八百三十九生目 付与
精錬塊のできはやはり後半のほうが安定して高い。
さて売るほどできたがこのままでは投げて使うぐらいしか用途はない。
まだ加工していくぞー。
「これらって何に使うんですか?」
「武具を作ろうかと思って」
「へぇー、器用なんですね!」
冒険者たちや兵の武具を"観察"するに木をベースに固めた土や宝石それに金属が足される感じのようだ。 木に土を混ぜ込んで根をはらせ……と一見しただけではわかりにくい技工がある。
魔力的な仕組みやスキルの使い方それにレシピ……
結果的に金属に負けず劣らずの力を持つ武装になるのだ。
気は抜けない。
作りたいものは想定できている。
結局私はユニークなものが出来るほど鍛冶に精通していない。
既製の型を想定して打つ。
材料に角を砕いたものとか私の血混ぜポーションだとか必要そうな物をたしていく。
1発目できれいにできるとは思っていないので気軽に。
打ち方は台が教えてくれる。
「はぁっ……! よしっ。あれ、作るものが変わりました?」
「うん。これから本格的に打っていくよ」
「そうですか! では、わたしも本格的に……!」
ミアさんは見る限り筋は良い。
このままやっていけば伸びるだろう。
特にまだ何もバトル面では知らない段階で我流に走らずに済んだのが大きい。
とはいえ私も流派なんてないけれどね。
それでもちゃんとした相手から学ぶことも多いから私自身の冒険者として純度を高め続けているものからは得られる成分があるはずだ。
私が魔物ではあるとしても結局根がかわらないからね。
なんなら私はそこまで剣は得意武器じゃない。
使えないと言わないように必死に食らいついているだけで。
剣ゼロエネミーに任せたほうが強いとしても私が具体的に思想し操れることでやはり強さの差異はでるし。
技の違いでなまくらにでも斬鉄にでもなりうるというのは実感上わかる。
そうこうしている間に1本目出来上がり。
「うーん……」
悪くない。失敗はしていない。そのぐらいかなあ。
昔は1つできたら出来たーっ! となったが比較対象ができて流石に違いがわかってきた。
「すごい! 立派な剣ですね!」
「うーん、でもなぁ……もうちょっと突き詰めたいなあ」
兵士たちがまだ私を見ても何も言わないということは報告することはまだということ。
さあカーンカーン……じゃなくコーンコーン響かせましょうか!
とりあえず同じ型ならどんどん目に見えて良くなっていった。
なんかとあるところで私の鍛冶レベルが上がったらしい。
鍛冶スキルないのに!
つまりコツを掴んだ。
より難易度が高く複雑で見てくれ以上にしっかりした剣まで出来るようになった。
さっきまでのは練習素材たちだったというのもあるかもしれない。
もちろん剣だけではなく軽鎧にあたる胸当てとか肩から腕を守るためのものとかも。
ただこっちは作ってみてわかったのだが……軽く作るのが結構難しい。
やはり木とかより革とか鱗が便利。
というわけで時折ここを離れアノニマルースの在庫を引っ張り足りないものはアノニマルース競売場で落とした。
鍛冶の範囲は超えている気がするがこれは『鍛冶だ』と魔法的に認識させることにより行使可能。
裏技だし普通は普通にやったほうが早いからひみつだよ。
魔法技術がまあそこそこ優れていてこういう発想があり簡易鍛冶キットに慣れていればまあうん。
ガンガン作っていけばさすがにそろそろ納得の行くものになってきた。
要領よくやれるのは昔から得意です!
上限叩くのも無理だけど! まあこの簡易キットはそもそも上限叩くものではないけれど!
正直ある程度できればそれで良い。
こっからが私としての本番だ。
鍛冶セットをしまって手早く別のものを配置していく。
中に幾何学模様の描かれた宝石。
書類4つ。
設置杖として壺型杖。
地面にも煌めくマットを引く。
準備完了だ。
「また様変わりしましたねー。これは一体なんなのですか?」
「付与術の準備だよ。これからこの武具たちに、効能を付与していく」
魔法は私の分野とはいえ……
付与術は失敗の多いジャンルだ。
さまざまな技法はあるものの個人的に信頼感の多いものでやることとする。
ランダム性が高く星の運と呼ばれているものをこちらで必死にコントロールし強力な付与を施さねばならない。
しかも困るのは1回ついたら剥がせないこと。
逆に言えばかけ直しとかが必要ないということだが。
一時的に付与する魔法とか材質から組み上げてそういう性質を与えるアクセサリー系の手法もあるがこの付与術は何であれその対象が入る器いっぱいまで入る。
ただしどんな効果がついたとしてもだ。




