八百四十四生目 討伐
私が乗り込みたいのは山々だが私ひとりで他の冒険者たちのシゴトを奪うことになる。
それはよくない。
この様子だと外回りの兵も出るみたいだし出来る範囲での総力だろう。
うーんだったらこういう時にあくよ……ではなく利用できる規則はなかっただろうか。
頭の中で精査し思い出す。
なにせ聞きたいこともあるしニンゲンもいるし冒険者たちの練度もだいぶ気になった。
騎士のような者はひとりで民草を薙ぎ払う力量差があるといわれている。
特に今の領主組に反するほどだからなぁ。
「うーん……」
「というわけで、依頼の方は冒険者たちに出すことになっています。我々と冒険者たちが総力をもってあたれば、おそらく陥落はするかと。なんとか我々が準備を整えて――」
「そうだ! 使えそうな規則……じゃなかった! 良い仕組みがありまして、これなら大丈夫ですよ!」
「――砦を、おおおお? 一体どうなされたので?」
ギリギリ思い出せた……
これなら問題なくやれる。
私は顔がにやけないように気をつけながら相手に目線を向ける。
「仕組みがあるんです、冒険者に。初心者冒険者が依頼を受けるさいに、管理側としてついていくことが出来るんです! しかもそれは、冒険者ギルドからの申請でつけられる!」
「おお! それなら! いやしかし、冒険者ギルドが貴方に依頼するかどうかは……」
「そこなら大丈夫です。今私が見ている子がいるので、ゴリ押しで通します」
「は、はぁ。ならば、それでお願いしたい。正直、戦力は不安だからな……」
「問題があるとすれば……いえ、大丈夫です。うまくやります」
そう問題があるとすれば。
初心者に上級者がつくさいは教えに徹することとなる。
つまり私は緊急時まで手出し禁止となる!
「というわけで初心者冒険教室の続き、実践編に移りたいと思います」
「「うおおおおおー!!」」
あの後ギルドに移りギルドマスターたちは説き伏せた。
街からの依頼で緊急依頼として発行するため渡りに船だったらしい。
私への報酬はないようなものだけれど内部での信用値や実績に大きく影響するらしい。
緊急依頼による招集ということでテンションの低かった冒険者たちが一気に盛り上がっていた。
私に期待されても困るけどな!
なにせ見守るからだ!
「これなら単なるうまい依頼でしかねえな」
「砦攻めだなんて怖かったけれど、なんとかなりそうだねえ」
緊急依頼は実質上該当冒険者は全員参加になる。
一応強制力のない義務だ。
任意同行くらい強制力はない。うん。そういうこと。
やらなかったときの後からのあれそれのほうが恐ろしいわけだ。
別に参加して「実力不足なので下がってます」は通じるので本当にとりあえずいくしかない。
まあ場合によっては街とか地元の村が崩壊するので緊急依頼は行くしかないのだやはり。
あとニンゲンによっては数が多いことに良い反応を示さない。
数が多いということは取り分もそこそこであり何より目立たない。
大勢の1になってしまうことで冒険譚を謳われたいタイプにとって内申点稼ぎ程度くらいの意味合いしかないのだ。
「みなさん! ローズオーラさんはあくまであなた達を見守る立場ですよ! 多くのことは自力でこなしてもらうことになります」
「「はーい」」
完全に面倒な命懸けからランクダウンしている。
果たしていいのか悪いのか。
少なくとも「もう勝ったな」とかいうのが聴こえてくるのは違うと思う。
かなりゆるいのはともかくとして。
さっきまでは変に気負ってピリピリしていたから良くはなっている。
あとは現場につくさいに適度な緊張感を保つだけだ。
ニンゲン対ニンゲンの戦い……
命懸けなのは変わらないのだから。
冒険者ギルドはそれでいいとして。
私は広場の方に戻ってきた。
ミアと合流する。
「こっちはだいぶ売れましたよ! みなさん好評でした。ちょっと見たこともないくらい稼いでいるのですが」
「それはよかった。この後の動きが決まったから、お知らせしようと思って」
「そうなんですか! それはもしかして……わたしをさらった相手の本拠地へ?」
敵に関してのことで声が一気にざらついた。
恐怖もあるし怒りもある。
だがそれ以上に力を奮い立たせ立ち向かうべき悪を見据えたときのような。
そんな殺意の声。
「うん。冒険者で奇襲をしかけて一気に崩す。ミアの参加は?」
「もちろんやります。ローズさんにもらった力と命、無駄にはしません」
「大丈夫、気負わなくても、私がサポートする。ボコボコにして人質を助け出そう!」
「はい!」
やはり初陣ということもあってすごく気張っているなあ。
それに相手は因縁の相手ではある。
ここで解決できることそれ以上ののぞみは無い。




