相手に当たってもなんとかなるだろう。
ミアは急速にレベルは上がったもののまだまだ色々と追いついてはいない。
特に心は。同族殺しなんて経験をしないほうがずっといいのだ。
「みんなー、無事だったようだねー!」
「これが無事に見えるか!」
「返り血じゃねえぞ、オレの血だ!」
ミアは私が出てきて力が抜けたらしい。
フラワーの剣を地面へと刺し倒れ込んだ。
「勝った……? 本当に? 勝った……!?」
「うん、みんなの勝ちだよ」
「やった……! つ、疲れちゃった……!! でもまさか、あんなに簡単に倒せるだなんて、ちょっとお腹が痛かったのかな……?」
「多分そうではないよ」
「「弱くない弱くない」」
3人組が一斉に否定する。
うん別に弱くはなかった。
ミアがメチャクチャ強かっただけで。
みんな武器の力があるとはいえちゃんと勝てた。
これは良い出足だ。
私は全員に光魔法"ヒーリング"をして。
[トランスフォーエネルギー 相手に自分の行動力を譲渡する]
影魔法のこれでみんなの行動力を治す。
私から相手に譲渡だ。
「す、すごい……あっという間に治っていく」
「こんな簡単にマックスになっちまっていいのか?」
「おおー……やっぱそこしれねえなアンタ」
なぜか味方から若干ひかれつつも。
みんなの余計な体液を清浄し次へ向かうこととなった。
捕まえた彼らは後でまとめてつれていくのでしばらくは起きても何も出来ないようにしておく。
歩く道のりは先程までと同じでも1回でも接敵すると恐怖が違う。
じっとりと湿度をともなった空気感は土まで染み込んで。
みんなの歩みはどことなく重くのしかかっていた。
「まったく、アンタが手伝ってくれりゃあ、楽なんだがなあ」
「事前に言ったじゃないですか? 私はみなさんの査定側でもあるから、誰がどのように動いていて、活躍しているかを見守る係」
「そうですよ、傷やエネルギーや疲れまで全部治してくださったんですから、これ以上ないですよ」
「はは、はは……おかしいだろ……ぜってぇ……」
バンが何かぶつふつつぶやいているのはともかくとして。
こうしている今でも私は実は他のみんなも見ている。
[アイズナイトダーク 対象の影などに視界を確保する。外から見たとき、光を反射するような光が見える]
闇魔法だ。
ちなみに視界のみの確保とされているが多少いじれば聴覚や嗅覚もいけそうなのがわかった。
ただこれが大事なのは途中まではおおざっぱだということ。
今発動中で各地の状態がなんとなーくわかる。
今戦ってないなぐらい。
この魔法の真価は終わったときだ。
その時私は魔法と意識が同調して各地の情報が完全に理解できる。
まるで放ったスパイである。
そして……
今回そもそも情報は表に伏せていたが偵察時にヤバいものが見つかっている。
ニンゲンたちではない気配だ。
会議ではそこまで重視はされていなかったが……
近づいた今わかる。
神が潜んでいる!
もし組んでいたとしたら……想像以上にやばいぞこの依頼!
冒険者の初級と中級の間の壁は一説には自己強化ができるかどうかと言われている。
魔法未満ではあるが魔法のように自分を強化する方法だ。
行動力を体の特定部位に活性化させて動かし効率的に強化することで人並み外れたパワーを生み出す。
これには骨や筋肉の繋がりを理解していないとなんとなくでやるしかないので難しい。
まあそれを教えるのが道場だったりするのだが。




