八百四十六生目 一口
結局夜が深まるまで鍛錬は続いた。
私が木の影から奇襲し。
木の枝を伝ってトリッキーに襲いかかり。
岩場の影から飛び出して殴った。
正面から剣を受け止め驚かれた。
1撃ごとに生命力がミリ単位になるので毎度全回復させ。
スタミナが尽きれば魔法で治し。
集中力尽きれば魔法でただし。
たまに魔法も交えて緊張感を保って。
剣のユニーク能力もよくわかったし火の反射もいい具合に機能している。
攻撃力増加も流石なレジェンドレアの攻撃力増加だった。
凄まじい上昇具合。
ミアはもう泣かなくなっていた。
動きがガクガクと揺れることもない。
ただ口で大きく息を吐く。
「フッ!」
「……おお」
両手剣の光で私の拳光で受け止めていた。
今のは見ていたのか。
凄まじい成長速度だ。
私は向こうの攻撃を基本的に避けないようにして受けていた。
ただしガードは固めるからそうそう入らせないけれど。
ただ向こうのガードにわざわざ付き合うことはしなかったから今のはまぐれではない。
「は、初めて止まった……!」
「ここで休憩にしようか」
「はふぅ……つかれたぁぁ……」
ミアはへたりこんでしまった。
とはいえ全身ズタボロでよくやったとおもう。
特に受け身はよくなった。
「頭からの血を洗い落とすためにも、このあとお風呂にしようか」
「お風呂……?」
「あ、暖かい湯に浸かるんだよ。湯治って言うんだよ」
「へえぇ〜……これは?」
私はそうこう話しつつ事前に作ってあったものを亜空間から取り出して渡す。
ドロドロとした液体状のものだ。
「え? なんなんですかこれ? 茶色で、くさい……毒物ですか?」
「気持ちはわかる、気持ちはわかるんだけどね……ところで突然だけれど、今日で攻撃を受けるとどこが痛むのかみたいなのわかったと思うけれど、胸を殴られてどこが痛んだ?」
「え、ええ、まあ……殴られた瞬間は殴られたところが痛いんですけれど、そのあと中がすごく痛くて、肺がぎゅってなり、骨が揺れて……」
「うんうん、もう大丈夫」
ガタガタ震えだしたのでやめとこう。
「それで……?」
「うん、まあわかったとおり、攻撃は内部への被害も大きい。なにせ結局のところ、自身の中に巡る生命力は内部を守るために活性化している。そのおかげで簡単に致命傷には至らないんだけれど、その致命傷は出来得る限り防がないと、命がいくつあってもたりない。というわけでこれ」
「えっと……話が見えないんですけれど……まさか!」
「うん。多数の薬成分をうまいこと配合した、ホル……お医者様お墨付きの薬。作ったのは別のヒトだけれど」
ホルヴィロスも効果は認めるが私だって効果がなきゃこれに近いものは接種していない。
飲むにしても順番とかがあるらしい。
これは最初の方の薬だ。
元々は異常に内臓が強いという魔物の種族が薬効として薬剤配合したのが始まり。
割と私もアノニマルースが出来てからもらっているし私も研究しホルヴィロスも医学的見地でサポートさてくれた。
まあようはサプリメントだよね。
「ええっと……どんな効果が?」
「これはそもそも、傷ついた体の中身を癒しながら作り変えていくものだね。筋肉とかは疲労したあと回復すると強くなるという、超回復とかいう名前の効果があるんだけれど、内臓はそんなふうには鍛えられない。だから、内臓も鍛え、骨や肉も鍛える、そんな力があるんだ。いやニオイはほんとひどいけれど」
たしかにまあ毒の親戚みたいなものだ。
だから適量飲む必要がある。
ミアが顔から滝のように汗が流れ出す。
「あの、言っていることはとても怖いのですが……」
「まあね、気持ちはわかる。けれど、今後のことを考えると、使わないわけにもいかないから。冒険者は多かれ少なかれ、なんらかの方法で内側も鍛えているし、しかも内側を鍛えるのは普段の生活でも健康に過ごせるからね」
えーっと適量はこのぐらいだったかな……
私は薬液を指先で持つような小さい容器に移し替える。
スプーン1杯というやつだ。
じわりとしめった嫌なにおいがただよう。
「あ、あの、今その薬動きませんでした? 何か半分以上固形みたいな……」
「だいじょうぶだいじょうぶ、私も飲んだからね。ただ、飲む時は鼻に指で閉じて、息をしないで飲んだ後、水で流し込んでね」
「それ大丈夫じゃないものですよね!?」
わあわあいってても進まないので早速やることに。
覚悟を決めてやってもらうことに。
「いくよ……」
「おねふぁいします!」
ミアは鼻をつまんで声が詰まっている。
覚悟は済ませたらしい。
私がそのひとかけらをミアの口にそっと流し込む。
こういう時はひとおもいにやったほうが良い。




