八百四十五生目 力差
私達は準備を整える。
これもまた1つのレクチャーだ。
あちこちお店を巡って必要品を買い集める。
その後に時間指定通りに到着。 ここは門前。
物々しい雰囲気がいかにもこれから戦うことを表していた。
「では改めて作戦を伝える。我々冒険者はこのまま徒歩で賊の砦まで接近し、わざとそこで一泊する。そして敵の見張り交代などを見計らい捕縛や排除。出来得る限り数を減らし、内部に侵入し、戦闘段階で兵のみなさんが表から猛攻をかける。ゆえに、パーティーごとに配置や侵入ルートを変えて、敵に本当の規模を悟られぬようにし、ギリギリまで逃げられなくする。質問は?」
冒険者のリーダー風貌の男性がそうとりまとめる。
すると声と手が上がった。
確かあの声は先輩冒険者の女性だ。
「連絡手段はどうなってるの? まさか、敵の陣地でのんきにのろしを上げるわけにもいかないよね?」
「大丈夫だ。支給品の中、各班1つずつ程度に、連絡用腕輪がある。詳しい使い方を知らないものは後で教えるが、淡く輝かせる効果を持つ。赤は危険。指定ポイントまで撤退、緑は問題なし、白に点滅で敵とコンタクトなど、細かく切り替えられるのがポイントだ」
覚える必要はあるものの念話よりみんな使えて便利なものだ。
意外と多岐にわたり意味合いをもたせられるため斥候係や中衛は必死に覚えている。
とはいえやはり1番つかうのはさっきの3つだが。
また発光のする通信仕組みも単純でお安くできあがるのが腕輪の特長。
値段の多くは腕に巻き付けるベルト部分だ。
「よし、出発するぞ! 今日のうちにテンションを上げすぎないようにな!」
「「うおおおおーー!!」」
話を聞いているのかいないのか。 みんなの叫びがこだました。
その日の行軍は特にトラブルは起きなかった。
というか起きたら怖いわこの人数で。
だいたい内輪揉め確定じゃないか。
総勢武装したメンバーが30から40?
遅れて兵も後から来るのだからこれでもかっていうほどの戦力だ。
戦争へ行くには心許ないが兵士やら騎士崩れの1団を相手にするにはまさしくパワープレイが可能。
ただしそれも相手が野原にいてくれる場合だ。
私達が距離はあれどある程度接近し良い隠れ場所に潜めて夜を迎えるころには目で見た詳細が把握できていた。
相手は頑強な砦に引きこもっている……
正確には外に出ているメンツや警戒して巡回している面々もいる。
うーんただの盗賊ならこんなに規律を守った動きはしていないからやりづらいったらない。
やはり数人帰ってきていないのはバレている。
じゃなきゃここまで現場がピリピリしていないだろう。
元砦だったところを占拠して改造しているという情報はまさにそのままだった。
「悪い意味で想定どおりだな。向こうは規律だっていて、警戒されていて、砦はほどよく小さくめちゃくちゃ頑強に固められている」
「魔法的なトラップと補強も見受けられました。完全には看破できませんでしたが……少なくともこのまま正面に向かっても、全滅するだけでしょうね」
「ま、だからこそのオレたちなんだが」
冒険者たちは互いに情報を積極的に出し合っている。
私は出来得る限り見守るのみだ。
口出しもしない。
それよりも私は……私達は用事がある。
「ミア、準備は大丈夫?」
「はい……でも本当にやるんですよね?」
「もちろん、今のままだとさすがにね」
私とミアは少しみんなと離れた位置で向かい合う。
ここは岩場や木にならせれていない地面。
つまり自然の地形そのまま。
「実践さながらで経験を積む……んでしたね。私の力量を鍛えるために」
「本当は階段飛ばしみたいなもので良くはないかもしれないけれど、私という相手そのものが経験が稼ぎやすいはずだから、それで素早く力量を上げていくよ。ただ、さっきも行った通り……」
「……わたしには、覚悟が求められる。そうでしたね」
ミアは深く息をはく。
そして一気に吸い上げ前を向いた。
良い顔をしている。
……私を使ったパワーレベリング。
逆に言えば死ぬ寸前まで追い詰めて最悪死んでも復活させて。
そして向こうは死なないように必死に私に立ち向かう。
なんか本来のパワーレベリングとはかけ離れている気がしないでもないけれど私に傷をつけるだけで効率が良い。
さあこれからレベル上げの時間だ。
私という理不尽が1番の経験値なのだから。
「それじゃあ、その剣に慣れるためにも、私に全力で向かってきて。行くよ!」
「は、はい!」
ミアが蒼と翠の花……フラワーを掲げる。
私はそれに対して。
横に駆けた。
「えっ!?」
「まずその1。地理を使う!」
私は訓練時神力は使わないしても手は抜かないようにしている。
多く縛るがそれでも絶対的に力の差を見せつける。
それこそが経験につながるのだから。




